日々記 観劇別館

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『三銃士』初日感想(2011.7.17ソワレ)(全体篇)

(キャスト)
ダルタニャン=井上芳雄 アトス=橋本さとし アラミス=石井一孝 ポルトス=岸祐二 アンヌ王妃=シルビア・グラブ コンスタンス=和音美桜 ロシュフォール=吉野圭吾 バッキンガム公爵=伊藤明賢 ルイ13世今拓哉 進行役/ジェイムズ=坂元健児 ミレディ=瀬奈じゅん リシュリュー枢機卿山口祐一郎

『三銃士』の帝劇公演初日を観劇。リシュリュー猊下偏愛レポートは既に書いていますが、改めて、全体の感想を記してまいります。

お話は、登場人物のキャラクター造型が分かりやすくて、全く肩がこらずに楽しめます。特にダルタニャンがとにかく熱血でカラッポで単純な正義漢で、行動が分かりやすすぎて、そしてうるさい(笑)ので、彼の行動をじっと追っていれば、物語の概要は自然と目に耳に飛び込んでくる感じです。
また、物語には少々ややこしい背景、枢機卿がどうして国王を差し置いて宮廷を牛耳ってるのかとか、カソリックによるプロテスタントの排斥主義が戦争の原因のひとつだとか、そういう事情があるわけですが、そうした細かい説明は全部1幕と2幕の冒頭で坂元さん演じる進行役がさらりと語ってくれるのも分かりやすいです。2幕は「そこ、端折るかー!」とちょっとだけ思いましたが。
ちなみに坂元さんが最初出てきた時、一瞬判別できませんでした。全身が紫色になっていましたし。良く通る声が聞こえてやっと「あ、坂元さんだ」と気づいた次第です。
ただ、1幕の冒頭で街頭芝居のような小さな舞台が出てきて仮面劇の形式で始まったので(M.A.の風刺芝居みたいな感じの設えでした)、今年観た『ゾロ』のように劇中劇形式?とも思いましたが、2幕の同じセットにはとある登場人物が乱入してくるので、その辺の境界は曖昧です。
坂元さんはバッキンガム公の従者ジェイムズと二役でしたが、こちらも思い切り笑わしてくれ、かつ可愛らしいキャラクターでした。元体操選手でならした方だけあって、アクションの見せ場もしっかりあります。

主人公ダルタニャンは前述のとおり、憎めないおバカキャラ。井上くんがかなり身軽に跳んで跳ねてアクションしてくれて、もちろん歌も全く問題ないので、安心して観ていられました。
ロシュフォールとミレディはまさかあんなに早々に登場するとは思いませんでした。ショッカー枢機卿親衛隊隊長ロシュフォールは意外に出番が多かったです。別にオネエキャラではないのですが、黙っていれば格好いいのにヘタレで詰めが甘くて、父上ならぬ主君たる枢機卿にぞっこんな所が、どこかTdVのヘルベルトを思い出させてくれます。

花の都パリに出てきたダルタニャンと三銃士との出会いが、コントのようで笑わせてもらいました。3人ともはまり役だと思いましたが、特に石井さん。キザで伊達なアラミスがあんなに似合うなんて。
アトスさとしさんは舞台に立つとやっぱり、素の「気の良い大阪の兄ちゃん」のイメージが抜けて、格好良くなるんだなあ、としみじみ思いました。
そして、ポルトス岸さんは、役作りのため少々増量したらしく、ほっぺたがどこか丸くなっていました。更に巨大な肉布団をまとった上で、あのアクションをこなせるのは素直に凄いです。

殺陣は事前に売りになっていただけあって、観ていて迫力もあり楽しかったです。吉野さん、私とそんなに歳が変わらない筈なのに、何故そんなに敏捷なの?とひたすら見入っていました。銀橋(エプロンステージ)を使った演出も良し。

そして、リシュリュー猊下。前の感想でも述べましたが、1幕では厳かに職場である聖堂の中に初登場します。まさかあのスカした人が、1幕後半や2幕であんなことになるなんて(笑)。

ダルタニャンと三銃士の共闘関係誕生後、宮殿で国王夫妻ほか主要キャストが勢揃いする場面があります。原作未読なので、なんで身元は確かとは言え、一介の銃士候補生であるダルタニャンがあっさり宮廷に上がれちゃうの?という疑問はありますが、主要な登場人物はここでほぼ出揃います。
国王夫妻は今さんとシルビアさんのコンビ。特に今さんは、失礼ながらあまりフリルの似合うキャラではないと思っていたのですが(甘い系の役はM.A.のフェルセンで拝見済みですが、あの時の衣装はフリフリではありませんでしたし)、意外にフリフリキラキラスタイルを着こなしていらして、ライトなファンとしてはすみません、なめてました、とまたもや心の中で謝っておりました。つい1ヶ月前まで信念の人ジャベールを演じていた人と同じとは、とても思えません。1幕後半の狩りの場面では狩衣、クライマックスの舞踏会では礼服姿も披露されています。今回、2幕の1曲を除いてはお歌がないのが残念です。

