日々記 観劇別館

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『届かなかった手紙』感想(2009.1.12ソワレ(初日))

マックス=今拓哉 マルティン=高野力哉 グリゼレ=麻乃佳世 作曲・エレクトーン演奏=宮崎誠 演出=齋藤吉正

本年1月25日に閉館予定の劇場「ベニサン・ピット」で公演されている『届かなかった手紙』の初日を観てきました。
最初で最後となってしまうベニサン・ピットは、いかにも「芝居小屋」な雰囲気が漂っていて、どこかアングラな風情もあってなかなか良かったです。老朽化で取り壊しとのこと、せっかく良い場所を覚えたのに、と残念に思います。
機材トラブル*1で20分程開演が遅れたのですが、主催側のお姉さんの「後少しで開演の光が見えてきました!」のアナウンスに和まされました。結局19:20頃に開演し、一旦開演後はノープロブレムで進行。21:00少し前頃に終演でした。
物語の舞台は1930年代前半。アメリカにある画廊を共同で経営する、アメリカ在住のユダヤ人マックスとドイツ在住のマルティン。二人は学舎を共にした親友同士で、互いの家族や仕事の近況について手紙のやり取りを続けている。マックスの妹グリゼレはかつてマルティンの恋人であったが現在は別離し、女優としてドイツ・オーストリーへの進出を試みている、というのが基本設定です。
ほぼ今さんと高野さんお二人の、朗読を中心に据えた劇でした。お二人とも滑舌が良く、聴いていて実に心地の良いお声だったと思います。
座席は上手側前から5列目でしたが、今さんは上手で演技することが多かったので、ややお得な感じでした。
ネタバレは控えますが、まさか朗読中心の劇のラストシーンであんなに背筋を凍らされるとは思わなかったです。友情の証だった筈の手紙がやがて復讐の道具と化する悲劇。メインのお二人の確かな演技力も相まって、さて、マックスとマルティン、果たしてどちらのしたことが蛮行であったのか?としっかり考えさせられる内容になっていました。
物語が発表されたのはアメリカであったこと、また1938年という戦時中だったことを考えると、アメリカ寄りの結末ではあると思います。それでも、ヒトラーのしたことは今の歴史では悪行だけど、当時のドイツでは彼は救世主であり、ユダヤ人虐待も必要悪として捉えられていたという事実にも目配りされていたのは意外です。
麻乃さんの役は象徴的な存在なので、実体がいなくても成立するのでは?とも思えました。ただ、1カ所だけ、実体として存在することで説得力が増す場面があったので、そこは微妙なところです。

カーテンコールでは、演奏も務めていた作曲の宮崎さんも舞台に上げられていました。辛くて重い物語だけど、カーテンコールの爽やかさに救われたような想いです。

*1:開演前に劇場のブレーカーが落ちたのが原因だそうです。(ソレイユ芸空間のサイトより)