日々記 観劇別館

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『ウェストサイド物語』感想(2007/9/15マチネ)

リフ=松島勇気 トニー=阿久津陽一郎 マリア=笠松はる アニタ=樋口麻美 ベルナルド=加藤敬二 チノ=中村匠 ドック=立岡晃 シュランク=山口嘉三(劇団昴) クラプキ=牧野公昭 グラッド・ハンド=青羽剛

本日、四季の別演目マチソワを敢行いたしました。四季劇場[秋]で上演中の『ウェストサイド物語』(以下、WSS)と電通四季劇場[海]で上演中の『ウィキッド』。劇場でも宣伝しているように、両劇場は徒歩15分程度とお散歩には程よい距離でした。
さて、WSSですが、実のところさほど思い入れのある演目ではありません。15日にウィキッドを観る予定の方が先に決まっており、じゃあ、折角東京に出向くのだから時間もちょうど良さそうなWSSを観ておくか、というだけでチケットを取ったものです。その後、前から一度観てみたいと思っていたダンスの名手加藤敬二さんがキャスティングされていることを知り喜んでましたが、それ以外の四季の役者さんは知らないし、まあ、どうでもいいや、という不届き千万な心がけで観劇に臨みました。

一番目当ての加藤さんのダンスは噂通り凄かったです。動きに全く無駄が無く、実に軽々と綺麗なダンスを見せてくれるベルナルドでした。
メインのキャストが全て登場した時点で思ったのは、WSSって登場人物のキャラクターが実にしっかりはっきり色づけされているということ。マリアは出てきた瞬間から可愛く無垢な少女だし、アニタは情熱的だけどしっとり美人なお姉様だし(樋口さん好演)、リフはいかにも若さが危なっかしいし。
そしてトニー。そう言えばこの役、昔、四季時代の山口さんや綜馬さんも演じたんだなあ、と観ながら思い出しました。歌はあるけど他のジェット団メンバーに比べると激しいダンスは無いから、だから山口さんも演じられたんだな、と失礼なことを考えてみたりして。阿久津さんのトニーははまり役だと思います。正義感が強いけど屈託無くてバカっぽい無邪気なトニーで、もしかして山口トニーってこんな雰囲気だったのかしら?と彷彿とさせるものがありました(あくまで雰囲気だけの話です)。

しかしWSS、ずっと昔映画(レンタルビデオ)で観たことがあるので分かってはいましたが、アメリカの貧富の差、移民問題、人種差別など、現代でも解決されていない問題が重いです。ただ、個人的にはそれらは決してメインテーマではなく、あくまで敵対勢力に属する男女の悲恋ドラマをメインとしているのが、この演目が長年人気を保っている理由だと勝手に解釈しています。
映画で観た時と印象が異なったのは、トニーとマリアのデュエット「トゥナイト」。シチュエーションは映画と舞台でまるっきり一緒なのに、映画を観た時の「隠れて会っている癖にこんな朗々と熱唱するなんて何事ー?」という印象(ひねた10代の頃なので)は、舞台では全くありませんでした。舞台では、2人の背景のスラムの汚いビルが一瞬だけかき消えてロマンチックな星空に変わるのですが、その後の2人の運命に思いを馳せるとかなり胸に迫るものがありました。
また、2幕のマリアの部屋をトニーが訪れる場面で、甘い愛にひたりつつ人殺しという現実に怯える2人の心情を表すダンスシーンも綺麗でした。1幕で殺されたんでもう出ないと思っていた加藤さんも回想シーンで騎馬戦状態で踊ってましたし。これは映画版にあった場面かどうか記憶がありませんが、舞台という空間ならではの感動だと思いました。

で、最後まで見終わって、ああ、実はWSSって女性=マリアの成長物語でもあったんだ、と今更気づいた私。マリアが甘えん坊の少女から恋する少女へ、そこから一足飛びに恋人のために全てを捨てようとする女となり、ボタンの掛け違いで誰も望まなかった結末に至った後は、トニーを看取る聖母に。一転して社会悪に目覚め、事件に関わった人々に銃口を向けて糾弾する彼女には、一瞬だけ女闘士っぽい雰囲気が漂っていました。……でも直後に銃を取り落として泣き崩れちゃうのは作品が発表された時代の限界でしょうか。マリアはあの後スラムを出て行くのかな?それとも結局あそこにとどまらないと生きていけないのかな?と、映画を観た時には考えもしなかったことが気になっております。