日々記 観劇別館

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『エドウィン・ドルードの謎』プレビュー初日感想(2016.3.27マチネ)

キャスト:
支配人/トーマス・サップシー市長=山口祐一郎 エドウィン・ドルード=壮一帆 ローザ・バッド=平野綾 ネヴィル・ランドレス=水田航生 ヘレナ・ランドレス=瀬戸カトリーヌ クリスパークル牧師=コング桑田 ジョン・ジャスパー=今拓哉 プリンセス・パファー=保坂知寿

エドウィン・ドルードの謎』のシアター1010でのプレビュー初日を観てまいりました。
率直な感想から申しますと、プレビューはあくまでプレビューであって、まだできあがった作品ではないのだと実感しています。
全体的にテンポがまだ良くないという印象です。支配人殿と他のキャストとの間に繰り広げられるボケツッコミや、壮さんの軽快な関西弁混じりのヅカネタ、平野さんのアニメネタや今さんの変態ネタ、そして山口さんの赤いマントの○○ネタなど、一発ギャグは笑えるのですが、一つ一つのネタが濃すぎて全体のテンポを間延びさせてしまっている気がしました。
あと、Twitterなどで観測していて出てくる「ネタが分からん」というのは私自身はあまり気になりませんでした。
ただ、途中で、原作者ディケンズがこの物語を書いた時に『エドウィン・ドルードの消失』とかエドウィン・ドルードの復活』エドウィン・ドルードの逃亡』とか『エドウィン・ドルードの失踪』*1とかのタイトルも考えていたんですよ、という台詞が出た時、
「それって涼宮ハルヒじゃないの?」
と思いましたが、あれが史実だったのかハルヒネタだったのかが今一つ良く分からず悩んでいます*2 *3
それから、パファーが支配人に「支店長」と呼びかける場面がありましたが、あれが単に言い間違いだったのか、あるいは元ネタがあったのかがよく分かりませんでした。

作品の構造としては、例えば、
山口祐一郎演じる劇場支配人ヤマグチが、人手が足りず仕方なく市長を演じる」
「板の上で『客席の投票や拍手に右往左往させられるカンパニーを演じている』筈の役者達が、思わぬ展開にいつしか素でうろたえていく」
のような二重三重の構造で虚実の境目を曖昧にするという試みはとても面白いと感じました。
山口さんについて語りますと、常々山口祐一郎という役者には虚実の境目が曖昧で、時々簡単に踏み越えてしまうという印象を抱いていますが、今回の舞台では本当に軽々と踏み越えていたように見えました。もちろんあくまで「そう見えた」だけで、実際にはあのウザ可愛い支配人を演じ切るには大変な熱量とテンションとを必要としていると思われますが。
他の役者さん方も実に膨大な体力と強靭な精神力を要求されていると思います。特に今さんとか(^_^;)。そして今ジャスパーに追い回される平野ローザもなかなか大変そうです。

音楽は、あまり記憶に残っていないのですが、高原紳輔さん演じるバザードのソロナンバーが、意外にも!良かったです。(演出家さんが一緒にお仕事している)StarSに入りたいネタは個人的にはどうでも良いのですが、このお芝居ではプリンシパルとアンサンブルの別を問わず全てのキャストに遍くスポットが当たるという事実を象徴する一曲でもあります。
このナンバーの時に支配人殿がバザード(を演じる役者)に、
「デビューから主役を演じる役者など滅多にいない」
と語りかける場面があるのですが、その滅多にいない役者(しかもタイトルロール)の1人だった山口さんに語られてもあまり説得力がないねえ、と思いながら聞いておりました。

このお芝居については特にネタバレは避けたいと考えていますが、固有名詞を出さずに差し障りない範囲で少しだけ。
1幕に異色の男性ペアによるダンスシーンがあります。普通の組み合わせであれば流してしまって良い場面ですが、私的には衝撃かつ笑撃でした。
また、犯人投票など物語の展開組み合わせパターンが「288通り」ある、とチラシなどに書いてあるのを見て、何故そんなに?と思っていましたが、組み合わせを決める分岐点が劇中にたくさん用意されていました。数字に弱いのでパターン数の掛け算はできませんが、分岐点は概ね次のとおりだったと思います。

キャスト一同の挙手による決定(2分岐)→客席からの拍手(8分岐)→客席からの投票(7分岐)→客席からの拍手(4分岐(7分岐かも))の結果と拍手(6分岐)の結果によるペア決定

途中の客席投票では、自分も最初投票しようとしていた登場人物が選ばれて、予測通りな感がありましたが、最後のペアについては「稽古場で出たことのなかった初の組み合わせ」ということで、漂うやけくそ感も相まって客席の爆笑を呼んでいました。
ちなみに客席投票は幕間に行われると思い込んでいましたが、上記の分岐が全て「2幕後半」で行われる関係上、正に上演中に行われます。投票券はアンサンブルキャストや係員が巡回してきて回収します。シアター1010は2階席もあるので回収に人手が必要ですが、ほとんどが1階席のシアタークリエであればもう少し手早く回収できるのではないかと思われます。

というわけで、ちょっと冗長な感じは否めなかったものの、無事プレビュー初日が幕を開けました。
カーテンコールでは演出家の福田さんが客席から呼ばれて登場し、座長山口さんとハグしていました。
シアタークリエでの本公演では、より良い作品になっていることを心より願っております。

*1:Twitterでご指摘をいただいたので修正しました。元の脚本でもタイトル候補への言及があるそうです。そして修正前のは微妙にネタバレかも(汗)。

*2:ハルヒ自体にも元ネタがある筈ですがハルヒシリーズは未読です。

*3:追記:前出のとおり史実かつ脚本準拠で、ハルヒは無関係です。作品パンフのコラムにも「ディケンズがこの小説の題名として17の候補を考えているのだが(中略)「蒸発」「失踪」などの語が多く見られ、結局「謎」に落ち着いた」という解説がありました。