日々記 観劇別館

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『レベッカ』原作読了 : デンヴァース夫人とマンダレイ(ネタバレ注意)

レベッカ』原作感想の続きです。一部ネタバレがあるので未読の方はご注意を。

物語の中でしつこいぐらいに美しさが讃えられている土地、マンダレイ。屋敷も庭園も、使用人も、そしてそこに流れる時間に至るまでレベッカがこだわってトータルコーディネートして作り上げられた世界として描写されています。
そうして精魂込められた世界であるからこそ、女主人の肉体が消滅してもなおマンダレイの調度品ひとつにまでその魂が息づき、人々もまた何の疑問も持たずにレベッカの魂に呪縛されたまま生き続けていたのでしょう。
そして、レベッカに長年仕えてきたデンヴァース(ダンヴァース)夫人にとっては、レベッカの肉体が失われた以上、マンダレイレベッカそのものであり永久保存しておきたいものだったのだと思います。それこそ「香水のように記憶をびん詰めに」して瑞々しいまま取っておきたかったのではないでしょうか。
だからこそ、物語終盤でレベッカの真実が暴露された時、デンヴァース夫人は、マンダレイがマキシムや「わたし」の手で作り替えられる、つまりレベッカの魂が改竄されるのは許さず、マンダレイを、ひいてはレベッカを永久のものとして留めるためにマンダレイをこの世から消し去る道を選んだのでしょう。
ただ、夫人はレベッカと秘密を共有して、レベッカの全てを知り尽くしていると思い込んでいましたが、実際にはそうではなかったわけで、それについてはどう思っていたのかが気になります。また、夫人はレベッカがマキシムとファヴェルのどちらも愛してはいなかった、と言いましたが、レベッカは恐らくこの2人のどちらかに死を賜ることを望んでいたと思われます。何故奥様はあの2人ではなく自分に命を託さなかったのか?と考えたりはしなかったのでしょうか。
とは言っても、自分の最期を所詮使用人である夫人に託すのはレベッカのプライドが許さなかったでしょうし、あるいはそれもレベッカ流の夫人に対する最後の愛情だったのかも知れません。また、遺体を迅速かつ適切に処理するのは、どちらかと言えば力のある男性に適した仕事と思われます。いずれにしても、夫人はレベッカに肉体的な死を託されることが無かった故に、マンダレイを滅ぼすことでレベッカの魂を封じ込め、主人に対する真の心を示したのだと思います。

私自身は、レベッカがあの2人に全く本当に愛を抱いていなかったかと言うと、やや疑問があります。少しでも愛情があったからこそマキシムには自身の本性を告白したのでしょうし、世間を欺く裏でファヴェルを頼りにし続けたのではないかと考えています。もっとも、彼女が最も愛していたのがマンダレイの地であることは間違いないでしょうけれど。

――というわけで、身体にまとわりついてくるような文体にどきどきして、人間心理の不思議について考えさせられながらも、どうにか『レベッカ』の小説を読み終わることができました。さて、次は映画版鑑賞だ!(いつになることやら)