日々記 観劇別館

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『メタルマクベス disc3』感想(2018.12.15 18:00開演)

キャスト:
ランダムスター/マクベス浦井=浦井健治 ランダムスター夫人/ローズ/右近B=長澤まさみ レスポール Jr./元きよし=高杉真宙 グレコ/マクダフ柳下=柳下 大 グレコ夫人/シマコ/林=峯村リエ パール王/ナンプラー粟根まこと 右近/医者=右近健一 エクスプローラー/バンクォー橋本=橋本じゅん レスポール王/元社長=ラサール石井

 

豊洲IHIステージアラウンド東京にて、『メタルマクベス disc3』(以下、「メタマク」)を観てまいりました。

実はメタマクは全くの初見。ヘヴィメタルの重厚なサウンドがドンスコドンスコと耳とお腹に響きまくる中、時たま役者さんにより少々歌詞が聞き取りづらい場合もありましたが、休憩時間を含めてちょうど4時間、質量ともにかなり見応えのある演目でした。

ストーリーは聞き知っているシェイクスピアの『マクベス』をほぼ踏襲しています。

舞台は2218年、戦国の世。道に迷った猛将ランダムスター(ランディ)の前に現れた3人のゴスロリ魔女達の予言とともにもたらされた、1980年代の幻のヘヴィメタバンド「メタルマクベス」のCDが、ただ職務に忠実に生きてきたランディとその愛妻の運命を狂わせていきます。

過去と現在を行き来して紡がれる物語が、展開につれ次第に時系列が錯綜していき、1980年代のマクベス浦井と2218年のランディの犯した悪行と転落とが同時進行で語られるとともに、マクベスのマネージャーであるローズとランディの妻も、自らの罪深い所業を背負いきれずに精神が過去と現在との間を往来しながら錯乱し、狂気を極めていきます。

結局、舞台上では1980年代の「彼ら」の最期については明言されていません。しかし、バンド「メタルマクベス」が遺したCDのラスト曲はインストゥルメンタルです。これが「ヴォーカルがいなくなる」ことを暗示しているのではないか? と終演後に思いついてしまい、しばし慄然としました。まさに「呪いのビデオ」ならぬ「呪いのCD」。メタマクは一種のホラーと言えるかも知れません。

ランディ夫妻もマクベスとローズも、最初はまあ、ささやかな日常の幸せを尊ぶ「普通の人々」だったんだろうな、と思います。その普通の人々が予言に踊らされて変貌していくさまを、浦井くんは天使からデスボイスまで縦横無尽、変幻自在の七色の声で、そして艶々お肌と美脚が麗しい長澤さんはツンデレからヤンデレまでのジェットコースター的転落を巧みな表情と立ち居振る舞いで(しかもローズとランディの妻とで堕ち方、狂い方が微妙に違う!)、激しく動き回りながら見事に演じ切っていました。

特に『マクベス』のマクベス夫人が血まみれの手(幻覚)を洗い続けるエピソードは誰がやっても本当に怖いんですが、今回夢遊病になったランダムスター夫人が幻覚に取り憑かれる場面は、右近さん演じるお医者と門番のビビりぶりに笑いながらもかなり恐ろしかったです。映画『蜘蛛巣城』で山田五十鈴様が演じられた浅茅(マクベス夫人)のただならぬ狂気ぶりを思い出しました。

シェイクスピアの『マクベス』は、権力を握る器ではない者がたまたまささやかな野心にかられて手にしてしまった権力が、結局は王権神授説に従ってそれを握るに相応しいと神が認めた者の元へ還され、バンクォー(エクスプローラー)やマクダフ(グレコ)の妻子ら犠牲者の魂も報われめでたし、という物語だと思っていました。

メタマクも、途中まではそんな雰囲気で展開していき、ラサールさんのレスポール王も、高杉さんのレスポール Jr.(王子)も、そして王子に従う柳下さんのグレコ(マクダフ)も、まさにそのテンプレに沿ったキャラクターを演じています。しかし最後の最後に衝撃的などんでん返しがあり、魔女の予言通りの結果とは言え、結局はたまたま生き残った「普通の人々」が焼け跡で何とか立ち上がって生きていくしかないのだ、と思い知らされるのです。元々はランディ夫妻も「普通の人々」だった筈であり、世界を生かすも殺すも所詮は普通の人々の手に委ねられているということか、クドカン脚本恐るべし、と愕然としながら劇場を後にしました。

それにしても新感線の公演は、無論演じる側もかなりの体力を消耗すると思いますが、観る側も相当に気力と体力を使います。観劇後の呆然とした心持ちを立て直すのに結局一週間かかってしまいました。いや、師走につき本業も忙しかったというのも大きいのですが。

 

以下、蛇足ながら。

2幕のとある場面を観て、「トートダンサーズに追い詰められてるのにいつまでもトートが来てくれないルドルフ」と思ったんですが、あれはもしかして初演では「トートダンサーズに追い詰められるトート」だったんでしょうか?

あと、今回の演目は18時開演、22時終演でした。今回は都内を運転できる同行者がいたので車で高速を飛ばして帰宅できましたが、これ、都外からの日帰り観劇には微妙にきつい上演時間です😅。新感線は今回がステージアラウンドでのラストステージのようですが、もうちょっと何とかならないかな、と思いました。