日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』感想(2019.11.23 13:00開演)

キャスト:
クロロック伯爵=山口祐一郎 アルフレート=相葉裕樹 サラ=桜井玲香 アブロンシウス教授=石川禅 ヘルベルト=植原卓也 シャガール=コング桑田 レベッカ阿知波悟美 マグダ=大塚千弘 クコール=駒田一  ヴァンパイア・ダンサー=佐藤洋介

今期3回目、2週間ぶりのTdV観劇のため、帝国劇城に出向いてまいりました。初・桜井サラ及び佐藤影伯爵です。

まず、桜井サラについては何となくか細いイメージを事前に抱いていましたが、実際には箱入り娘で何も知らないがゆえの強さが際立つサラに仕上がっていました。沙也加サラが自分の若さと美貌が武器になることを伯爵に教えられる前から自覚して振る舞っているように見えるのに対し、自らの武器を無自覚に駆使しておりしかもそれが受け入れられて当たり前と思っている怖さが、桜井サラにはあります。歌声は線の細い所も見受けられましたが、かなり善戦していると思いました。

また、佐藤影伯爵。ダンスにどこか端正な香りがして、疾風のごとき開次影伯爵よりもだいぶ人外感が薄いような印象を受けました。ちょっと例えが難しいのですが、開次影伯爵が、彼が泣き叫んで暴れようとするのを抑えながら伯爵が内面に密かに飼い慣らしており、時に抑え切れずに解き放たれ、永遠にもがき苦しむ魔性だとすれば、佐藤影伯爵はかつては人間であったかも知れない伯爵の心の奥底に普段はひっそり黙って棲息している存在であり、時々自らの宿命を呪って慟哭するのを黙って伯爵が見つめているようなイメージを抱いています。全く違う個性を持った存在でありながら、それぞれに伯爵の影として見事にシンクロしている点に妙味を覚えました。

以下、他に印象に残ったことを綴ってまいります。

初日以来の相葉アルフ。初日にはまだ微妙に個性が薄い感じでしたが、だいぶ彼の色が出たアルフになっていました。

「彼の色」とはすなわち、学問はそこそこいけて(多分教授にもある程度評価されていて)彼自身もその自覚を持っていますが、どうしようもなくトンチキ、というものであると思っています。ちなみに2幕の霊廟の場面はTdVの公演が進むごとに、遭難しかけた教授と救出を試みるアルフの掛け合いのアドリブバリエーションが増えていくのがお約束になっていますが、今回は教授に「お前はジャンプしかできないのか?」と言われた相葉アルフは「実は僕は超能力も研究しているんです。超能力で助けます」と言って突如瞑想を始めた挙げ句に「あと2時間かかります」とほざき、結局教授に「ひとりでやれ!」と言われる流れになっていました。まさに「スットコドッコイの役立たず!」(誉めてます)。

それから、植原ヘルベルト。彼も、2週間前と比べかなり「長いこと友達との出会いが少なすぎたのと生来の純情おバカゆえに、愛があらぬ方向に暴走するが、父親には意外と甘やかされている美貌のドラ息子」な雰囲気を生成していました。

ドラ息子さん、1幕の初登場場面では伯爵から「我が息子も、嬉しいでしょう」と優しく歌いかけられた瞬間に、両手を胸の前で握り締めて「きゅん❤️」というポーズをしていました😊。

2幕での相葉アルフとの場面では、お風呂場で片足だけ素肌を見せて脚線美を披露。更に浜辺で戯れるカップルのようにパシャパシャとお水の掛け合いを試み、教授に逆襲された後もなぜかパシャパシャして反撃を試みていました。植原ヘルベルトはビジュアルを初代ヘルベルト寄りに仕上げているので、どうしても初代と比べられがちな所があり気の毒ではありますが、このままいい感じで彼の存在感を確立できれば良いと思います。

そして、上記のアルフやヘルベルトのチャレンジを果敢に受けて立つ、禅教授。フィナーレ直前まで芝居を回していくとても重要な役どころです。恐らくアルフに次いで他の登場人物との絡みが多いのではないでしょうか。あの妖精さんまで召還するマッドぶりも人間くさい俗物ぶりもひっくるめて愛すべき人物ですが、今期公演ではラストのあれがどうも遺影に見えてしまいまして……。最終的に教授がどうなったのかは知らない方が幸せなのでしょうか?

アドリブが充実していたと言えばシャガールパパ。劇中、マグダ襲撃直後の台詞によれば、日頃ガーリックを摂取していたからまだ人間の心が残っていたらしいです。でも2幕ではすっかりマグダとともに雑魚ヴァンパイア化していました。それにしてもヴァンパイア化したマグダのあの見た目はやはり怖いです😰。

最後に、祐一郎伯爵。初日の頃に比べてメイクが薄めになるのと反比例して、お芝居は全体に濃く、メリハリが増していると感じました。例えば1幕でのサラを誘う場面! あれだけ力強く熱烈に煽りまくりながら誘惑されたら、大抵の恋に恋する娘さんは落ちて当たり前だと思います。

あと1幕の教授とアルフの入城時に「ようこそ……こんな出会いを待ち続けた♪」と伯爵が歌う声が、尋常でなく人外感に溢れていて背筋がぞくぞくしました。

「抑えがたき欲望」では佐藤影伯爵との組み合わせは初見でしたが、前述のとおり伯爵が心の奥底に押し込めている無声の慟哭、そして深い悲しみと諦念が2人で1人の伯爵により描き出されていました。

自分が山口さんの舞台を見始めた十数年前は、人外感溢れる超然とした役どころが多かったのですが、最近は人間味の強い役どころを演じることが増えてきていたので、実のところクロロック伯爵のように前者に該当する山口さんを観るのは久しぶりのことです。そのためか、伯爵の超越者的な面が人間性に裏打ちされることにより、一層魅力的に見えて仕方ありません。

 

なお幕間のクコール劇場は、今回はまずクコールから、勤労感謝の日に働く自分への応援お手伝いありがとう、のお礼の言葉が。そしておもむろに流れだした「僕こそ音楽」(『モーツァルト!』)のインストルメンタルにのせて、クコールが白いカツラを被り目隠しをしておもちゃのピアノっぽい何かをガシャガシャと弾き、「このままのクコールを、愛してほしい~♪」と朗々と歌い上げるというものでした。TdVでは普段はせっかくの駒田さんの美声が聴けずもったいないので、たまにこういうネタがあると嬉しいてすね。

カーテンコールはヘルちゃんの振付指導ありのもので、赤いハンカチを忘れず持ち歩いていて正解でした。

次にTdVを観るのは帝劇楽の予定です。どうか無事にお城に行って見届けられますように。