日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『モーツァルト!』感想(2010.11.20ソワレ)

キャスト:ヴォルフガング・モーツァルト=山崎育三郎 ナンネール=高橋由美子 コンスタンツェ=島袋寛子 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=香寿たつき セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=黒木璃七

11月20日、今期2度目のM!観劇にして、初・山崎ヴォルフで観てまいりました。
観てから1週間が経ち、かなり記憶が薄れつつありますので、印象に残っている所のみの感想です。
ちなみに20日の席は1階最前列下手ブロックという、役者さんの生声が正面から聞こえてくる好位置でした。

山崎ヴォルフ、マリウスで分かってはいましたが、耳に心地の良い声で、歌詞も聴き取りやすかったです。ただ、ヴォルフの不安定な精神の表現や、狂乱時の迫力は、演技力の増した井上くんに一日の長があり、山崎ヴォルフ、もう少しアクがあっても良いかも?と思いました。また、事前の宣伝写真で感じたよりも「優等生」なイメージが少なかったのは意外でした。むしろ等身大の、他の同世代の青年がそうするのと同じ様に野心や反骨精神を抱き、それらに忠実に行動しようとしただけの普通の男の子なイメージ。
しかし山崎ヴォルフ、一見アクが薄く普通の青年である分、1幕でコロレド猊下と決別した後、アマデに対する恐怖が並々ならぬものであったように見えました。それまでアマデの存在を無邪気に受け入れていたのに、アマデが到底自らの意志で制御できる存在ではないと気づいたような、そんな感じです。
それから、山崎ヴォルフは情感たっぷりで、悪夢を見て父親を喪い狂乱する場面での狂いぶりが凄まじかったです。そして、最終的には決別してしまったけれどコンスタンツェのことも普通の青年・ヴォルフとして心から愛したのだ、という気持ちも十分に込められていました。
ただ、そんな普通の男の子が、何故アマデとのああいう結末を選ばなくてはならなかったのか?という点は、井上ヴォルフの方が説得力を持って伝わってきた、と思います。山崎ヴォルフのどこがどう、というのではありませんが、これは4演目の井上くんの方が有利な立場にあるのかも知れません。

璃七アマデも今期の新キャスト。初日に観た亜美アマデはヴォルフを睨み付ける時の目力が凄まじかったですが、璃七アマデは全身からにじみ出る子供らしい無邪気さと理不尽さとが同居しています。その無邪気で理不尽な「才能の化身」が2幕でヴォルフを絞め殺そうとする場面が本当に怖くてたまりませんでした。しかも璃七アマデ、あまり表情の起伏がないのでそれでまた恐怖がいや増したりして。
でもトークショーでの吉野さんの解釈では、その後に男爵夫人の幻影を導いてヴォルフの精神的自立を促すのもアマデだそうです。あまりそう言う風に考えたことはなかったですが、実は自分的に初見の時から「アマデって一体何だろう?」という疑問を抱き続け、5年後の現在もなお結論が出ないままでいます。ヴォルフという人間の一生を狂わせた存在であると同時に、並々ならぬ絆で結ばれた相思相愛な存在?とも思いますが、その解釈では足りないような気もしますし。考える程に難しいです。

そして香寿男爵夫人。涼風さんの夫人がどちらかと言えば男前だからかも知れませんが、私は香寿夫人には「母性」を感じました。若い男の子であるヴォルフにひたすら温かく優しい夫人なので、下心があるんじゃないか?という見方もできそうですが、自分の場合は初見の時からあまりそうは感じたことがありません。あの包み込むような歌声、好きです。でも涼風夫人の凛とした歌い方も好きなので甲乙付けがたいものがあります。

