日々記 観劇別館

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『薔薇とサムライ』感想(2010.3.20マチネ)

キャスト:石川五右衛門古田新太 アンヌ・ザ・トルネード=天海祐希 シャルル・ド・ボスコーニュ=浦井健治 デスペラード豹之進=山本太郎 ボニー・デ・ブライボン=神田沙也加 エリザベッタ=森奈みはる バルバ・ネグロ=橋本じゅん マローネ=高田聖子 ガファス・デ・ナルビオッソ=粟根まこと ラーカム・デ・ブライボン=藤木孝

既に1週間近くも前となりますが、赤坂ACTシアター劇団☆新感線の『薔薇とサムライ』を観てまいりました。
今回の観劇が自分にとって初・新感線ということで馴染めるかどうかの見極め試験のような所がありましたが、予想以上に面白かったです。特に今回のお話はアニメチックな要素が強かったこともあり、馴染みやすかったのかも知れません。
また、以前の新感線の公演『五右衛門ロック』の主人公キャラの再登場ということで、前の話を知らないと楽しめないのでは?と危惧していましたが、そんなことは全くありませんでした。
いのうえひでのりさんのカラフルな電飾スクリーンを活用した演出にどこかで記憶が?と思ったら2007年に日生劇場『TOMMY』で観ていました(当時の感想)。電飾に舞台の背景映像だけでなくアニメ風止め絵や、擬音、書き文字が乱発されるのが面白いです。カテコでもアンサンブルを含めたキャストの氏名紹介に、役者の並び順に合わせて揃えられた字幕が使われていましたが、あれ、舞台上で役者さんが並び順を間違えると大変だよね、と余計なことを考えたりして(^_^;)。

薔薇サムの舞台は17世紀半ばのヨーロッパ。海賊の上前をはねる痛快な女海賊として活躍していたアンヌ・ザ・トルネードが海賊「黒ひげ」バルバ・ネグロの手でピンチに陥った際に、助っ人として日本人の盗っ人石川五右衛門が現れる所から物語が始まります。折しもフランスやスペインといった大国が勢力拡大する中、とある小国の国王後継者を巡る陰謀にアンヌが巻き込まれ、いつしか五右衛門も深く関わり奇妙な冒険活劇が繰り広げられていく、というのが全体の展開でした。

全体を通して薔薇サムで楽しかったのは、「殺陣」の場面です。主役のアンヌや五右衛門だけでなく、五右衛門のライバルで日本人の父を持つデスペラード(通称・デス公)、アンヌを慕うシャルル王子、敵役の伯爵夫人マローネ(大臣の娘)、そして一見戦闘とは無関係のガファスの妻エリザベッタに至るまで、剣戟やアクションで何らかの見せ場がありました。
海賊物ミュージカル、しかも女海賊物といえばあの『パイレート・クィーン』が記憶に新しいわけですが、今回の薔薇サムを観て、どうもPQは、日本人が「ヨーロッパの海賊」という言葉から連想し、胸を躍らせて心の中に展開する世界観、つまり「華麗なアクション」や「目にも留まらぬ剣戟」をかなり外してしまったのではないか?という気がしてなりませんでした。
もっとも、PQのグレースが背負っていたような恋愛や大国との領土争いや女だからどーの、といった問題を、アンヌは背負っていないどころかどこかへ置いてきてしまっているような印象を受けましたが。一方、グレースが敵を殴り倒した瞬間に相手が陰から現れた黒子に抱えられて「宙を舞う」ようなことも間違ってもないだろうと思います(^o^)。

とにかくシンプルすぎるくらいシンプルな勧善懲悪劇で、爆笑シーンもふんだんにあり、後味良くさわやかに劇場を出ることができました。ヨーロッパの城が主舞台で戦闘シーンも多いのに、何故か血生臭い陰惨さが全くない所がポイントです。但し、展開があまりにシンプルすぎて、誰が首謀者で誰がその一味なのかが途中で丸分かりになってしまうというのが難点と言えば難点でしょうか。
そんなこともあって今回興奮のるつぼ、というまでには至りませんでしたが、聞くところによると新感線の公演は日程後半の方が人気があるらしい(キャストが慣れてきて遊びを入れてくれるから?)ので、楽が近づくともっとハジけまくった舞台が観られるのだと思います。

