日々記 観劇別館

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『雪やこんこん』東京前楽感想(2012.3.10ソワレ)

キャスト:
中村梅子=高畑淳子 久米沢勝治=金内喜久夫 秋月信夫=今拓哉 明石金吾=村田雄浩 三条ひろみ=山田まりや 光夫くん=宇宙 女中お千代=高柳絢子 立花庫之介=新井康弘 佐藤和子=キムラ緑子

先週土曜日、『ジキル&ハイド』マチネ観劇後に友人と待ち合わせ、今季2度目の『雪やこんこん』を観てまいりました。翌3月11日が東京千穐楽。今回は前楽に当たる公演でした。
実のところ、初日を観た際にはメガネを忘れてしまい、前方センター席なのにオペラグラスを使うという、新感線の公演やさだまさしコンサートでいじられる最前列の客かお前は!*1という状況で観劇する羽目に陥っておりましたが、今回はそのようなこともなく、しっかり舞台を見渡すことができました。

初見とは異なり話の展開が大体分かってしまっているので、最初に観た時のようなカタルシスこそありませんでしたが、自分で勘違いしていた箇所があったり、1回目にただ見過ごしていた場面の意味が分かってくすくすと笑えたりして、違う楽しみ方ができたように思います。
物語中で次々に繰り出される騙し合いが、やがて収斂され、ある1つの目的のために連鎖する大仕掛けとして成立するわけですが、どこもかしこも芝居口調の地口で彩られ、普通の口調の台詞が皆無の登場人物達の会話の中に、時々ふと本音らしきものがちら見えたりして、虚実の境目が単純ではない辺りがやはり面白いです。
そうした夢の世界の嘘の言葉で形作られているにも関わらず、人と人との繋がりの温かさを感じさせるストーリーも、この演目の魅力です。本来お芝居は1つの作品として時代を超えて一本立ちすべきものなので、あまり時事的に意味を問うのは野暮とは思いますが、それでも「今年のこの時期にこのお芝居を小屋に掛ける意味」を求めずにはいられませんでした。

また、お芝居の中にそんなにアドリブというのはなかったと思いますが、キャストの皆様、台詞の掛け合いやどつき合いのアクションが、初日観た時よりも格段にパワーアップしていました。
特に今さんと村田さん、そう言えば恐らく舞台で初顔合わせだったように思いますが、それを全く感じさせない息のあった芝居をまた見せてくれました。今さんはまた股旅踊りで、すらりとした足で軽やかにステップを踏んでいました。着流しの裾から時々覗く、きゅっと締まった足首が素晴らしいですね(^_^)。今さん、ラストで全員で化粧前に向かう場面で、実際は鏡なし、客席に向かい顔を拵えるエア化粧前なのに、1人だけドーラン、白粉、隈取りが綺麗に決まっているのが不思議でした。
そして高畑さんとキムラさん。座長と女将の顔合わせから最後まで、このお2人の共演シーンの度に前回をしのぐ台詞の応酬に明るい火花が散りっぱなしでした。キムラさんが登場するのはキャストの中でも最後、かなり出番が遅いのに、それを感じさせない強烈なキャラクターは流石です。

井上芝居は台詞が多くてしかも凝っていて、きっと役者さん方はなかなか一筋縄ではいかないのだと思いますが*2、演じている皆様が実に生き生きとして見えたので、これは演り甲斐があって大変だけど楽しい芝居に違いない、と思いました。役者冥利に尽きる芝居、ってこういうことなのだろうか、と演じたこともないのに考えたりして。こまつ座、今年の連続上演を、どれかまた観に行こうか、と思いながら劇場を後にいたしました。

*1:新感線の客いじりについては又聞きです。

*2:台詞を噛みかけた方がお2人ほどいらっしゃいました(笑)。