日々記 観劇別館

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城田トートに想う

本日10月30日、エリザベート2010年公演が大千穐楽を迎えました。
自分の今年のエリザは10月19日の山口トート楽で終わってしまったので、何だか雲の向こうで起きている出来事のような思いです。

で、今年のエリザと言えばトリプルトートです。
中でも特にクールビューティーぶりが意外に人気を呼んだ城田トート。山口ファンな方で今回彼に転んだ人も多いようですが、実は私は、
「城田くん、背が高いから舞台映えするし顔も綺麗だなあ。声質も聴きやすいし歌もやっぱり上手いなあ」
と思いながらもそれほどはまるに至らなかった者の1人です。
あれはあれで新しいトートの形として「あり」だと思いつつ、山口トートのようにははまれずじまい。城田トートの仕草の一つ一つに目を奪われたり、歌声に心臓をわしづかみされたりするようなことはついにありませんでした。
城田トートについては、演技者として経験の長い山口トートや石丸トートに比べると、演技中に体幹の筋が今ひとつぴしっと決まっていないとか、指先まで細かい演技が行き届いていないとか、「愛」はともかく「死」に対する解釈がちょっと青いんじゃないか?等の不満が多々あります。他方で、8月に観た時はクールな作り込みが過ぎて感情が薄く、貴方本当にシシィが好き?とすら感じた演技が、9月に再見した際にはかなり感情豊かになっていると感じられるなど、良くなっている所もあるので、自分としては城田トートを全否定するには至っておりません。

――昔の観劇感想を頼りに記憶の底から思い起こせば、2007年1月に『スウィーニー・トッド』のアンソニー役(トッドの娘ジョアンナの恋人となる水兵)で初めて観て、舞台映えする子だなあ、と感じたのが城田くんとの出逢いでした。舞台上ではジョアンナ役のソニンちゃんの歌声やトビー(精肉店の下働きの青年)役の武田さんの演技の方が強い印象でしたが、そのうち違う役でまた舞台で観てみたい、と思わせてくれました。
その次に彼を観たのは2007年11月の『テイクフライト』。この舞台は役者は豪華メンバーが揃っているのに演出があっさり爽やかすぎて物足りなく、城田くん演じるリンドバーグの出番も多くはなかったため(3つの時代で展開される物語の主人公の1人、だったので)、これはまた違う作品に期待するしかない、せっかく素材は良いのだからまたコツコツと舞台に出て修行して欲しい、と、自分として勝手に見守りモードに突入。
ところがその後の城田くん、TVや映画、また、若手客層狙いのアイドル系舞台には出演しても、ちっとも大型ミュージカルには出演しないではありませんか。もう自分が観るような舞台には戻ってきてくれないのでは?と引き続き横目で見守り継続。

そして2年以上が経ち、彼がトート役の1人に決まった時にはかなり驚きました。何故、何故、いきなりそんな大役を?若い芽はもっと地道に経験を積んでくれてもいいんだよ?と。しかも歌えると言っても圧倒的な歌唱力ってわけじゃないし(失礼)、大丈夫なの?とひっそり心配。
しかし蓋を開けると意外な(重ねて失礼)大評判。おねーさんが、新婚シシィを陰からご機嫌斜めに観察するトートのごとく(いや、そこまで強く深い愛ではありませんが)、そっと見守ってたのに。まだ若すぎて未熟な所もいっぱいある青年の成長をじっくりチェックしようともくろんでいたのに。
例えるなら、自分の手元にはないけれど、少しずつ研磨されていく様子を遠眼鏡で覗き見していた宝玉の原石が急に違う場所にかっさらわれて、しかも未だ研磨途上なのに手の届かない壇上に持って行かれて賞賛されているのを、指をくわえて見ているしかないような、今、そんな心理状態です。

山口ファンとしては、城田くんに思いを致すとどうしても自分の知らない山口さんの若き日のことを考えずにはいられません。あの2人には、恵まれた素質、評価が目眩ましされがちな目立つ容姿、少ない経験での大役への大抜擢など、意外と共通点があったりしますので。
もちろん、共通点ばかりではなく、かたや目立ちすぎる容姿故に芸能界の表舞台に上がるチャンスすらつかめず下積み生活を強いられるも、拾い上げられた劇団で基礎を積み主役抜擢デビュー。その後、アンサンブル、子供向け作品、正統派ストプレまで広く経験後、外の世界に出て数年掛け再び看板スターの地位へ。かたや脚光を浴びつつも容姿故に役柄が限定されることに苦悩しながらアイドルとして表舞台で揉まれた末ブレイク、大役に抜擢、色々な意味で今後未知数。と言った具合に来し方は全く違うのですが。そうした相違点を踏まえても、自分の中ではどうも城田トートに今ひとつ厳しくなれずにいます。

城田くんには、どんなに賞賛者が多かろうと、間違ってもあのトートを完成形と思って欲しくありません。もちろん自分の役作りを信じることは大事ですが、そこで納得し満足してしまったら、その時はトートとして伸び止まってしまうと思いますので。
恐らく、3ヶ月間大役をやり遂げた彼には、違う舞台の仕事でもまた大役が回ってくることでしょう。その時に、観客に「この子成長したな」と是非感じさせて欲しい。一観客、一素人として、そして、30年前には立場は違えど悩み研鑽する若者であっただろう最年長トートの中の方の一ファンとして、心からそう思うのです。