由美子ナンネールは時々声が枯れ気味な所がありました。ただ、マチネを観た方の感想によればマチネではもっと不調が目立っていたようなので、ソワレではだいぶ盛り返していたのではないかと思います。何だか今期のナンネールは、色々と挫折し、唯一賭けていた弟への愛もすれ違い、諦めまくった感が殊の外漂っています。
パパとナンネールの愛情は本当に重たいです。天才の息子(弟)のために色々諦めて全てを賭けてきて、それでいて物質的な見返りを求めずひたすら精神的なものを求めるから*1、なお重く絆がヴォルフにのしかかるのだと、今期は特に感じます。いっそウェーバー一家のように寄生虫になってくれたなら、ヴォルフはどんなに楽だろう、と。迷惑な存在で生活こそ脅かされますが、遠慮無く文句を言えますし。
でもヴォルフはその絆から逃げたい、とは決して思っていなくて、才能(アマデ)と野心(ヴォルフ)に忠実に生きた結果、家族を傷つけてしまっただけ……というのが肝心の家族には伝わっていないので、観ていて本当にもどかしくて辛いです。

この物語でその辛さを吹き飛ばしてくれる数少ない存在が吉野シカネーダーです(^_^)。
20日のシカ様は出だしから「私が誰だかご存じだ〜ね〜?」*2と飛ばしてくれました。初日から2週間を経て、ダンスの華麗さにますます磨きがかかっていたように思います。舞台の上でキラキラッ☆と輝いてくれる方、素敵です。
シカ様について、何度も観ていて今回初めて気づいたのですが、2幕のフランス革命のニュースを知った市民の場面でシカ様、下手側で取り出した「魔笛」の台本にそっとキスしていたのですね。意外に可愛い。これ以外にもシカ様は登場する場面で表情が豊かなので、つい彼を追ってしまいます。彼が出る場面では猊下が登場しないので尚更、というのはありますが(^_^;)。

そして、山口猊下
今回最前列で観たこともあってか、「何処だ、モーツァルト!」で猊下がヴォルフを「聞かれないのに答えるな!」等と怒鳴りつけた瞬間、本当に声の音圧が客席まで響いてきて、大変驚きました。ステージの下手側には巨大スピーカーがあるのに、一瞬だけ明らかにPA経由の音に勝っていたような。
M!には他にも声量のあるキャストはいっぱいいるので、決して猊下限定の話ではないのですが*3、何しろ猊下は見た目も威圧感満載なので、余計に威力が大きかったと申しましょうか(^_^;)。
猊下、初日に観た時のような気怠さは消えていましたが、やはり今期は大半の出番を基本に忠実、リアクション抑えめ、アドリブ控えめで通しているようです。物足りないと言えば物足りなかったりします。
でも、やはり、あの気取った態度で「鞭で打つぞ!」とか言われるとぞくっときますし、「お取り込み中」の場面でしっとりな振る舞いのままお姉さん方に没頭しまくっている姿にはどきどきしてしまうのでした。何か今期はむっつりスケベ感が高い猊下だと思います(他にもっと適切な言葉はないのか自分 orz)。
1幕が気取り猊下な分、2幕の「神よ、何故許される」では、猿でも!調教出来る♪と「猿でも」で叫びが入っていました。そして、愚かな男が創り出す!♪の絶叫。ヴォルフの才能に何故自分がこんなに執着するのかが、どんなに神の摂理に照らしても理解できないもどかしさだけでなく、その自分の思いを誰一人理解してくれない、という孤独さもひしひしと伝わってきて、もっとこの猊下の思いを反芻していたい、猊下の視点でヴォルフを見つめてみたい、と思いました。もちろんM!は猊下じゃなくてヴォルフが主役なので、以降は猊下視点の場面は出てこないのですが。

カーテンコールは、初日の時は皆さん小走りに出てきていましたが、今回は普通に歩いて登場していました。音楽のテンポを変えたのかも知れませんが、この辺の事情はよく分かりません。
この後開催されたトークショーについては、前の記事に書いた通りです。YouTube東宝公式動画も以下にアップされているようですが、まだ観ることができていません。後でじっくり観ます。
11/20「モーツァルト!」トークショー前編
11/20「モーツァルト!」トークショー後編

*1:唯一ナンネールがあなたのために使った私の結婚資金を返して、と歌っていますが、あれも本当に返して欲しいのは「私の人生」なので。

*2:本来はもちろん「私が誰だかご存じか?」です。

*3:プリンシパルだけでなく1幕で猊下の物真似を演られている森山大輔さんなども凄いです。