日々記 観劇別館

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『ロミオ&ジュリエット』感想(2013.9.14ソワレ)

キャスト:
ロミオ=柿澤勇人 ジュリエット=フランク莉奈 ベンヴォーリオ=尾上松也 ティボルト=城田優 マーキューシオ=水田航生 パリス=加藤潤一 死=中島周 キャピュレット卿=石川禅 ロレンス神父=安崎求 モンタギュー夫人=鈴木結加里 モンタギュー卿=ひのあらた ヴェローナ大公=中山昇 乳母=未来優希 キャピュレット夫人=涼風真世

シアターオーブでロミジュリの再演を観てきました。
以前も書いたとおり、オーブは音響があれで、3階席の手すりで嫌な思いをしたことがあるので、あまり印象の良い劇場ではないのですが、今回は1階席で、また、劇場に行くために渋谷の雑踏を抜けなくても良いという利点にも気づいたので、素直に行くことにしました。音響はもう諦めるとして、それ以外に難がなかったわけではありませんがそれは最後に記します。
例により、軽いネタバレあり感想です。あと、自分でも嫌になるぐらい、キャストへの萌えとか思い入れに乏しいので、「○○くんカッコいい!」という要素が薄い中身で本当すみません。

演出は、初演から大きい変更はなかったと思います。唯一、ラストの「赤い十字架」が初演時にあったかどうか、自信がありません。確か、初演のラストはブルーグレーのイメージだった覚えがあるのですが……。
衣装には若干の変更がありました。と言っても気づいた喜ばしい点は、ロミオ衣装の変な大きい襟がなくなっていたのと、乳母の牛柄ドレスがなくなっていたぐらいです。アニマル柄は健在でした。
あとスマフォとFacebookのある世界観も健在でした。あの小道具は、私自身はある重要な一場面を除いては、スルーしようと思えばできるので別にいいんですが、初演時にあれを誉める声を本気で聞いたことがなかったので、
「演出家さん、何故それに頑なにこだわる?」
というでっかい疑問が消えてくれません。

さて今回、自分の中で初演キャスト、特に育三郎ロミオ、浦井ベンヴォーリオ、上原ティボルト、そして石井・良知マーキューシオの占めるウェイトがかなり大きかったが故に、再演キャストが彼らを凌駕してくれるのかどうか、かなり不安でした。
結論。凌駕こそしていませんが、かなり拮抗してくれたと思います。
柿澤ロミオ。実は1幕で最初に登場した時は、
「歌は上手いしお顔も端正だし、お坊ちゃんのロミオらしく品も良さそうだけど、地味でぱっとしなくて面白味がないな」
と、かなり無礼な印象を抱いていました。しかし、その地味ロミオが、舞踏会でジュリエットと出会った瞬間、表情も歌声も別人のように輝き始めたのを目の当たりにして、
「ごめん!あれ演技のなせる技だったんだね!」
と反省した次第です(^_^;)。
この場面以降の柿澤ロミオは、徹底的に恋に浮き足立つ、可愛らしい王子様でした。初演の育三郎ロミオのような「未熟が故の愚かしさ」はあまり感じられなかった代わりに、「若さ故の熱に浮かされる若者の揺らぎ」がひしひしと感じられるロミオだったと思います。
色恋沙汰にも人生の苦しみにも免疫のない、つるつると滑らかな王子様だからこそ、あんな風に人生の局面で簡単に極端な行動を取るんだよなー、と、大変納得の行くロミオでした。
そうそう、その柿澤ロミオ、1幕のバルコニーの場面で何か(多分スマフォ)を落としてしまい、あたふたと拾ってました(笑)。端正なのにどこか振る舞いが子犬っぽかったです。
あと、パリスを「ピンクゴリラ」と言ってましたが、あれは加藤パリスの回のお約束なんでしょうか(^_^;)?

ベンヴォーリオ。実はロミオ以上に初演の人が印象が強すぎ、その分不安がもっとも大きい人物でしたが、蓋を開けてみると、松也ベンヴォ、良かったです。浦井ベンヴォより少しだけ武闘派な印象で。それに梨園の方だけあって声も良く通って滑舌も綺麗でした。2幕の決闘場面でも、柿澤ロミオと声量がタメを張っていましたし。「どうやって伝えよう」は時々一本調子で緩急に乏しい所がないでもありませんでしたが、良いことにします。
水田マーキューシオは、初演キャストだと、石井マキュのイメージを継承していると感じました。特にやんちゃ坊主の情の厚さよりも狂気の底に秘めた情の深さが前面に出ていた点が。今季のロミジュリはリピート観劇予定がないので、他キャストと比べられないのが残念です。

そしてティボルト。
……ええと、個人的には、城田くん、ロミオよりティボルトの方が合っている気がしました。初演で観た彼のロミオは、
「精一杯大人ぶりつつも中身は若造で、激情に流されてしまうロミオに仕上げようとしたけれど、結局大人な部分が前面に出てしまっていて、あまりロミオらしさが見えない」
と感じていました。
城田ティボルトも大人ぶっているという意味ではロミオと一緒なのですが、どうしてでしょうね。ロミオのように大人達に振り回されておろおろ悩むのではなく、首尾一貫して大人達への憤りをエネルギーに燃え盛るキャラクターが合っているのでしょうか。
歌も、ロミオのナンバーよりも味わい深く聴けたように思います。
あ、ティボルトの見た目は、決闘シーンでその場にいた誰よりも派手でした(^_^;)。

この4人以外に印象に残ったのは、やはり中島さんの「死」。各場面に常に「死」の暗い影が寄り添い、闇に溶け込んでいました。ラストシーンを見る限り、「死」=神の使い、という解釈もできそうですが、途中経過を見ているとやはり「死」というのは理不尽で不条理で不気味な存在である、という気持ちでいっぱいになります。

それからキャピュレット夫人の涼風さんの安定感も半端ないですね。あの「女」丸出しのドロドロした怨念。初演の時は、娘に散々理不尽な人生を押しつけようとしておいて最後に劇的に改心だなんて、勝手な女だ!としか思いませんでしたが、今回は、
「彼女もきっと、この十数年、変わりたくて変わりたくて、チャンスを狙ってたんだよね、そうだよね」
と、どこか優しい気持ちで見守ることができました。

莉奈ジュリエット。Wキャストのくるみジュリエットが14日と15日のマチネ休演のため、3公演出ずっぱりの模様*1。初演の時のように、素で日々の成長を見守れるような初々しさはもうありませんが、彼女のジュリエットの清新さは変わらず安心でした。

ほかに禅さんの歌でもまた泣かされましたし、あの皆が手を取り合うラストシーンには途中経過がどうあれ涙ぐまずにいられないのですが、そこは照れくさいので省略します(^_^)。

カーテンコールでは、どうも柿澤ロミオが張り切ってハードに踊ってくれてたらしいんですが、私、当日は腰痛が最悪の状態でスタオベできなかったので、舞台をちゃんと見られておりません(T_T)。

蛇足。当日の座席は最下手側の通路寄りでしたが、ここ、下手花道の真上での演技が全く見えませんでした。最上手側も多分同じことになっていると思います。この席、500円でいいから割引してくれないかなー、と叶わぬことを考えてしまいました。

*1:追記。14日、15日はマチソワ公演で、16日もマチネ公演があるので、莉奈さん、5公演出ずっぱりでした!