日々記 観劇別館

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ヒッチコック『レベッカ』感想

昨年買ってから何ヶ月も積みっぱなしにしておいた廉価版DVDをようやく鑑賞しました。
物語の細部を上手いこと端折って改変しつつ、ダンヴァース夫人の不気味さ(足音もさせず「わたし」の背後に立つ!)とか、マンダレーの屋敷空間そのものに圧迫される怖さとかといった物語の緊張ポイントがしっかり料理されていて面白い映画でした。流石ヒッチコック監督。

映画を見始めてまず、セットやロケーションの作り込みに圧倒されました。
原作の冒頭の、マンダレーに向かう道筋の丁寧すぎる描写がいかにも、さあ、あなたを物語世界にこれから引きずり込みますよ、な感じが漂っていて大好きなのですが、あれがそのまま映画でも冒頭で再現されていました。
マンダレーの屋敷、原作を読んで頭の中で拵えていたサイズの1.5倍はバカでかかったです。と言うより自分の想像が庶民過ぎでした。
「わたし」は原作の骨子ともなっている妄想癖よりも、おとなしいけど意志が強くて率直な性格の方が強調されていました。マキシムは、原作で見せる時に子供じみた偏屈さに、読んでいて結構いらつかされたものですが、映画では、優しいけれど秘密を抱えている故に妻との間の壁を取り払えない男として比較的冷静に観ることが出来ました。ローレンス・オリヴィエの名演も大きいのだと思います。

仮面舞踏会〜ダンヴァース夫人の追い詰め〜難破船発見の一連の場面は映画ならではのスピーディーな展開に変更されていました。原作の「わたし」が涙を隠してガラスの仮面をかぶって舞踏会のホスト役を勤め上げるエピソードも好きなのですが、映像の場合はあの変更で正解だと思います。

全体に、映画ならではのエピソード改変や見せ方には満足できたものの、1つだけ、レベッカの死因の変更にはちょっと複雑な気持ちを覚えました。全てが終わった後に観客が納得しやすいのは確かに映画版の方なのですが、「わたし」とマキシムの結びつきは、2人が全てを賭けて罪を隠す原作版の方がより深まっているように見えたので。また、レベッカの「死んでもあなたを解放しないわよ」的な執念深く屈折しまくった愛は、原作のあの死に方で成就されるのではないかと思いました。
あと、ラストシーンのあの描写だと、ダンヴァース夫人はやっぱり屋敷(=レベッカの象徴、というか彼女にとってはレベッカそのもの)と心中してしまったのでしょうか。何となく、生死不明の方がロマンがあって良いようにも思うのですが。

というわけで、原作と映画をようやく鑑賞して、後は舞台がどういう展開になるかを楽しみに待つだけとなりました。原作とも映画ともまた違う味わいで、遊びや悪ふざけは抑えめにした、真摯な作品になることを期待しております。
あと、主役さん、ゴシップはもういいんで、是非歌で頑張って起用を納得させてください。

……で、レベッカの部屋にあったあのマキシムのでっかいポートレイト。舞台では飾るんだろうか?飾るとしても、エリザベートの時みたいにマグネットとかで売っては……くれないだろうなあ、やっぱり(^_^;)。