日々記 観劇別館

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『モーツァルト!』初日感想(2010.11.6ソワレ)

キャスト:ヴォルフガング・モーツァルト井上芳雄 ナンネール=高橋由美子 コンスタンツェ=島袋寛子 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=涼風真世 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=吉野圭吾 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=松田亜美

半月前のエリザ山口トート楽の余韻も未だ醒めやらぬ中、M!の初日に行ってまいりました。
全体の感想としては、まだ初日ということもあってか、猊下も含めて皆さん基本に忠実、緊張を孕みつつ様子見な雰囲気でした。
例外は井上ヴォルフ。汗をかきかき、まさに熱演していました。
顔の表情が土砂崩れ状態になるのも厭わず思い切り顔を歪ませて怒り狂い、泣き叫び、そして苦悶しまくるヴォルフ。実は井上ヴォルフを1回しか観たことがないのですが、以前に観た時はあそこまで表情の引き出しが多くはなかったように思います。
ついでに言えば、あんなに激しく動き回ってもいなかったのではないかと。プラター公園で再会したコンスとの「並の男じゃない」の後の会話シーンで、突如胴体斬りボックスに180°開脚ではまり込み、何事もなかったようにすっと立ち上がった後、今度はV字片足上げを披露したのには驚かされました。ヴォルフ、そこまでコンスと再会できてうひゃっほう!だったなんて(^_^;)。
歌声も太くなり、表現が豊かになったと感じます。ヴォルフの精神の不安定さと、孤独になる程に研ぎ澄まされる自我とが、彼の全身からこれでもかと伝わってきていました。
ヴォルフの「才能」の化身であるアマデ。演じた亜美ちゃんは小学5年、トリプルアマデの中では最年長のようです。宿主と一心同体でありながら、時に宿主の生命をも脅かす理不尽な存在を、3時間以上の長丁場、ぶれることなくしっかり演じきっていました。

市村パパ。2007年に観た時に感じた無気力さや不調は微塵もなく、しっとりと濃密な父親愛を演じ切られていたと思います。前の時はやはりプライベートの色々*1が影響していたのかも知れません。パンフに載っているお稽古写真で、笑顔の市村さんが山口さんに何やら携帯の画面を見せている姿が映っているものがあるのですが、見せているのはもしかして息子さんの写真?と想像しております。
高橋ナンネール。この方の、歌声・容姿ともの劣化し無さ加減はさりげなく凄いと思います。プロローグの少女時代とエピローグの喪服の人妻、どちらも違和感ゼロでした。
島袋コンス。2007年公演の時よりだいぶ台詞回しが良くなっていたと思います。自分の歌声の好みはさておいて、「ダンスはやめられない」も段取り臭さがなくなり、歌声がごく自然に演技とマッチしていると感じられました。
涼風男爵夫人。何と申しますか、本当この夫人はヴォルフの「才能」をひたすら愛しています。その才能を家族という俗世のしがらみから解き放つために彼を支援する姿は、涼風さんの場合その華やかな容姿(ついでに衣装のゴージャスさも格別!)に反してとても男前な印象を受けます。彼女は、父や姉の濃くて屈折した愛情の対象である、ヴォルフという人間の身体に素晴らしい才能が縛り付けられていることが、もどかしくて仕方なく、でも同時に、家族との間の鎖を完全には断ち切れない人間という生き物に諦めの念も抱いているのではないか?今日の涼風夫人を観て、そんなことをつらつらと考えさせられました。
それから、何と言っても吉野シカネーダー。10月のイベントで予告されていたとおり、1幕の「チョッピリ・オツムに、チョッピリ・ハートに」の振付がかなり変更されていました。最後のラインダンス以外、ほとんど初めて見た気がします。ついでに、このシーンで爆笑したのも記憶にある限り初めてです。よもや猊下のご不浄シーン以外でM!で爆笑を誘われるとは。
やはりこの方が登場するだけで舞台がぱあっと華やかになるのは良いですね。ヴォルフの人生の転機を作ったビジネスパートナーであると同時に、家庭崩壊を煽りまくる悪魔的な役でもあるわけですが、彼がいなければM!というただでさえハードで重い物語はもっと重たくなっていたと思うのです。