役者さん方の中で注目したのは何といっても古田さん。古田さんの舞台を観ること自体初めてでしたが、今回はどちらかと言えばアンヌをサポートする「泥棒紳士」的な役割に徹していたように見えたので、できれば次はもっと破天荒な役の時に見てみたいです。いえ、今回破天荒な場面が皆無だったわけではありませんが。変態仮面とか(笑)。
五右衛門については、何せ日本人なので、登場場面の半分以上は和服姿でのお出ましでした。で、古田さんは古き良き日本男児の典型のような胴長短足ずんぐり体型(失礼)なのに、和服の裾からむき出しになっている脚が鍛え抜かれて綺麗なのが一目で分かりました。日本男児体型の方は是非古田さんの脚を目指すべき!と思います。

天海さんを舞台で観るのは2007年に『テイクフライト』を観て以来でしたが(当時の感想)、その時より今回受けた印象の方が遥かに良かったです。1個だけネタバレしますとアンヌが2幕で何故か金髪になりオスカルのコスプレで戦闘に臨むのですが、美しゅうございました。ただ、天海さんは確か実際に宝塚時代にオスカルを演じたことはないと思います*1

実は○○趣味だったバルバ・ネグロを怪演する橋本さんや、特撮物の悪の女王のような高田さんの、確かな実力に裏打ちされた身体を張りまくった演技にも感嘆させられました。また、デス公こと山本さんも舞台では初めて観ましたが、賞金稼ぎの衣装の似合い方といい、役の雰囲気にかなり合っていたと思います*2
あと、新感線のメンバーで印象的だったのは、ヘヴィメタ調のナンバーを節目節目でシャウトしていたスキンヘッドの方(吉田メタルさん?)辺りです。
感情を何故か歌で表現してしまうエリザベッタを演じた森奈さんも良かったです。ベルばらのロザリーを彷彿とさせるキャラクターで、キレまくる演技もなかなか素敵。
それからラーカム大宰相の藤木さん。いかにも悪役、な演技やアクションはマローネの担当だったので、ここが見せ場、という場面こそありませんでしたが、権力と悪徳にまみれながらも重厚かつ悪目立ちせず冷静で、決して誇り高さを喪わない、これぞ大貴族!な雰囲気を全身から漂わせていました。悪徳も策略も彼なりに国を守りたいという思いが高じたものだったと思うので、何だか憎めない人物です。

驚かされたのは浦井くんのシャルル王子です。金髪巻き毛の美青年で一見軽佻浮薄なバカ殿にも見えますが、実際は意外とそうでもなくきちんとわきまえた物言いと行動のできる隣国の美しい王子様を見事に演じきっていました。まさに伸び盛り、大きく成長中。
王子は何せアンヌにうざがられるほどにオーバーアクションで愛を語り歌いまくる性格、という設定なので、彼が歌う場面がふんだんに挿入されていて、眼福、耳福、という感じでした。とにかく山口さんよろしく劇場中にくまなく響き渡る声量たっぷりの歌声。多分舞台の背中側にまで響きまくっていたと思います。立体的な歌声、と呼ばせていただきましょう。
しかしやっと王子がアンヌとデュエットしてハモり合うことができた、と思ったら実は……というのは、王子のあずかり知らぬ事実とは言えちょっと可哀想でした。観客にとっては大変美味しい場面でしたけれど。将来はやっぱりアンヌと結婚してしまったりするのかな?あれだけ袖にされても尽くす情熱があれば実現不可能ではなさそうです。

大臣の孫でマローネの姪であるボニーを演じた沙也加ちゃんは……途中で1曲ソロがありましたが、ミュージカルではなく完全にポップスの発声だったように聞こえました。演出上あえてそのような歌い方にしていたのかも知れませんが、申し訳ないけれど浦井くんや森奈さんの声と比べるとやはり立体感が薄いと思うのです。あの嫌みのない素直な演技は決して嫌いではないのでもっともっと頑張って欲しい、と欲張りなことを言わせていただきます。

……ああ、今週は年度末の仕事処理に追われながらこれの感想を書いておかねば、とずっと気がかりでしたが、ようやく記すことができました。次の観劇は4月7日の『レベッカ』東京初日の予定です。それを心の励みに来週、もう一踏ん張り、二踏ん張りすることにいたします。

*1:1991年の公演でアンドレ、フェルゼンは演じたらしいです。その時のオスカルは涼風さん。

*2:はっ、デス公の名前の由来ってもしかして「デフ・レパード」?だから「豹之進」?と今気づきました。がーん。