日々記 観劇別館

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『パリのアメリカ人』感想(2019.2.23 13:00開演)

キャスト:
ジェリー・マリガン=松島勇気 リズ・ダッサン=近藤合歓 アダム・ホックバーグ=斎藤洋一郎 アンリ・ボーレル=小林唯 マイロ・ダヴェンポート=宮田愛 マダム・ボーレル=佐和由梨 ムッシュー・ボーレル=味方隆司 オルガ=木村智秋 ミスターZ=金久烈

劇団四季の初演ミュージカル『パリのアメリカ人』をシアターオーブまで観に行ってまいりました。

 

まず何よりも、とにかく舞台の絵面が綺麗で惹きつけられました。背景に映る画像・映像、大道具、小道具で表現されるパリの街並みや生活文化も、しなやかで華麗なバレエも、一つ一つがパリの風景の美しい瞬間を鮮やかに切り取った見事な絵として構成されていたと思います。

パリには一度も行ったことがありませんが、ちょうど『ブラタモリ』パリ編で、せせこましく不潔な都市だったパリを近代の都市計画で美しい町筋に大改革した話を学んだところでしたので、ことさらに強く風景の美しさを感じたのかも知れません。

 

物語の舞台は第二次世界大戦後間もなく、ナチスドイツの支配から解放されたばかりのパリ。光る実力を持ちながら、ある事情のため足枷をはめられてしまっているバレリーナのリズと、彼女を愛することになった3人--歌手志望のフランス人アンリと、2人のアメリカ人、画家のジェリーと音楽家のアダムとが、紆余曲折の末にそれぞれの歩む道を見出すまでのドラマ、と書いてしまうと単純に過ぎますが、ガーシュウィンの華やかでありながらどこか哀感を帯びた楽曲にのせて紡がれる物語は何ともほろ苦い味わいでした。

そして何と言っても劇団四季なので、歌もバレエも質が高く、安心して大船に乗った気持ちで観ることができました。大船に乗りすぎて1幕終盤のバレエパートで睡魔に襲われてしまいましたが😅。特にヒロインのリズ。作品の出来はリズ役者さんの技量次第のように思いましたが、近藤合歓さん、素晴らしかったです!

ちなみに今回、ジェリー役の松島さんとボーレル氏の味方さん以外は初見のキャストでした。と言うか四季自体『ウィキッド』以来ご無沙汰していたような……? アダム役に以前東宝ミュージカルにも出ていらした俵和也さんがキャスティングされ、実際に出演もされているようなので、そちらもちょっと見てみたかったな、と思っております(もちろん今回の斎藤さんも素敵でした!)。

 

以下、若干のネタバレがありますのでご容赦ください。

リズは婚約者を決して愛していなかったわけではないと思いますが、戦争のために相手への余計な義理や恩義が生まれてしまい、知らず知らずのうちに相手への気持ちが純粋なものではなくなっていたところに、彼女に一目惚れしてぐいぐい心に潜り込んでくる異国人が現れたため、これまた無意識のうちに心を解放してくれるかも知れない彼に惹きつけられていってしまいます。

恐らくあの戦争、そしてあのホロコーストさえなければ、多少の身分や信仰の違いさえあれど素直に婚約者と結ばれていたに違いないし、しかもリズの恩人たちも戦時中の反体制活動を戦後大っぴらに口にできないなんて……と考えると、一応ハッピーエンドではあるものの、フランスを苦しめた戦争の影が色濃く落ちていて、決して底抜けに明るいとは言えない結末です。

しかし、2幕クライマックスでリズが自らの気持ちに決着をつけるために臨むバレエ公演が、多少なりとも観客を救ってくれます。これは一種の劇中劇だと理解していますが、リズが共に踊るパートナーはいつしか彼女が真に求めている相手に姿を変え、群舞は彼女の心の動きを象徴するかのように華麗でダイナミックに変化していきます。それらを支えるのがダンサーの高い技量であることは言うまでもありません。

 

この物語でひとつだけ物足りなく思ったのは、2人のアメリカ人、ジェリーとアダムがどんな心境で母国に帰らず異国の地に残ったのか? が割と曖昧に片付けられているところです。

もちろんパリは芸術家にとって憧れの花の都であり、また、彼ら以外にもマイロがハイソなコミュニティの中で強かに泳ぎ回っているように、そうしたことはさほど珍しい話でもなかったのかも知れませんが、彼らも戦争で心に一定のダメージを負っているらしきことが端々で匂わされているので、それぞれに異国の地で芸術の夢に、そして1人の心に屈託を抱いた美しい娘に何故あそこまで強く惹かれたのかがもう少し明確に描かれていれば良かったのに、と考えずにはいられませんでした。

なお個人的にジェリーにあまり共感が湧かず、最後まで自らの本心を胸にしまい続けたアダムや、愛ゆえに身を引くことを選んだアンリについ気持ちが寄り添い気味だったのが、上記の思いに繋がっているようです。とは言え、ジェリーの強引なアプローチが彼女の心を救ったんですよね……。まあ、仕方がないかな、とは思っております。

 

以上、『パリのアメリカ人』の感想になります。しばらく劇団四季は観られていなかったのですが、また観たい! と思わせてくれる舞台でした。

次に観に行ける舞台は日生劇場4月公演、東宝の『笑う男』でしょうか。3月も何か観に行けると良いのですが、本業多忙、そもそも手持ちチケットもないので今のところは未定です。寂しい!