日々記 観劇別館

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『篤姫』第49回、第50回(最終回)

やっとラスト2回分の録画を見終えることができました。
細かいところは端折りますが、第49回の白眉は「大奥に生けられた花々」だったと思います。兵達が侵入した大奥の扉を開けると、そこには大奥の面々が心を込めた生け花が、彼女らが座してそのまま姿を変えたかのように待ち構えていた、というオリジナルなエピソードが、自分達の生きた場をただ土足で踏み荒らされることを拒む大奥最後の矜恃を示していて良かったです。
帯刀は49回で一橋家に身を寄せた天璋院の元を訪れて、最後になってしまう碁の対局をします。
もし斉彬様からの養女の話がなく運命が変わっていなかったなら自分と一緒になってくれたか?という帯刀の問いかけに対し、天璋院は我が夫家定に相談します、と返事をし、帯刀が「ずるいなあ、それは」と返すというやり取りがあったのですが、瑛太くん、この「ずるいなあ」という台詞に最初帯刀の大人のずるさを感じ取って、台詞を換えて欲しいと頼んでいたそうです(NHKのムック本とドラマ公式サイトの両方に記載)。でも、逆にあおいちゃんはその台詞が良いと考えていたと知って、瑛太くんも考えを変えたということでした。観ている側としては、お互いに確かにずるいと言えばずるいのだけど、結局はお互いに波乱はあったけれど幸せであったことを確認できたわけなので、あの台詞のままで正解だったと思います。
そして帯刀、人は再び会う日のために別れるのだと彼女を励ますのだけど、自分自身はもう病が重くなっているからこれが最後になるかも知れない、というのが多分彼には分かっています。それでも再会を約して別れる、という、観ていてとても辛い筈の場面でしたが、前述のように幸せを確かめ合えたということで、後味は悪くありませんでした。

第50回で、最終回故に次々と登場人物が亡くなっていくのは致し方ないのですが、やはり天璋院の親しい人間が、帯刀に始まり、西郷、大久保から年少の静寛院に至るまで先立っていくのを見て、辛いなあ、とすっかり天璋院の気持ちになっていました。
帯刀の病の重篤化から臨終に至るまでの一連のエピソードは悲しかったけれど、お近さんの強さにも感服させられました。側室のお琴さんと交替で看病することに抵抗があるかも知れないけれどそうさせてもらう、と言ってみたりして。帯刀の死後に出てくる香木のエピソードも心に染みいりました。
西郷は帯刀の遺言で一旦は大久保と手を組んで新政府で手腕を振るうのだけど、結局薩摩の地で新政府への反乱(西南戦争)を起こして死んでいきます。真っ直ぐ故に器用な人生が送れなかったけれど、今でも鹿児島では尊敬されている彼の人生は、ほかのドラマでも十分描かれてきた筈なのですが、『篤姫』では最後まで「若さ」が感じられて目新しかったです。大久保ももっと掘り下げて欲しかったな、と言いたいですが、それは『翔ぶが如く』を読め(あるいは鹿賀さんのドラマを見ろ)と言われそうなのでやめておきます。
ちなみに天璋院より年長の人で、彼女の臨終の時点で存命だったのは本寿院様と久光様。何故か納得。
その久光様は、最終回で帯刀に版籍奉還を勧められ、「新政府は西洋の猿真似」と抵抗しますが、最後は帯刀が言うのなら、という感じで渋々了承します。自分の愚痴を聞くこともなく帯刀が辞去した薄暗い部屋に一人佇み、これが兄上の望んだ世の中だったのですか?と亡き斉彬兄上の遺した地球儀に語りかけた後に立ち去る、というのが久光様のラストシーンでした。一般的には野心を家臣に利用されて出し抜かれた権力者、というイメージが強かったけれど、今回のドラマでは最後まで兄上への想いが貫かれていて好感が持てました。山口さんのご出演場面の締めくくりとしても美味しかったですし(^_^)。

大奥の面々の「その後」も、「ひ孫」家達の婚約披露の場に再集結、という形でしっかり語られていました。大奥メンバーじゃないけど瓦版売りの太助が写真家に転職していた、というネタには笑いましたが。
後は、高橋由美子ちゃん演じる唐橋が節目節目でさりげなく重要な役割を果たしていました。
第49回の誰が大奥から天璋院に付いていくか?というエピソードで、年少の常盤が嫁に行くかも知れないから、と同行を断られた時に、じゃあ自分は嫁に行かなくても良いのか?と、主君の元を去る気もない癖に拗ねてみせるのが可愛かったです。
そして、最初行動を共にした重野も途中で辞めてしまうので、結局天璋院の臨終まで共にいたのは唐橋だけなのですね。ラストシーンで天璋院白文鳥たちを鳥かごから天に飛び立たせ、それとともに天璋院の魂が解き放たれるイメージが印象的でした。

山口さんの出演シーン目当てで見始めたドラマでしたが、1年間、感想まで書いて全部こんなに丁寧に見通したのは初めてです。終わってみれば、それまで「美人タイプじゃないけど若い割にしっかり者の役者さん」としてしか見ていなかった*1宮崎あおいちゃんの実力、堺雅人さんの「ウツケ」の仮面の影に潜めた良い男ぶりなどなど、ほぼ毎回様々な場面に見所があって、中盤あたりからはほとんど飽きることがなかったように思います。21世紀以降の大河で視聴率ベストというのもむべなるかな、です。
もちろん目当てだった久光様も、従来のあまり器の大きくなさそうな国父様のイメージが、彼なりに一つの想いを抱いて行動していたのだという風に描写されることで覆されていて、田淵先生ありがとう!と思いました。ただ、途中で中の人がマンダレイオーストリーに旅立たれていた都合上、帯刀の提案にYesと言ってあとはお任せ、という局面が多かったのはちょっと残念でした*2

*1:朝ドラの『純情きらり』もアンチハッピーエンドというだけで好きではありませんでした。

*2:御駕篭に乗る場面10年分を1日で撮り終えたなんていうこぼれ話もありました(FCイベントでのコメントとして伝聞)。