日々記 観劇別館

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『レ・ミゼラブル』感想(2011.5.5ソワレ)

キャスト:
ジャン・バルジャン山口祐一郎 ジャベール=今拓哉 エポニーヌ=Jennifer ファンテーヌ=和音美桜 コゼット=稲田みづ紀 マリウス=原田優一 テナルディエ=三波豊和 テナルディエの妻=阿知波悟美 アンジョルラス=上原理生 リトルコゼット=飛鳥井里桜 リトルエポニーヌ=蒲生彩華 ガブローシュ=小宮明日翔

レミゼ5月5日ソワレ。半ば山口バルジャン楽(5月8日)のチケットが取れなかった時の保険として確保した公演でしたが、観た後「取っておいて良かった」と思いました。
座席は、レミゼでは多分初めての最前列。上手ブロックなので多少見切れもありましたし、レミゼの美しい床照明(ジャベ自殺時のセーヌの流れなど)が見えないという弱点はありましたが、普段は注目しないポイントを観察するなど、いつもとは違った見方ができたように思います。

今回、きちんと観ておこう、と思ったのは原田マリウス。前回(4月29日)に初めて観て、実のところ違和感ありまくりだったわけですが、Twitterに流れる感想を読む限り結構好評なので、これは自分、何か見方を間違えていたに違いない、これはじっくり観ておかねば、と思い直した次第です。また、ここのコメント欄で教えていただいた原田マリウス&上原アンジョ(この組み合わせは今回初見)のコンビネーションの良さも見逃すまい、という気持ちで観劇に臨みました。

改めて、ベガーズで登場した原田マリウスを観た第一印象は、「こいつ、かなりの駄々っ子だな」でした(^_^;)。
ジェニエポに触れられた時の仕草と表情が、幼い子が不意を突かれて「いやーん」とする時の振る舞いそのもの。ABCカフェでも周囲にからかわれて、子供なふくれっ面。でも上原アンジョに「マリウス、分かるけど……」と諭されると納得してしまう素直さ。そして刷り込みを受けたひな鳥のようにコゼットにまっしぐらな態度。
というわけで、原田マリウス、実は可愛かったんだ、と初めて気づきました(遅)。私がこれまでのマリウスに求めてきた、くそ真面目の陰に見え隠れするお坊ちゃんらしい甘さこそありませんし、ちょっと芯の強さが目立っていて、友人の言葉を借りると「虹の空へ飛んで行かなさそうなマリウス」ではありますが、これはこれで可愛いじゃないか、と、今回やっと腑に落ちました。
そのマリウスが、砦での過酷な体験を経た結果、2幕の「カフェ・ソング」ではかつての「幼い駄々っ子」が消え失せてすっかり大人になっているのが、何ともやるせなかったです。まさかここで原田マリウスに泣かされるとは思いもよりませんでした。

原田マリウスと上原アンジョとの組合せは、何故か双子のようだという印象を受けました。姿形も性格もまるで違うけれど、歌声の訴える方向が相似していると申しましょうか。二人とも声質が力強いので、余計にそう感じたのかも知れません。きかん坊のマリウスがアンジョに語りかけられると素直に耳を傾ける所とか、ごく自然に隣にいる関係性とか、端々に「萌え」を感じました。エポを亡くしたマリウスがアンジョに縋り付いて泣き、アンジョもそれに応えて抱き締める場面なんてもう!*1
アンジョとマリウスを見守ると言えばグランテール。今回は石飛グランでした。「共に飲もう」の場面で死など無駄じゃないのか?と語り、アンジョに献杯しようとして断られた時の諦めに満ちた微笑みと、その後マリウスが自らの死を肯定する言葉を口にした時の憤りと悲しみに満ちた表情とが良いのです。ガブが射殺された後に激しく悔やむのではなく、無力感に全身を支配されつつも、彼の内部で何かが変化していくような演技もツボでした。

