日々記 観劇別館

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『ロミオ&ジュリエット』CD(山崎育三郎 ver.)感想

昨年上演の日本版(男女混合版)R&JのCD。3月14日に届いていましたが、名古屋行きなどでなかなかじっくり聴けていませんでした。

というわけで、遅ればせながらCDを聴いた感想です。
聴いて最初に思ったのが、
「この、ほーら、聴き手の心の琴線に触れるぞ、触れまくってやるぞ!とばかりに繰り返される、転調の美しいメロディーラインのあざとさ(良い意味での)と言ったら!」
昆夏美ちゃんの、清純で青臭くて力みのある発声が、若い頃の笹本玲奈ちゃんに似ている」
ということでしたが、生舞台を観た時の記事(2011年9月11日付け2011年10月2日付け)を再読したところ、既に同じようなことを書いていました(^_^;)。

CDの中で最も歌声を聴く機会が多いのは、当然主役2人であるわけですが、育三郎くんの甘〜い甘〜い声量たっぷりの歌声と、夏美ちゃんの純粋な芯の強さを感じさせる歌声とがマッチして、2人が中二病な愛に突っ走る程に、もう切なさ全開の音の世界が見事に作り上げられていました。
また、声だけで聴くと、「憎しみ」や「涙の谷」の涼風さんが怖かったです。怖いと言ってもホラー的な意味ではなく、声色にも歌い方にも渦巻く女のマイナス情念が怖い。他方で、女全開でありながら、どこか凛としている歌声がたまりません。
乳母役の未来優希さんは、声だけでも十分インパクト強烈でした。よく存じ上げなかったのですが、その後今年の2月におめでた(2月現在で妊娠5ヶ月とのこと)を公表されたそうで、おめでとうございます。R&Jの舞台であの鉄棒降りとか若者との格闘(笑)など、ハードなアクションをこなしている最中のおめでたでなくて良かったです(^_^;)。

2幕の「決闘」は、もっと良いオーディオ環境で聴きたい!と心より思いました。育三郎ロミオと浦井ベンヴォーリオの歌声のハモりがとにかく綺麗な上、良知マーキューシオ、上原ティボルトも加わっての歌合戦状態ですので。
ところで良知くんは前もどこかで書いた気がしますが、J事務所→四季→東宝という珍しい経歴の持ち主です*1。魅力ある歌声できちんと歌える役者さんなので、東宝で順調に役さえ付けば、もっと上に行けるんじゃないかとひっそり思っています。

なお、当然ながらCDは音の世界ですので、ダンサーである「死」の大貫さんや中島さんは残念ですが今回はいらっしゃいません。
それから、私はスルー力のお蔭であまり気になりませんでしたが、物議を醸したあの世紀末救世主伝説な街やコスチューム、特にロミオの何を狙いたいのかよく分からない白襟コスチュームも、CDにはありません。なので、あれらが気になった方でも、音楽と歌さえ受け入れられれば、CDならお聴きいただけるのではないかと思います。

以下はCDとは直接関係のない余談です。あらかじめ申し上げておきますと、ちょっと辛口です。

ロミオは、どういうわけか私は城田くんよりも育三郎くん派です。
実は育三郎くん、ロミオと『レ・ミゼラブル』のマリウス以外では、それほど演技が良いと思ったことがないのですが、この演目においては、ロミオの一途で甘ちゃんで愚かしく、感情の振り子が不安定なキャラクターに、甘ったるく響き渡る歌声も相まって、ぴったりフィットしていたと思います。
彼には、役によってムラの激しい、目指す役作りの方向性とその役に観客が期待するものが噛み合わない時は、とことん合わない役者さんだという印象を抱いています。私的には、マリウスやロミオは◎で、ヴォルフガングやアルフレートは×とは言わないまでも△でした。と申しましても、自分は彼が初役かつシングルキャストという舞台を観に行っていないので*2ダブルキャストな役者さんの影をどこかで引きずったまま彼を見ている傾向があり、そこは申し訳ない所です。

城田ロミオを一度だけ観た印象では、そつなく上手に役をこなしていて悪くはなかったのですが、そのそつなさ加減が未だに引っかかっています。
顔立ちは端正で、演技も歌も素直でそつないのです。けれどどこかインパクトが薄く、突出したものがなく、物足りないように感じられました。
これは想像ですが、城田くん、本人の中で「この役ではこうしたい」という理想像がきちんと出来上がっていて、しかもその像は少しの破綻もなく完成形として整えられているのでは?と思います。しかし、破綻がないということは、一方で、思わぬ方向へブレイクアウトする余地もないということでもあります。
ロミオやトート、その他の舞台で彼を見た限りのイメージではありますが、恐らく、割と器用で、立てた目標に見合った努力を重ねることで、目標にしっかり到達することができる人なのだと思います。ただ、到達したら、その地点に理想像を落ち着けて枠をはめ込んでしまい、それ以上のリスクのある冒険には挑まないのではないか?という印象も受けています。
せっかく容姿も能力も水準以上に持っているのだから、到達したレベルを破綻させず無難に保つことに専心するんじゃなくて、もっと挑戦してもいいんじゃないかな?と思ったのであえて苦言を述べさせていただきました。

*1:J事務所→東宝系な役者さんには泉見洋平くんもいますが、間に四季が入っているのは珍しいかと。

*2:嵐が丘』や『サ・ビ・タ』がそれであると認識しています。