日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『ミス・サイゴン』感想(2022.08.12 18:00開演)

キャスト:
エンジニア=駒田一 キム=高畑充希 クリス=海宝直人 ジョン=上野哲也 エレン=松原凛子 トゥイ=西川大貴 ジジ=青山郁代 タム=藤元萬瑠

 

ミス・サイゴン』帝劇公演を観てまいりました。

この演目を観るのは2008年以来2回目14年ぶり、新演出では初鑑賞でした。長期間観ていなかったのは、そんなに好きではない(ぶっちゃけ嫌い)な演目だからです😅。にもかかわらず、2020年の再演が発表された時に、キャスト表を見て「ぜひ高畑充希ちゃんのキムと海宝直人くんのクリスが観たい!」という気持ちが湧き起こりました。しかし2020年公演はご存じのとおりコロナ禍の緊急事態宣言で全て中止に😢。そんなわけで2022年公演が決まった際に、満を持してチケット確保と相成りました次第です。

ということで、キムとクリスを中心に、以下、感想です。

2年間待っていた充希キムは、序盤のおどおどした田舎娘から恋に華やぐ少女、そして中盤以降の意志の強い一途な女性への変化が鮮やかでした。また、2幕途中で回想シーンがあるのですが、そこで一旦母親になる前のキムに遡った上で再度現在のキムに戻り、過去に犯した罪の意識に苛まれるスイッチの切り替えが見事なのです。

歌声も清純さと凛々しさをたたえた澄んだ声で聴きやすい印象。ただ、これはそういう歌唱指導なのでしょうか、たまに母音強め、子音弱めで歌っていて、歌詞が聞き取りづらい所がありました。

キムはかなり感情の振り幅の激しいキャラクターではありますが、充希キム、時に一途さが狂気を孕んで発揮されていて、ぞっとする瞬間も多々見受けられます。そんな彼女が「これが最後の仕事」とタムの手を取り引き渡し場所へ向かう時の、全てを決めている表情の神々しさには惹きつけられずにいられませんでした。まあ、だからと言ってあのラストシーンの後味の悪さが変わるわけではないのですが。

もう1人待望していた海宝クリス。彼のクリスは本当に「普通の青年」でした。ただ普通に人生を送りたいだけなのに時代に振り回され、母国にも居場所がなく、という状況で、やはり普通の人であるエレンに居場所を求めたのは必然であるという説得力が彼にはあります。あの誰も幸せにならないラストでの海宝クリスの悲しげな表情が忘れられません。カーテンコールでは、充希キムも海宝クリスも心底放心したような表情で登場しますが、特に海宝さんはカーテンコールの最後の方まで感情を引きずっている感じだったのが心に残っています。

歌は、充希キムとは合っていると思います。2人のデュエット「世界が終わる夜のように」を聴いて、2年間待った甲斐があった! と感慨深いものがありました。

次に、全体の感想について。

14年ぶりに再見し、新演出ではