日々記 観劇別館

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『オトコ・フタリ』感想(2020.12.20 13:30開演)

キャスト:
禅定寺恭一郎=山口祐一郎 中村好子=保坂知寿 須藤冬馬=浦井健治 須藤由利子(声)=大塚千弘

先週の初日に続き、再びシアタークリエにて『オトコ・フタリ』を観てまいりました。

この演目、良くも悪くも登場人物が当て書き感満載なのに加えて、シリアスな場面もあるとは言え全体的には軽妙でさらっとした展開なので、賛否両論あるようです。私自身は、『貴婦人の訪問』のようにハードでドラマティックな社会派物語も、『レベッカ』のごとくスリルとサスペンスに満ちた物語も、そして『マディソン郡の橋』のような濃密な男女関係のドラマも好きですが、今回の『オトコ・フタリ』のようにライトで胃もたれしないお話もたまには良い、と考えています。

前回の観劇は2列の下手寄りという実質最前列でしたが、今回の座席は後方の下手ブロックでしたので、舞台全体を見渡すことができました。ひとつ大きい変更点は、2幕の恭一郎さんの大福粉吹きの場所が、初日の下手側からセンター奥側に変わったことでしょうか。初日に下手側で吹かれた粉は、あっという間に天井の換気口に吸い込まれていっていたので、客席への飛沫のリスクは低そうですが、確かにセンター奥側なら客席側に飛ぶ率はより低そうに思います。

さて、脚本の展開を知った上で1幕から観ると、恭一郎さんが1幕でいかに真実を語っていないかがよくわかりました。饒舌に語っているようでいて、肝心なことは巧妙に隠蔽されています。例えば「忘れるために記録する」のなら、忘れてはいけないことはどうするんだ? とか。また、好子さんは語ってすらいません。

真っ正直な言葉を語るのはトンマくんこと冬馬くんのみ。このお芝居では、欺き合って生きてきた男女の、砂糖菓子ならぬケーキと紅茶でできた仮初めの幸福を覆すには、冬馬くんの真っ直ぐさが極めて重要な役割を果たしている、と2回目にして実感しました。しかも彼のコメディリリーフぶりの素晴らしさ。客席にも笑いを呼んでいましたが、何度か他の2人も笑いを堪えていたようにお見受けします。

今回心に響いた台詞は、好子さんの
「彼は女を虜にする魅力……魔力を持っている。その寂しさに女は惹かれる」
でした。これはもちろん好子さんの恭一郎さん評なのですが、どう考えてもファン一般の、演じる方に対する評価でもあるわけでして。よく分かっていらっしゃる、とやはり思いました。しかし、いくら当て書きであっても、役者さんと役柄はやはり別人格ですので、そこは頭の中で「混ぜるな危険!」と肝に銘じたいと思います。

そう言えば初日の感想で『オトコ・フタリ』の音楽に触れることができていませんでしたが、劇伴の曲がとてもジャジーで大人の香りが漂っていて素敵でした。そして、挿入曲である「糸」と「Lemon」も。

多分しばらく「Lemon」を聴くと、劇中に直接姿は登場しなかった女性たちも含めてこの演目の映像がオーバーラップしそうです。ただ、挿入曲2曲がオリジナルではなく既存曲を使っているがゆえに、もしかしたら『オトコ・フタリ』のソフト化は難しいかも、と危惧しているところです。

早いもので上演期間は残り10日程度となりました。この情勢下でもあり、私が観に行くのは残り1回の予定ですが、引き続き、明日も、そして千穐楽まで無事に幕が上がることを祈っております。