日々記 観劇別館

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DVD『大いなる幻影』感想

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
昨年の観劇リストを改めて整理してみて、
「もしかして、去年は色々と観すぎた?」
と腕組みして考え込んでいます。少なくとも、今年これからチケット発売になる作品は、出来るだけムダ打ちしないように心がけて観る物を絞り込んでいきたいと思います。

さて、お正月、連れ合いの実家から自分の実家へとハシゴ帰省してぐだぐだと過ごしている間に、実兄が持ち込んだ映画『大いなる幻影 [DVD]』(ジャン・ルノワール監督、1937年製作)のDVDを観ました。この映画は、第1次世界大戦下のドイツ軍の捕虜収容所を主な舞台としたフランス軍捕虜達の脱走劇を描きながら、国家や階級や民族の違いに起因する越えられない境界の存在を辛辣にあぶり出し、折しもナチスの台頭前夜であった公開当時において問題作ともなったという、フランス映画の古典的名作です。
――の筈なのですが、男同士の間の静かに熱い心の交流にしか目が行かず、つい邪な目で見てしまった私は、まだきっと底が浅いに違いありません。戦場でなければ決して出会うことも、友情を交わし共闘することも、そして死によって分かたれることもなかったであろう男達の物語、というのはもしかしてこの映画辺りがはしりなのでは?と思ったりして。
特に、エリッヒ・フォン・シュトロハイム演ずるところの、きっと古傷で満身創痍でさえ無ければもっと前線に身を置きたかったであろうドイツ軍の収容所長(貴族。デギン公王似)と、捕虜生活の中でもどこか超然と誇りを保ち続けるフランス貴族の大尉との、同じ身分故の魂の共鳴が渋かったです。しかもその大尉が、高貴な育ちが邪魔をして、草の根平民だったりユダヤ人のボンボンだったりと境遇の異なる捕虜仲間と腹を割った交流が出来ない不器用さん。で、苦楽を共にした仲間への友情を、ひいては自らの国家への誇りを守るため、仲間2人が脱走する際に囮になり、追いつめた所長は自ら手を下し……という顛末がずっしりと心にのしかかりました。しかも所長が大尉を看取った後、大事にしていたゼラニウムの鉢植えの花株をぶちっと切り取る場面がまた何とも胸を締めつけるのです。

ちなみに映画の後半は、ジャン・ギャバン演じる平民出身の中尉と、彼らを匿うドイツの戦争未亡人との恋愛話もあり、ちょっと甘めの展開?と思いきや、どうやらドイツ人とフランス人とユダヤ人とが同じ食卓に付き、一時とはいえかりそめの家族として幸せに暮らすという描写自体が、映画が作られたきな臭い時代にはありえない脳内平和(=大いなる幻影)であったらしいです。
戦争が終わったら戻ってくる、と未亡人に言い残して無事スイス国境を越えていった中尉は、多分二度と戻らなかったであろう、と、一見遠い昔のようでいて本質は現代と全然変わらない時代の物語に思いを馳せた今年の正月でありました。