日々記 観劇別館

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『エリザベート』感想(2015.6.20ソワレ)(その1)

キャスト:
エリザベート花總まり トート=井上芳雄 フランツ・ヨーゼフ=田代万里生 ルドルフ=古川雄大 ゾフィー剣幸 ルイジ・ルキーニ=山崎育三郎 少年ルドルフ=松井月杜

新生『エリザベート』。私の最愛の死神さんがいなくなった今季の上演ですが、作品としては大好きなので、一度は観ておかねばなるまい、ならば花總シシィは外せないし、トートは井上くん、そしてルキーニは育くんだろう、と、チケットを確保して観てまいりました。

キャストがほぼ一新された新生エリザ。ストーリー、音楽、脚本、そして演出家は以前と一緒ですが、各場面の細かい演出があちこち変更されていました。気づいて覚えている限りの旧演出版との変更点は別にまとめるつもりですが、以下、ひとまず観た感想です。一部、新演出の軽微なネタバレが含まれていますがご容赦ください。

2005年以降何度かエリザを観ていますが、こんなにストレスの溜まらない観劇は久々でした。他のキャストで観ていませんが、少なくとも今回のキャストは皆さん安定しており、安心して芝居の世界に浸れる上手さだったと思います。

まず、花總シシィ。代々のシシィは少女時代の場面にどこか、大人の女性が無理しているイタさが漂っていましたが(元々その違和感を取り繕うような演出になっていない)、花總さん、そんなにイタくなかったです。
歌も声質に嫌味がなくて綺麗なので、耳への触りも優しく、素直に聴くことができました。
花總さんのお姫様にはどこか和の香りが漂っているように感じられますが、それはオーストリアのお姫様であるシシィの雰囲気とは実は少し異なるのかも知れません。
でも、高貴な人の華やかな気品と美貌の下に潜む、気位の高さに裏打ちされた意思の頑なさ、孤独感、そして自己以外の者への酷薄さがこれでもかというぐらいフィットしていたと思います。ああ、このシシィなら、最後は人手を借りずに脱皮するよな、と得心。
特に、2幕の「僕はママの鏡だから」でのシシィ、もう本当に心が折れて、何もかもに意欲を失い投げやり、かつ息子の感情を受け止め切れていない感で満たされており、出色の演技でした。ルドには酷すぎる対応だけど、このシシィの精神状態なら仕方ねえな、と納得せざるを得ません。
更にルド葬儀で現れた姿が魂の抜け殻そのもので、ここでも息を呑みました。そうか、その時はやむを得なかったとは言え人道上取り返しのつかないことをしたと自覚すると、人間こうなるのか……気をつけよう、と思わぬ所で身に染みました。

次に井上トート。
トート降臨の演出が旧演出から少し変わったのですが、実は、井上くんが降臨してきた時、
「あ、トートだ!」
ではなく、
「あ、芳雄くんが○○背負って降りてきた!(しかもカートリッジ式!)」
と笑ってしまいました。あまつさえ駄目押しで、今年晩秋に同じ劇場に降臨予定の某伯爵を連想し、笑いを堪えて口元を押さえて震える始末。井上くん、ごめんなさい。
ちなみに、舞台に降臨した井上トートを見た第一印象は、
「黄泉のプリンスから代替わりしたてでまだ修行中(あるいは研修中)の帝王」
でした。そのまんまや!
まだ修行中のためか、人外オーラはかなり薄いです。でもちゃんとトートとして舞台の上で生きていました。「死」だから生きてはいないけれど。
これまで割と、黒く振る舞っていても根っこは白い役どころの多かった彼の黒い演技を見たかった自分的には、このトートは結構歓迎しています。
井上トート、シシィを愛しているというよりは、手練手管で彼女や周囲を翻弄し自分に傾倒するよう追い込むこと自体に愉悦を覚えているように見受けられました。これぞ青い血のなせる業。
個人的なお気に入りは、2幕闇広ラストで見せてくれた、してやったりの残忍な微笑です。かなりぞくぞくさせられました。

ここで少しだけ旧演出を振り返らせてもらいますと、山口トートってやはり特殊な存在感を示していたと思います。あの、声から、指先から、そして背中からも滲み出る人外オーラは、尋常ではありませんでした。あんな不器用な役者さんなのに(そこ余計)。

で、井上トートには何となく、山口トートの血筋を感じました。どこが?と問われると上手く答えられないのですが、あの、様々な布石を打ってシシィが生への執着から解放されるのを待ちながらも、どこかで「愛」が成就して楽しいゲームの時間が終わるのを惜しんでいるような所とか。
あるいは、井上トート、実は正式にトートとして認められる為の仮免試験中で、その試験対象がシシィだったりして?と考えてしまいました。シシィとキスして眠りに就かせたら、はい合格おめでとう!先代トート達が祝福に出てきてめでたく楽隠居。

……と、アホな妄想ばかりしていたら長くなってしまいましたので、残りの感想は後ほど次の記事にて。