マリウスばかり書いてしまいましたが、他のキャストについても少しずつ感想を。
和音ファンテは初見にして今回がラストでした。声量たっぷり、朗々としているのに柔らかい発声で、特に娼婦になってからの押し付けがましくない歌声が好みです。「夢やぶれて」で多少ブレス音はありましたが、過去にもっとブレス音が激しいファンテもいたのであまり気にならず。もう1公演、彼女のファンテで聴きたかったです。
稲田コゼットも初見にして最後。今回のコゼットの中では一番地味?と思ったのもつかの間、マリウスやバルジャンに向ける極上の可愛い笑顔にすっかりやられてしまいました。耳当たりがソフトな歌声で、高音に無理無理感がないのが良かったです。
今ジャベール。出てきた瞬間「可愛い」と思ってしまったのは、きっと私の目に妙な萌えフィルタが掛かっていたからだと思われます。でも立ち居振る舞いはやはり古武士。警棒を両手で胸元に構えたポーズの美しさと、警棒バトントワリング(笑)の軽やかさが素敵なのです。個人的には「対決」での警棒振り回しがあまりに力強いので、いつかファンテかバルジャンに当たるのではないかと心配だったりしますが……(多分心配無用)。
その今ジャベール、2幕でバリケードで捕まり、エポの死を目撃した瞬間「はあっ」と大きくため息を付くのですね。あのため息には、学生達を未然に食い止められず、革命思想と無関係の者に犠牲者が出たことへの嘆き、「子供の遊び」の招く結果の愚かしさに対する憤りなど、ジャベールの様々な思いが込められていると感じました。また、バルジャンとやり取り、あるいはデュエットする場面での呼吸の絶妙さは流石です。
余談ですが、カーテンコールで今さんが上手側に登場した時、隣にいた奥様方が「今ちゃーん!」と声がけして手を振ったら、今さんはしっかりと奥様方にロックオンして手を振り返してくれていました。その後もう一度上手側に登場した時も同様。優しい!偉い!私も声をかければ良かった、と思いつつ勇気が出ず(^_^;)。ああ小市民。

ジェニエポ。声もエポニーヌの性格付けも力強いので、原田マリウスと割と雰囲気が合っていると思いました。「恵みの雨」での原田マリウスとのコンビネーションが良いです。
三波さん&阿知波さんのテナ夫妻。このコンビが1幕の工場の場面で、別々ではありますが、ファンテが演技している背景で意外に細かくお芝居していることに、最前列で観て気づいてしまいました。お給料を受け取りに並ぶ阿知波工員の「あたしが先よ!」と仲間を牽制する態度とか、三波工員が糾弾されるファンテを眺める時の「困ったもんだ」的目つきとか。本役のテナ夫妻で出てくる時も、お二人とも滑舌も声も良くて、やっぱり良かったです。ちなみに三波テナにお目にかかるのは今回で最後の筈です。あのどす黒さが結構好きだったんですが。

最後に山口バルジャン。
レミゼの公演がある度に、彼の全盛期を記憶している方から「声が出ていない」「調子が悪いのでは?」という声が上がるのを見かけます。元々レミゼの音響の作り方が生声を生かしてエコーに頼らないような形になっているほか、山口さん自身、全盛期よりは高音部に若干余裕が無くなっているという現実ももちろんありますが、それは少なくとも「不調」というのとはちょっと違うと受け止めています。贔屓目抜きに、好不調の別で言えば、今期の山口バルジャンはどちらかと言えば「好調」であると思います。
これは完全に贔屓目だと自覚していますが、1幕の「囚人の歌」〜「独白」でもっとバルジャンに野獣のような力強い歌声と粗暴な振る舞いを求める向きの気持ちも理解しつつ、山口バルジャンにはそれは要らないや、と思ってしまうのでした。今期いつになく激しく逡巡しまくっている「フー・アム・アイ」や、「ワン・デイ・モア」でさりげなく長ーくのびまくるロングトーン、そして観客を丸ごと祈りの世界に没入させてくれる「彼を帰して」が聴ければそれで眼福・耳福なのです。
何度も書いている気がしますが、今期の山口バルジャンは2幕後半がとりわけ素晴らしいです。「エブリディ」で、お前にコゼットをやろう、とマリウスに(心の中で)語りかける場面の愛情深さ、篤さ(熱さも)。その愛情に裏打ちされた「告白」での身を引く決意の固さ。バルジャンの思いがじんわりと静かに染み渡ってきます。
真骨頂は臨終の場面。老け込み具合が過去に観たどの公演よりも半端ではないのがまた何とも……(T_T)。とにかくファンテに向ける笑顔が世の中の汚れを全て置いてきたような表情で、本当に綺麗。そこでまた稲田コゼットが極上の笑顔を向けて、それに優しく応える姿が文字通り「慈父」そのもので、表情もまた綺麗。それしか言えない自分のボキャブラリーの貧困さが呪わしいです。

というわけで、山口バルジャンを観るのも残す所あと1回、明日日曜日の公演のみとなりました。何だか、終わったら虚脱状態になりそうで不安です。とは言え、次の日曜日にもレミゼをマチソワして、それが見納めになる予定なので、それまでは余力を残しておかなければ!と思っております。

*1:そこで『レベッカ』のマキシムと「わたし」を連想した私は、所詮どこか腐っていると思いますが(^_^;)。