日々記 観劇別館

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『ロミオ&ジュリエット』感想(2011.9.11マチネ)

(キャスト)
ロミオ=山崎育三郎 ジュリエット=フランク莉奈 モンタギュー卿=ひのあらた モンタギュー夫人=大鳥れい ベンヴォーリオ=浦井健治 マーキューシオ=良知真次 キャピュレット卿=石川禅 キャピュレット夫人=涼風真世 乳母=未来優希 ティボルト=平方元基 ロレンス神父=安崎求 ヴェローナ大公=中山昇 パリス=岡田亮輔 死のダンサー=大貫勇輔

赤坂ACTシアターで『ロミオ&ジュリエット』を観てまいりました。ストーリーの骨子は古典のあの物語に忠実なので、元の話をご存じでない方以外はそんなに気にしなくても大丈夫とは思いますが、一応「ネタバレ注意」です。ただ独自の展開部分の核心には触れないようにしています。

R&Jはフランスミュージカルの慣例に従ったのか、単に人件費を省いたのかは分かりませんが、生オケ演奏はありません。それでも、あの、人の心の奥底に巣くうロマンティシズムをこれでもか、と刺激して引きずり出さんとするかのごとく、半音階で切なく畳みかけてくるメロディーは、聴く者の胸を打ちます。

この日本版の初日公演以降、
「舞台の街ヴェローナは近未来都市」
「登場人物がケータイを所持していたりFacebookを使っていたりする」
「ケータイの存在する世界なのに何故すれ違いが起きるの?」
等の「??」な設定が伝わってきており、また、Wロミオの衣装が真っ白で、しかも上着が、水兵のセーラー服の襟部分だけをトレンチコートに似た広い襟に差し替えたような不思議な形をしているなど、首を捻るような話ばかりが伝わってきていたため、どんな奇天烈なものが出てきても驚かないよう覚悟を決めて客席に臨みました。
しかし、実際の舞台ではそれらの設定は、私はさほど気になりませんでした。
確かにヴェローナは中世の都市ではなく、荒廃した未来都市の設定になっていたり、ロミオと親しい登場人物がケータイで連絡を取り合ったりというエピソードはありましたが、ロミオとジュリエット双方についてそれぞれ、ケータイを連絡手段として使えない(あるいは手段としては使えても、全く当てにできない)という伏線が張られていたので、物語展開にそれが影響を及ぼすことはありませんでした。じゃあそもそも物語にケータイが出てくる意味はあったのか?と問われたらそれまでですが。
ロミオの上着も、素の状態で見ると若干安っぽいようにも見えますが、舞台の上だとあら不思議、ほぼ違和感なく受け入れられました*1

演出は流石に品があったと思います。隅々まで装飾を怠らず、でも役者がレンジャー部隊のごとくアクションすることが可能なようにハシゴや鉄棒を多用した舞台装置は、小池先生の特色なのでしょうか。
また、場面ひとつひとつの構図が絵的に綺麗でした。特に主人公2人が並びで登場する場面。出会う前、出会いの瞬間、バルコニー、結婚式、寝室、そして霊廟。
中でも、2幕で結ばれた2人の寝台の上に、夜明けの柔らかな光に包まれながら天から「死」が静かに舞い降りてくる場面の構図の美しさといったら!ちなみにその後2人が目覚めて別れを惜しむ場面も、ひたすら丁寧に清らかに描写していて好感が持てました。育三郎ロミオの身体も筋肉が綺麗に付いていて……って、これは構図とは関係ないですね(^_^;)。

個々のキャストの感想にまいります。

育三郎ロミオ、1幕前半の女の子入れ食い状態なのに心も頭も空っぽ、でも日々お家同士の抗争に囲まれて暮らしてきたせいか、死の影への不安は人並み以上に大きいお坊ちゃまから、後半の刷り込みを受けた雛鳥のような愛に生きる少年への変貌ぶりが見事です。
2幕での育三郎ロミオがもう本当に純粋バカで天使*2で、自分とジュリエットしか見えていなくて、愛おしくて仕方ありませんでした。携帯メールをろくに見ない奴、という設定も、このバカな子ならあり得る、と自然に思わせてくれるロミオだったと思います。私的にあまりにロミオのイメージにぴったりなので、今度城田ロミオを観る時*3にパズルのピースが果たして上手くはまってくれるのか?と不安です。
今回のジュリエットはWキャストの2人とも新人さんの大抜擢。本日のジュリエットはフランク莉奈さんでした。
莉奈ジュリエットは所々発声に不安定な所があり、時に聴いていて椅子から落ちそうな声を出していることもありましたが、声量はそこそこありそうに感じられました。少なくとも「エメ」は先日のミュージカルライブで聴いたバージョンより気に入りました。清新な雰囲気はよろしいかと思います。

