日々記 観劇別館

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『ミー&マイガール』感想

6月10日に友人の誘いを受けて、帝劇でミュージカル『ミー&マイガール』を観てきました。
 当主を喪ったヘアフォード伯爵家。かつて当主の許されない結婚で産まれ、長年消息のわからなかった一人息子がようやく発見されたが、その息子ビル(井上芳雄)は下町ランベスで育ったべらんめえ口調の粗野な青年。後見人である公爵夫人マリア(涼風真世)や男爵ジョン卿(村井国夫)は当主の遺言にある後継者の条件「貴族の身分にふさわしい」人物に彼を育てようとし、一族の娘ジャッキー(純名りさ)は妻の座を狙い誘惑。下町から連れ添う恋人サリー(笹本玲奈)は階級の違いから身を引こうとするもビルは流れに抗い…という展開を記すとメロドラマな感じですが、実際は軽快なダンスナンバーやパロディで満たされた、とても楽しくて可愛いお話でした。

井上君の歌は『エリザベート』や『MOZART!』のCDで何度となく聴いていたものの、生の舞台は初めて。CDの歌声では高音部が金切り声の絶唱になっていてそこが耳について仕方がなかったのですが、今回のミーマイで聴いた歌声はソフトな感じで全然高音部が気になりませんでした。音域上無理をしなくて済む曲が多かったのかもしれないし、曲調も絶唱するようなものがなかったというのもあるけれど、彼は本当に「歌える」人なのだと今回知ることができました。
 ビルとしての演技は初登場シーンが子犬のようにきゃんきゃん暴れていて可愛かったです(^^)。早くに母親を亡くし、生きるためには何でも(恐らく時には悪事も)やってきたような青年なので、本当は「可愛い」だけじゃないと思うんですが、多分彼は今までの境遇を全て受け入れ真っ直ぐに生きてきただけなんだろうな、と思わせるものがありました。一見無分別な子供、という印象ですが、途中で労働者階級の友人に手紙で決別を告げられた時の反応で、この青年が決して愚かではなく、現実を悟っているのだけど懸命にそれに抗おうとしているのだということがわかります。
 玲奈ちゃん演じる下町っ子サリーも素敵でした。最初にビルとともに騒ぎまくってテーブルの下に隠れ、食べ物やテーブルウェアを抱えて逃げていく場面の可愛さといったら!ある日突然貴族になってしまった恋人から身を引こうとする彼女の行動を、時代にそぐわないと思う人もいるかも知れませんが、彼女の行動原理が全て「ビルの将来のため」で一本筋が通っていてうじうじしていないためか、あまり前時代的な印象はありませんでした。
 どうしても主人公中心に語ってしまいますが、屈託なく育ったわがままお嬢様、ジャッキーもなかなか見どころ満載でした。特にビルにガウン1枚でモーションをかける場面。可愛くて色っぽくて、あれではビルが一瞬とは言えほだされてしまうのも無理がありません。プリンス井上君が下半身パンツ一丁(上半身は着てます)という貴重な姿も見られましたし(笑)。

あまり細かく書いてオチがネタバレしてしまってもまずいのでストーリーと無関係の話題を二つほど。
 一つ目は、開幕前にロビーの階段で、一幕目ラストの客席参加ナンバー「ランベスウォーク」の振り付け練習というのがありました。アンサンブルの皆さんと指揮者の塩田さんまで参加されて、ダンスの決めポーズをやさしく楽しくレッスンして下さったのですが…。
 いざナンバーが始まったら、周りの誰も立って踊りゃしねえ!そりゃ、前から10列以内で踊るのは勇気いるかも知れませんが。そんな中で自分たちだけ踊る勇気はありませんでした。アンサンブルさんたちも客席に降りてきてるのに。ああ小市民。後で劇場でお会いした同行の友人の友人からも「何故踊らなかったの?」と突っ込まれた次第。エンディングではその分までスタンディングで踊りまくり、ポーズを決めたのは言うまでもありません。

もう一つは二幕目のジャッキーと婚約者ジェラルド(本間憲一)との球打ち(クリケット?)の場面。後日再見した友人によれば、ジャッキーが打ったボールが下手出口へホールインワンしてジェラルドにほーら拍手、というのが本来の展開だったようですが、筆者が観た時にはボールが一度壁に跳ね返ってジャッキーの元に戻ってきてしまっていました。苦笑いする純名さんに本間さんがすかさず「はいもう一度ー!」という感じでフォローして、無事出口にイン。客席からも拍手。NGなんですがなごむ場面でした。

歌以外の井上君ですが、ダンスはその善し悪しがよくわかりません。他のサイトで「タップは玲奈ちゃんの方が上手い」とか書いてるところもありましたが(^^;)、ジャンプ力もあって動きもしなやかで、私としては別に違和感は感じませんでした。演技は、初登場とラスト近くのビルで、実は同じ服を着てるのだけど、語り口調とかが全然違うのに感心。ただ、ジョン卿との図書室でのかけあいの場面など、もうちょっと余裕かましてもいいんじゃない?と思う場面もありました。どちらかと言えば器用な役者さんだと思うので、まだまだ伸びて欲しいです。

…また長くなってしまいました。簡潔にして要を得る文章を書きたいのだけど、なかなか難しいですね。