日々記 観劇別館

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『シャーロック・ホームズ アンダーソン家の秘密』感想(その2)(2014.1.25ソワレ)

キャスト:
シャーロック・ホームズ橋本さとし ジェーン・ワトソン=一路真輝 アダム・アンダーソン/エリック・アンダーソン=浦井健治 ルーシー・ジョーンズ=昆夏美 スレニー/ヒルトン/警官/アレックス=石井一彰 ベラ/エルシー/家政婦/マギー/エマ/キャサリン=宇野まり絵 マックス/エイブ/警官/チャールズ=竹下宏太郎 レストレード=コング桑田 ポビー・アンダーソン=大澄賢也

感想その1はこちら

初めに、前回の感想その1にも書かせていただいたことに少し補足を加えた注意点です。

  • ホームズにつきもののビクトリア朝文化、シャーロキアンネタは知見ゼロで、また、その辺のネタのツッコミには関心がありません。ただ「ワトソン女性説」があったことは聞いたことがあります。
  • BL要素は関心ゼロではありませんがホームズネタでそっちを追求する気はあまりないです。
  • 物語の性格上ネタバレは極力回避しますが、警告なしに一部登場人物や展開の核心に触れることがあります。

というわけで、感想その2です。

まず、前回の感想で、オリジナルのホームズの人物像の変更はあまり気にならなかった、と書きましたが、実は1つだけ気になった点があります。
女性を忌避しつつ聡明な女性へのリスペクトを惜しまなかったオリジナルホームズなら、事件の真相をどう思っただろう?という点で。
あの事件は、同情の余地こそ大いにあれ、女性の後先考えない、愚かしいと言われても否定できない行動さえなければ、少なくともああいう顛末は辿らなかったわけでして。
色々とやかましい現代の、女性客が多いと想定され、その上にワトソンが「女史」である芝居の脚本で女性へのマイナス感情を顕わにすることは難しかったのかも知れませんが、その辺りを今回のホームズがどう捉えていたのか、あまり伝わってこなかったのが残念でした。
ただ、あの事件は深く愛されていながら屈折故にその愛情を正しく受け止めることができていなかった男性、そして、死んだも同然な心持ちを抱きつつ、女性への愛に殉じ、女性を前向きな生に導くために虚像を重ね続け、ついにそれを全うした男性の「愚かしさ」にも深く起因しているので、そう言う意味では「女性の(男性の)愚かしさ」というよりは「人間の愚かしさ」がこの作品には描かれていたと思います。そして、虚像を守り完成させるために尽くされた賢い人間の知恵に対する、ホームズのリスペクトも。
深い哀しみとともに人間として究極の輝きを湛える犯人の“passion”、そしてそれでも真相を暴かねばならず苦悩するホームズの“passion”が、それぞれを演じたキャストの熱演により、深く伝わってくる演目でした。

以下、個々のキャストの感想です。ネタバレ回避なので、ごく簡単に。

  • さとしさん:感情の浮き沈みの激しいホームズを、役に全く振り回されることなく熱演していたのは流石です。ソロナンバーでは失礼ながら、さとしさんがあんなに屈託のある、しかも歌唱力を要求される歌を見事にこなすなんて!とすっかり感服。すみません、元バルジャンをなめてました。前回も書いたとおり、ホームズ、さとしさんの当たり役の1つになるんじゃないかな?と思います。
  • 一路さん:凛としていて才女で、でも守銭奴で朴念仁ではなく人並みに過去もあり、という女性を見事に演じていました。この演目のナンバーは、一路さんの声にも合っていたと思います。さとしさんと同じく、当たり役の1つになりそうな予感がします。
  • 浦井くん:全く性格の異なるアダム(兄)とエリック(弟)の二役が本当に見事でした。二役でそれぞれ声色を変えてスイッチしながら歌うナンバーで『ジキル&ハイド』を思い出しました。しかもスイッチ歌唱ナンバーが、「アダムの証言」と「エリックの証言」の2つの場で、似たような状況で内容が微妙に異なっている上、他の方の歌と同様メロディーも複雑なので、こりゃ大変だ、と思いながら、いつもの如くすっかり彼の歌と演技に引き込まれてしまいました。
    アドリブには相変わらず弱いなあ、と思いました。1幕でエリックが、
    「アダムはボクシングのチャンピオンでした(でも自分はそうではない)」
    と語る場面でさとしさんから、チャーンピオンね!とアドリブを仕掛けられて、ほえ?とにっこり固まってる姿を見ながら、かつてTdVのアルフレート役で教授役者の皆さまから仕掛けられて同じ様に固まっていた様子を微笑ましく思い出しておりました。
  • 昆さん:清純で時に切ない高音の歌声が良いです。脚本と演出の効果が大きいのかも知れませんが、違うタイプの2人の男性から愛される役でありながら、「けんかをやめて 2人を止めて」的な嫌味な所が昆ルーシーに全くなかったのは凄いことだと思います。
  • 賢也さん:鼻持ちならない資産家は、もうこの方の独擅場だという印象です(^_^)。そして、その俗物の心に秘められた、誰かの影として生きて行く屈折も。
    本編ではダンスシーンがありませんが、カーテンコールではさとしさんに煽られて「サタデー・ナイト・フィーバー」の決めポーズを取ったり軽くダンスするなどしていました。
  • 一彰くん:自分が前回彼を観た舞台が2011年の『ロミオ&ジュリエット』でしたので、何だか彼を凶暴系・キレ系役者として認識しつつあるわけで、それはいけないなあ、と思うわけですが(^_^;)。それでも、彼の触れる者全てを傷つけそうな鋭敏な演技と、敏捷なアクションとは素晴らしかった、と言わせていただきます。
  • 宇野さん:元ガブローシュな方ですが、ガブローシュの舞台は残念ながら拝見していません。1幕で登場したベーカー街の部屋を借りようとした女性、1幕終盤のダンサーほか、それぞれの役で光っていました。ただ、彼女が演じた女性の1人が、いとも簡単に殺されてしまい、しかも扱いが非常に軽かったのはどうなんだろう?と少しだけ首を傾げました。
  • コングさん&竹下さん:レストレード警部とその部下(竹下さんはその他多数)。舞台の虚構と現実(客席)の繋ぎ役として、さりげなく重要な役割を果たしていたと思います。

実は、韓国発ミュージカルというのを観たのは今回が初めてでしたが、構成もしっかりしていて音楽も聞き所がたくさんあって、思いの外良いものを観られて良かったです。
ただ、パンフレットにも脚色の説明があったとおり、韓国のオリジナル版そのままを日本に持ち込むと色々説明不足な点があるのかな、と思いました。本国では説明なし、音楽や演技の良さで行けても、日本では脚本上理屈が通っていないと難しいとかそういう違いがあるのではないかという点が気になっています。オリジナル版を観ていないのであくまで想像ですが。
再演あるいは続編の上演があるようなら、また観たい舞台です。