日々記 観劇別館

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『ベガーズ・オペラ』感想(2008/3/9マチネ)

マクヒース=内野聖陽 トム/フィルチ=橋本さとし ピーチャム=高嶋政宏 ミセス・ピーチャム/ダイアナ・トレイプス=森公美子 ポリー・ピーチャム=笹本玲奈 ロキット=村井國夫 ルーシー・ロキット=島田歌穂 「もってこい」=原田優一 「やってこい」=小此木麻里  老役者=近藤洋介

2年ぶりに、『ベガーズ・オペラ』を観てきました。ベガーズと言えばステージサイド(SS)シートの観客がお芝居に参加できる楽しさで評判ですが、残念ながら今回は2階席。SS席の人達が上演前に箱を運んできたりほうきで掃除したり、また、上演中はマクヒースに薔薇をもらったりするのを遠目で眺めておりました。
開演前から序盤までは、老役者氏が飄々とSS席客の仕事の仕切りや他席の客いじりを務めています。ベガーズって全体にわい雑で華やかさのかけらもない物語なのですが、この老役者の存在により、場が格段に引き締められていると今回思いました。初演の金田さんと近藤さんを比べると、私的には近藤さんの方がややアクティブな感じで好みです。

音楽は、初演を観た時もそうでしたが、あまり頭に残ってくれないのです。私の耳には高尚すぎるのかも知れません。でもベガー達のコーラスがとても綺麗で、そこは引き込まれました。
物語は、18世紀のロンドンの貧民のわい雑さや強かさが説明抜きに直球でぶつかってくるイメージ。生きるためには何でもやる奴らばかりで、基本的にどす黒いんだけど、根底に逞しい明るさがあるので、観ていて楽しいお話です。でもDVDで観ると何故かあの場の空気の感触が弱まってしまうんですよね。不思議。

個々の役者さんについてですが、自分はモリクミさんの歌声が好きなんだと再認識しました。聴きやすいし、高いも低いも自在で、本当羨ましい歌声です。
それから、さとしさん演じる乞食作家のトムと小悪党のフィルチについて。前に見た時は何故か、トム=フィルチだという認識が全くなかったのだけど、今日その理由が判明。私のボケにも全く原因がない訳ではありませんけど、何と言っても2人を橋本さんが別人としてきっちり演じ分け出来ているからにほかなりません。いい役者さんだな、と思います。
あと、マクヒースって登場までに45分もあったっけ?というのが今回の驚きポイントでした。しかも1幕は約1時間なので、マクヒースが舞台に現れてから15分程で終了するわけですが、そのたった15分間で内野マクヒース、フェロモン全開にして1幕全部持っていっています。凄い。

休憩時間は1幕と2幕の間に20分、2幕と3幕の間に10分の計2回。2階席にもちゃんと物乞いするベガーさん達が現れてくれました。1幕後の休憩で「やってこい」こと麻里ちゃんにヤクルト1本*1を渡すことができたのが嬉しかったです。ほかにはアタリメ(所謂スルメ)を施されているベガーさんなどもいました。

2幕はルーシーを演じた歌穂さんが良かったです。この人とモリクミさんはほかの役者さん方と声の出し方から全く違います。どんなに高い音を出してもまだ余裕がある感じ。玲奈ちゃんも上手だし頑張っているんだけど、流石にお2人の域にはまだ達していないと思います。
以前の観劇時にインパクト強烈だったマクヒースと娼婦達のシーンでは、今回も楽しませてもらいました。入絵加奈子さんが小悪魔入っていて可愛かったです。
「もってこい」を演じた原田くんの声量には驚かされました*2。あの細身のどこからあんなによく響く声が出るのか不思議です。「もってこい」は妹の「やってこい」とセットでの小芝居が多く、横目で追いかけていて結構楽しめました。今度観に来る時はフィルチを演じる筈なので、こちらも楽しみにしています。

3幕はモリクミさんの低音が聴けて得した気分になれます。また、劇中2度目の監獄シーンで内野さんが無駄に色っぽかったです。さとしさんはやっぱりトムに戻ってみたら、フィルチとは別人になってました。

今回内野マクヒースをじっくり眺めてましたが、まさに姿やダンスを見てよし、声を聴いてよし、と言った感じです。「歌の下手なトート」と言われていた面影は最早見られません。ミュージカル育ちの役者でなくても、努力によりここまで成長できる場合があるということで、先月ファントムを演じていた誰かさんに聴かせてあげたいです。やっぱりミュージカルって演技力だけで成立させるのは無理なのだとつくづく思いました。

*1:施しイベントがあるというのに物を買うのをすっかり忘れていて、とっさに地下鉄の駅で買いました。

*2:いえ、アンジョルラスでも観てるんですけどそれでも「声、でかいなあ」と。