日々記 観劇別館

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『髑髏城の七人 極 修羅天魔』感想(2018.4.8 14:00開演)

キャスト:極楽太夫(雑賀のお蘭)=天海祐希 兵庫=福士誠治 夢三郎=竜星涼 沙霧=清水くるみ カンテツ=三宅弘城 狸穴二郎衛門=山本亨 ぜん三=梶原善 天魔王/織田信長古田新太

友人からの誘いを受けて、IHIステージアラウンド東京にて、『髑髏城の七人 極(ごく) 修羅天魔』を観てまいりました。
最寄りの豊洲新市場も未だ完全オープンに至らず、とにかく何もない場所、と聞いていたので、月島駅のおむすび屋さんで軽く腹ごしらえしてから劇場入りしました*1
この劇場も初めてですが、実は髑髏城シリーズ自体初見なのです。
なので『修羅天魔』には他の髑髏城シリーズに登場するメインキャラクターが登場しなかったり、同じ名前でも人物設定が異なっているキャラクターが存在したりする、と聞いてはいても、元々の髑髏城シリーズの骨格ストーリーを知らず、「比べる楽しみ」という点では少し損をしているかも知れません。
もっとも『修羅天魔』もひとつの独立した演目として作られているので、バリエーションを知らなくても存分に面白く堪能することができました。

新感線の演目の含有要素として、ミュージカル、音楽劇、ストプレ、新喜劇、歌舞伎、そして剣劇などがあります。それらの多要素がぜいたくに盛り込まれたお芝居を、プロジェクションマッピングや回転客席でショーアップして見せてくれます。劇団☆新感線をあえてカテゴリ分けするならジャンルは? と今回少し考え込みましたが、やはり「新感線」というジャンルの演劇、あるいは「いのうえ歌舞伎」という歌舞伎であるとしか考えられません。

訳が分からないことを書いてしまいましたが、とにかく様々な要素の詰め合わせで、各要素の完成度が高く洗練されていて、しかも楽しいのです。
例えば敵役である髑髏党の幹部のひとり、宮毘羅の猛突(くびらのもうとつ)にハラシンさんこと原慎一郎さんがキャスティングされていて、何故? と思っていましたが、1幕中盤で納得しました。猛突、もうひとりの幹部で右近健一さん演じる迷企羅の妙声(めきらのみょうせい)と部下とともに歌う歌う。「普通の芝居の中で突然ミュージカルが始まる」というシチュエーション自体は笑いのネタとして良くありますが、ネタ場面でありまがらミュージカルとしての完成度が本気なのが新感線の恐ろしい所だと思います。

今回の『修羅天魔』は上演時間が3時間45分(うち休憩20分)という長丁場でしたが、観ていて全く時間の長さを感じない演目でした。
開演すると観客はデーモン閣下のロックな歌声に乗せられながら、360°回転する客席をぐるりと取り囲む関東荒野、弱者やマイノリティがありのまま弱みをさらけ出して生きていける無界の里、鉄砲鍛冶の工房、そして敵の本拠地髑髏城といった戦国のケレン味たっぷりの世界に取り込まれます。
回転客席と360°円周舞台の感想としては、「これ、大道具出しっ放しでいいんだ、凄い!」とまず思いました。また、「走馬灯のように過去を回想する」や「複数の場面を短時間で切り替える」といった映像的な演出をまさか舞台で見られるとは思いませんでした。たまに、客席が回っているのか、それとも幕に映る映像が回転しているのかが判然としない時はありましたが。この劇場、新感線以外の演目でも使いこなせるんだろうか? と少し心配ではあります。

物語の核になるのは謎に満ちた天魔王とクールビューティーなスナイパーお蘭との情の駆け引きですが、彼らの関係はかなりミステリアスに描かれていました。天魔王と家康、どちらの言葉が正しいのかによってお蘭と天魔王の関係性が全く変わってきて、しかしどちらに転んでも2人の戦いは避けられない運命として糸に手繰り寄せられ、最後の最後に直接対決でようやく真実が明らかに……! というクライマックスまで引っ張る展開はさすがです。
天魔王の自滅のきっかけとなった最後の行動については、正解ではないことを覚悟の上で示した天魔王自身の真情だったのか、あるいは本当に勘違いだったのかはよく分かりません。ただ少なくとも私は、前者であったと信じています。だからこそお蘭もああいう形できっぱりと決着をつけざるを得なかったのだろうと思うのです。

骨子のストーリーはシリアスで血生臭く悲哀溢れるこの演目の中で一服の清涼剤となっていたのが、沙霧とカンテツでした。
髑髏城潜入の鍵を握る、賢く純粋で可愛らしくて度胸もある沙霧は、舞台に現れるだけでその場を明るくしていました。カンテツが戦場の臭いとは違う沙霧の匂いをたどって注文品を届けるというエピソードに象徴されるように、裏の世界に生きてきた他の登場人物とは全く異なる空気をまとった少女。清水くるみさん、はまり役だと思います。
そしてカンテツ。何と言ってもカンテツ。コメディーリリーフにして実は最大の危険人物のような気がします。最初出てきた時素で三宅さんとは気づきませんでした。ブラックな笑いをさらいつつ、与太郎的ボケで憎まれず、ここ一番では恐るべき実力(若干の怪我の功名もありますが)を発揮するという複雑なキャラクター。登場するたびに客席の爆笑を誘っていました。これもまた、三宅さんのはまり役であり当たり役の一つだと思います*2

他の登場人物も魅力的でした。
とりわけ、夢三郎の悪の華、それから意外にもマトリックスな大暴れを見せるぜん三に目が行きました。兵庫の純朴さ、二郎衛門の腹の中の見えなさ加減、あと二郎衛門の御庭番である清十郎の渋さとキレの良さ(川原正嗣さん好演!)も印象に残っています。
竜星涼さんの、愛に飢え父親を追い求め、父親のためなら手を血に汚すことも全く厭わない夢三郎は美しかったです。あと10年早ければ吉野圭吾さん辺りもイメージぴったりだったかも? と思いながら観ていました。
兵庫と夢三郎の関係はもっと掘り下げられていても良かったように思います。夢三郎は太夫に身をやつしている時から既に、徹頭徹尾自分自身(そして父親)のことしか見えていないのですが、兵庫からは無界の里の象徴のように扱われ憧れられていたわけで。その関係性が強ければ強いほど、裏切られ同胞を失った悲しみもまた深くなるのではないでしょうか。

久々の新感線演目、とても楽しかったです。
豊洲は自宅からは電車の乗り換えが多く、決して近いとは言えませんが、駅にも劇場にもバリアフリーな設備や配慮があるので、安心して出かけることができました。
今年は引き続き新感線がキャストを変えながら『メタルマクベス』のロングラン公演を行うそうです。秋頃に浦井健治くんが出演するとのことなので、願わくば観に行きたいところではありますが、さて、チケット取れるかなあ。

*1:豊洲駅周辺まで行けばもちろんたくさんお店がありますが、足の関係でなるべく歩きたくなかったので……。

*2:他の『髑髏城』でも同じ役を演じられていたようです。