日々記 観劇別館

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『ダンス・オブ・ヴァンパイア』日本版私的総括

昨日の時点で精神的に消耗したので結局楽の当日抽選に賭けることはしませんでした。気持ちの整理のために、自分にとってTdVって一体何だったのかということを考えてみたいと思います。
開演前は、日本での初演版ということ、また、演出家の評判に疑問符がついていたことなどから、これでもし「金返せ!」な内容だったらどうしよう?と心配しておりました。
ところが蓋を開けると、7月前半は確かにキャストの皆さんがまだ様子見なのかな?という面こそありましたが、次に観た8月にはキャストもかなり余裕が出てきていて、ダンスも揃ってきて、「これは面白い」「繰り返し観ても損はない」と思うようなものに仕上がっていました。(でなきゃ前楽チケ取りになど参戦しません。敗れたけど)

ウィーンなどの海外版は観ていないので余り偉そうなことを言えたものではありませんが、動画掲示板などで流れている断片映像と引き比べる限りで感じたのは、やはり舞台装置がチープでせせこましいという点です。特に伯爵城。チープ感で笑いを取るという手法もあるにはあるでしょうけれど、箱入り娘のサラが自ら走っていってしまうほどの魅力のあるお城なのだから、もっと豪華にゴシックなイメージで作り上げて欲しかったです。宿屋の玄関広間のセットでは逆にそのチープさが活かされて、「ニンニク」などのシーンでの閉ざされた村の猥雑感がいい感じに出るというメリットがありましたが、豪華であるべき所は徹底的に作り込んでもらいたいです。
#それこそ昔見てたドリフのコントのセットの方がよほど作り込まれてると思いました。(私だけ?)

また、ダンスシーンについて。別に日本版に不満はございません。ダンサーの技量が海外に比べると格段に劣っているというわけでもないと思います。唯一、ウィーン版(くどいようですが断片的な映像しか観てません)と比べると足りないのは重厚感ではないでしょうか。ウィーン版のヴァンパイアダンサーズにはある退廃的なゴシックのにおいのする拵えが、日本版では墓場のシーン以外では薄められて、曲調に合わせたモダンなロック調の拵えになっているので、それも大きい原因かも知れません。逆にデビルマンぽいグロテスクな暴力のにおいのする出で立ちにしてみるとかして思い切り壊してみたなら、また印象が違ったような気がします。帝劇に似合うかどうかとか、年配の奥様方の評判がどうかとかは分かりませんが。

では、ウィーン版やポーランド版が至上か?と言えば、自分的には決してそうではなかったりします。何故なら、伯爵が山口さんじゃないから(笑)。と言ってしまうと身も蓋もないのですが、何でも海外版の方がベストで日本版はまだまだ、という目線はあまり好きではありません。日本版も幕間のクコール劇場など、海外と違う要素を盛り込む工夫をしていましたし。また、アルフレートの頼りなさが可愛さに結びつくイメージやヘルベルトの退廃的な美しさ*1も日本ならではの好演出でしょう*2。伯爵は……演出がゴシックだろうと軽かろうと、どんな状況に置いてもあのキャラクターなのでしょうけれども……他の海外版に比べるとモンスター度合いが低く枯れてない感じなので、あれなら血を吸われても良いぞ、という気にさせられます。伯爵は歌唱レベルもウィーンキャストにかなり拮抗していると私的には思っております。彼の歌は人によりかなり好き嫌いが分かれるようですので、これが絶対評価ではありえないのだろうけれど。
ただ、前にも書いたように、全体的にキャストの実力に資するところが大きいと感じられました。このため、例えば劇団四季のポリシーのように、演出と作品がしっかりしていさえすれば演じる役者は誰でも良いというわけではないのが日本版の欠点ではあります。

……でも、それでも面白かったのですよ。上に書いたような日本版の独自要素がツボにはまってくれて。自分の場合、音楽の良さとかダンスの美しさだけでははまりツボにならない*3のだということが、今回の作品でよく分かりました。TdVの欠点としてよく言われるストーリーの整合性も、最後にはどうでも良くなっていましたし。贅沢を言えば、7月前半にあのノリが出てれば、とつい悔しがってしまうのですが。

ということで、楽しい夏も終わり、次は11月のCD発売(既に配送予約済み)とM.A.上演までしばらく沈静化できるかな?と思っています。そろそろ仕事も忙しい時期に入るのでちょうど良いと言えば良いのですけど、少し寂しいところです。

*1:ヘルベルトについては演じた吉野さんの技量あってこそのものです。

*2:教授のように、世界どこの上演であっても共通イメージを求められるキャラクターは別。

*3:要らない、のではなく「だけでは」がポイント。