日々記 観劇別館

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『ウィキッド』感想(2幕目・ネタバレあり)(2007/9/15ソワレ)

『ウィキッド』感想(1幕目)
の続きです。すみません、やっぱり長文です。

2幕ではエルファバとグリンダ、2人の女性の友情が生々しくかつドラマチックに展開されていました。一言で片づけると「男の取り合い」なのですが、変にきれい事にせず、互いを出し抜き合ったりののしりあったりする女の感情の美醜全部ひっくるめて見せているのが面白かったです。もっとも、その2人の争う気持ちをまんまと敵に利用されて大きい犠牲が出てしまったわけですけれど。
全体を通して抱いた感想は、『ウィキッド』って良くも悪くも「女の物語」なんだということ。例えばエルファバ、地道に動物達を保護し続けることでオズ一派への抵抗を続けるという手段は女性ならではの戦い方だと思うけど、一方で身内の死に逆上して暴走した行動を取るような所等、どこか女の浅薄さが感じられてもどかしくて仕方がありませんでした。
もちろん、女性同士だけでなく、総じて人間同士の触れ合いによる啓発というのがよく描き出されたドラマであったと思います。知恵や勇気や真心というのは、決して人に与えられるものでも与えられるのを待っているものでもなくて、自分で手に入れたいという意志を持った上で、恐れずに他人の心と触れ合わなければ決して手に入らない、というメッセージは、オズ本編に通じるテーマでもあります。

終幕近くの展開で、これはまさかバッドエンドになってしまうの?と思ってしまいましたが、どんでん返しがあり、割とハーフビターな味わいの終わり方で安堵しました。オズの国の将来に対するもやもやした気持ちを消すことは出来ないのですけれど。

総じて『ウィキッド』、所謂「劇団四季臭さ」が無くて観やすい舞台でした。輸入ミュージカルであることとか、登場人物のコスプレ度が高いこととかも功を奏しているのだろうか、というのはあくまで推測です。
また、『オズの魔法使い』本編のストーリーをほんのさわりしか知らなくても楽しめる程度にエピソードが挿入され、『ウィキッド』の登場人物のエピソードと絶妙にリンクされていて目からウロコが落ちまくりでした。ライオンもブリキもカカシも全部出てきましたし。


※以下、ネタバレあり。未見の方はお避け下さい。
全体に楽しい後味の物語でしたが、以下はいくつか引っかかった点やツッコミどころ。
まず、エルファバの妹ネッサの死に様は、いくらオズ本編の「東の悪い魔女」であるとしてもあんまりだと思いました。じゃあ、そもそもダンスパーティーでその場しのぎのお節介をして、自分に思いを寄せるボックをネッサに仕えさせるきっかけを作ったグリンダがいけないのか?と言えば決してそうではなくて、ネッサ自身が負の感情のスパイラルから自力で脱出出来なかった上、ボックの真の心からも目を背けて現実と向き合おうとしなかった結果であると言ってしまえばそれまでなのだけど。
負の感情に甘んじて、元々は心優しい少女だったネッサの美点も見ずただの足枷としか考えようとしなかった上、彼女に殺されかけても反省せず他人ばかりを責め続けた点ではボックも同じなのですが、彼はブリキの木こりに変身させられた後、恐らくドロシーと出会ってちょっとは更生出来ただろうことを考えると、ただエルファバを追いつめるためだけに殺されたネッサの最期は哀しいです。
次に、エルファバがドロシーに消された場面。最初、エルファバが本当に消滅したと思い込んでいたので、
「どうやって水をかけただけで死ぬようにしたの?自分自身に魔法はかけられないと思うけど。そうか、バケツの水はきっと自己を消滅させるための魔法を発動させるスイッチだったのね」
と一所懸命考えてしまいました(笑)。後から振り返ると、水はスイッチではあったかも知れないけれど、それはあくまでオズの液体とすり替わるためのトリックであったわけで、見事ペテンにかけられた!流石国家的ペテン師の娘!と納得した次第です。

この物語が本当に一筋縄ではいかない、と思ったのは、オズもマダム・モリブルも元々は国を平和に導くための善意と熱意から、動物の管理や人心操作の政策を打ち出したということです。結局、それらは暴走し、エルファバ、フィエロ、そしてグリンダの反逆を生んでしまっただけでしたが、その反逆したグリンダの取った策というのも、オズの追放とマダムの拘禁というかなり強硬なものであったことに、一抹の不安を覚えてしまいました。
いや、首謀者であるあの2人を追い出さない限り計画は頓挫しなかったというのは分かっているのですけど、これからまたグリンダは魔法を使えるふりをして国民を欺いていかなければいけないわけなので、そうすると偽魔法使いだったオズと同じだよね、と思ったもので。でも、別れの前にエルファバが魔法書を「これで勉強しなさい」と言って譲り渡しているから、例えばレベルの高い魔女にはなれないとしてもきっと彼女は努力するだろうと信じたいです。

蛇足かも知れませんがもう1点、エルファバ&フィエロの結末についても一言。
拷問死を逃れさせるための魔法の結果とは言っても、彼がカカシの正体であったというオチにはひっくり返りそうになりました。「西の悪い魔女」としての自分を抹消してただの1人の人間の女になったエルファバと、ユーモラスな姿だけど愛する人のために知恵と勇気を手に入れたカカシとが手を取り合って去っていくラストは実に微笑ましかったですが、色々な意味でグリンダは真実を知らない方が幸せだろうと思いました。