そして、山口猊下
最初にも書いたとおり、本日はまだ様子見、あまりオカズも入れない立ち居振る舞いをされていました。
1幕の「何処だ、モーツァルト!」で猊下が初登場した時、何か違和感が。過去*2猊下と比べて、やけにタカビー度が低いような気がしました。マントの翻し方も、綺麗ではありますが何だか静か。しかも、アイメイクも濃いめで、妙に艶っぽいオーラに包まれているではありませんか。更に、モーツァルト父子を罵倒して立ち去る後ろ姿から異様な威厳が漂ってきて、「と、トート閣下!?」と一人でビビりまくっていました。
それでもウィーン行き馬車の場面の見せ場(?)、ご不浄シーンでは、股間を押さえ、内股でずりずりと這いずるように、順調に尿意を爆発させて笑わせてくれていました。あの尿意の激しさは今後千穐楽までの間にどこまで増大することかと期待中です。
「僕はウィーンに残る」のハーレムシーン。ここも2007年の1.5倍ぐらい(主観)艶々オーラが増していた気がするのですが(^_^;)。そしてお姉さんの胸元と猊下のお顔の距離がかなり近かったようにも思いますが。そう言えば2007年の井上ヴォルフは確か「権力者の汚い手!」と猊下の掌を引っぱたいていましたが、今回はそれはやっていなかったです。
2幕の「神よ、何故許される」の、夢中でヴォルフの曲の譜面を追い続ける猊下の独りぼっちな姿、その後のレオポルトへの失望、そして愛してやまない才能が猊下にとっては最低の男*3の身体に宿っているという神の理不尽さへの嘆きと絶叫に、ああ、この人も絶大な権力を持ちながら絶望的に孤独な人なのだ、と感じずにはいられませんでした。
と、心を打たれつつ「謎解きゲーム」では、早口言葉大丈夫だろうか?と心配する失礼な自分(^_^;)。もちろんちゃんと歌っていました。「モーツァルトモーツァルト!」のソロも順調でした。

カーテンコールでは、何故か猊下は小走りに出てきていました(笑)。左腕で黒いローブの裾を絡げながら。出るタイミングを間違えたのか、それともあれが今期の猊下の標準なのか知りたい所です。
そして井上くんからご挨拶。細かい内容は忘れましたが、初演から2007年までWでヴォルフを演じていたアッキー(中川晃教くん)のことにもきちんと触れてくれていて、井上くん偉い!と思いました。井上くんが「新しい仲間を迎えて……」と言った後に後ろで市村さんが亜美アマデの左手を掴んで、はーい、と上に挙げていたのが微笑ましかったです。
初日ということで演出の小池さんからもご挨拶がありました。クンツェさんやリーヴァイさんではなく私でごめんなさい、とまず一言。井上くんの挨拶が立派で、と言いつつ、突如「いかがですか?山口さん?」と振る先生。山口さんは黙ってにこにこしているだけでしたが、何故そこで振る(^_^;)?
全員カテコ終了後の追い出し演奏の後、帰り始めるお客もいる中で続く拍手に応え、井上くんと亜美ちゃんが二人で幕前に登場してくれました。二人で手を繋いで下手、上手、センターの順に歩いて行ってご挨拶。最後は井上くん、亜美ちゃんをおんぶして下手花道へ退場して行きました。

次にM!を観るのは少し先の11月20日ソワレ。その時が山崎ヴォルフの初見になります。王子様キャラを完全にかなぐり捨てていつになく激しいパッションの井上ヴォルフに対し、山崎くんはどんなヴォルフを見せてくれるのでしょうか?楽しみに待ちたいと思います。

*1:当時奥様のお腹に息子さんがいらしたなど。

*2:私が観たのは2005年と2007年です。

*3:もちろん「傲慢、うぬぼれ、愚かな」ヴォルフを単に「嫌い」だったならこんなに苦悩しなかったでしょうけれど。