シルビアさんは、あまり王侯貴族なイメージではないのですが、アンヌ王妃という人が過去の思い出を大切にしつつも情に流されない強靱な性格の持ち主なので、そういう意味では今回は適役なのかな、と思いました。前後しますが、首飾りを元彼のバッキンガム公に渡した後の、ミレディ、コンスタンスとのナンバー「愛こそが命」のハーモニーは流石でした。バッキンガム公とのデュエットでは明らかに公爵の声が負けていて気の毒でしたが(汗)。

それから、言わば物語の裏主人公であるミレディ瀬奈さん。個人的に、シシィよりこちらの方が合っていると感じました。ただ、男性と拮抗する剣の技量と情報収集力、そして悪知恵を有し、男性を軽蔑しながらも、詰めの甘さと心に秘めた思慕のために身を滅ぼすという展開が、私的には「女の弱さ・どうしようもなさ」を突かれたようで、少々辛かったです。

酒場でアトスが心情を語る「クリスタルの天使」ですが……。音響さん、お願いします。もう少し音声のレベルを上げてください。折角さとしさんが、あのキャストの中では貴重な、自然なロック歌唱を聴かせてくれているのに、1階R列サブセン席で声が聴き取りづらいのはどうかと思います。これはさとしさんだけでなく他の方、特に男性キャストでは皆同じ状況でした(次回直っていなかったらアンケートに書こうかと思っています)。
歌詞の内容は、「クリスタルの天使」ってなんてベタな例え、と思いつつ、割とあっさり系の『三銃士』のナンバーの中で、すっかりこのフレーズが耳にこびりついて離れません。

可愛いなあ、と思ったのはコンスタンス和音さん。原作設定だと確か人妻だった筈ですが、今回の舞台ではボナシューはあくまで借金のカタに婚約した相手という扱いなので(オランダ版やドイツ版でもそうかは不明)、ひたむきに純愛を信じる女の子のイメージで押していました。レミゼのファンティーヌの時同様、声量のある綺麗で清純なソプラノに好感が持てました。

コンスタンスとダルタニャンが愛を誓い、狩りの場でリシュリュー猊下が王妃を追い詰め、ダルタニャン&三銃士が王妃の窮地を救うため旅立つ所で1幕終了。

2幕はとにかく怒濤のごとく話が展開する上、リシュリュー猊下が本性を現してあんなことになったりこんなことになったりするので、息つく間もありませんでした。ロシュフォールもこまごまと暴れてくれて、美しい殺陣を見せてくれていますし。
しかしやっぱりロシュちゃんの端々に、ヘルちゃんの影が見えて仕方ありませんでした(^_^;)。これは、聖職者の癖に、もとい、聖職者として狂信的に血がどうとかこうとか語りまくる、リシュリュー猊下のお歌の歌詞もいけなかったのかも知れません。

その合間に、「ミレディってば、事前にしっかり確認しようよ」とか「ミレディ、コンスタンスへの仕打ち、それって腹いせ以外の何物?」とかツッコミを入れるのに忙しくて、実は2幕、猊下以外の歌はあまり身を入れて聴けておりません。しかも熱唱する猊下ウォッチに忙しくて、背景で妙な動きをしていたらしい舞台装置とか、さりげなく格好良かったロシュフォールとか、実は今冬のTdVと同じ様なメンバーを揃えたダンサーズとかをほとんどチェックできずじまい。次回観劇に賭けようと思います。

クライマックスは、前の感想の繰り返しになりますが、人死にも出た事件の割には後味があっさりしていました。まあ、首謀者が大物過ぎるのでこんなものかも知れませんが。あとロシュちゃんがわんこ状態で可愛かったので許します。
そして意外に美味しい所をさらっていく国王陛下。何故製造前の我が子の未来をそんなにも自信たっぷりに予言する(^_^;;)!?

終演後のカーテンコールは、公式の映像にも既に流れていますが、井上くん、瀬奈さん、山口さんからご挨拶があった後、演出家山田さん、脚本家ブリードランドさんが登壇、ご挨拶されていました。脚本家さんのイケメンぶりにびっくり。
最後は、プリンシパルの皆さんと演出家、脚本家のお2人が銀橋上でご挨拶。一旦幕が下りた後でオケの演奏があり、その後2回ほど幕が上がって、カーテンコール終了となりました。

次回は7月23日に観劇の予定です。皆さんまだ初日ということで、歌や演技にどこか固さが残っている印象でしたが、次回、そして8月はもう少し弾けてくれて、願わくばアドリブなども飛ばしてくれることを期待しています。