浦井ベンヴォーリオは客席下りあり、お笑いあり、ロミオとの絡みもダンスもソロナンバーもあり、となかなか盛りだくさんで美味しい役でした。喧嘩は弱いけど、考え足らずの跡取り息子と血の気の多い弟分に振り回されつつ、その空気感を幸せと思っている優しい兄貴分。ロミオへの強い思い故の行動が最後の悲劇の引き金を引いてしまったことを、彼はその後知る機会はあったのでしょうか。2幕で第一、第二の殺人が起きる場面での育三郎ロミオとのハーモニーが美しかったです。TdVでは浦井くんと育三郎くんとのWキャストなので、この2人のハモりを聴く機会がないのは残念に思います。
平方ティボルト、見始めた時は「上原くんじゃない方のティボルト」という大変失礼な認識しかなかったのですが、2幕が始まる頃には、歌えるし、色気もあるし、彼は彼でなかなか素敵じゃないか、と思うようになっていました。
ティボルトという役も、15、6の頃から女性には不自由しなかったけれど心にはずっとジュリエットが住み続けているという、かなり屈折したキャラクターで、役者さんに取ってはやり甲斐のある、やはり美味しい役どころだと思います。
良知マーキューシオは、やや童顔なことも手伝って、結構やんちゃ坊主な印象。ロミオ同様、こちらもはまり役過ぎて、Wキャスト石井くんのマーキューシオの想像が付かずに困っております(^_^;)。ロミオ、ベンヴォとのナンバー「世界の王」では見事にトンボを切っていました。流石元J事務所。彼を観るのは、以前TSミュージカルで観て以来2回目でしたが、今後もっと色々な役どころで観てみたいと思います。

印象深かったのは涼風さんのキャピュレット夫人。ねじ曲がった女の情念と業の深さ全開、娘に嫉妬メラメラ、でも最後に迎えた悲劇は誰よりも嘆き悲しんでみせる女。いくら自身の結婚生活が不毛で不本意なものであったとしても、あれだけジュリエットに酷いことをしておいて、それかい!このオカン、蹴飛ばしたろか、と言いたくなりました。なのに大鳥さん演じるモンタギュー夫人とのデュエットは大変に美しいのです。
そして禅さんのキャピュレット卿。ソロは2幕に1曲しかないのに、そのたった1曲で私の涙腺は決壊しました。何という歌力でしょう。

それから乳母の未来さん。客席のあちこちからヅカファンぽい方の「ハマコさん」「ハマコさん」という呟きが聞こえてきて、この方の実力への信頼を感じました。
実の母親以上にジュリエットを深く愛しており、彼女のために奔走し、宿敵モンタギューの縄張りでも堂々と立ち回る乳母を、男前にコミカルに情濃く演じていました。
善意に満ちているが故にジュリエットを悲劇に追いやってしまったという意味では、ベンヴォーリオと同じなのかも知れない、と今ふと思いました。これについては神父の安崎さんの役回りも同様です。
モンタギューとキャピュレットの両家がぶつかり合う場面を上手く引き締めていたのは、中山さん演じる大公でした。威厳ある態度で都市の支配者としてそこそこ尊敬を集めているらしく、しかし両家を和解させる程の力はないという微妙な存在としての、大公の重み付けのさじ加減が絶妙だったと思います。

そして何と言っても「死」のダンサー。ロミオに影のようにつきまとい、幸せな筈の場面にもさりげなく佇み、物語が終盤に向かうにつれその存在を色濃くしていく「死」。
終幕で彼が見せる姿は、やはり「死」の正体はあれだったという解釈でよろしいのでしょうか?遺された人々による「罪びと〜エメ」の合唱の聖なる響きと相まって、実に冷厳にして荘厳、それでいて泣かずにはいられない幕引きでした。

この日本版R&J、演出に賛否両論分かれるとは思いますが、少なくとも自分は好きです。もしかしたら何回か観ていくうちに、もっと欠点やアラも見えてくるかも知れませんが、何と言っても音楽が良いので許せそうな予感がしています。
作品としてももう何度か観たいですし、できれば城田ロミオでも観て比べたいのですが、諸事情によりリピート回数は限られてしまいそうです。

*1:意見には個人差があります。

*2:金髪なので余計に天使っぽいです。

*3:チケットを確保してあったのですが、諸事情により、観る機会があるかは現在の所未定です。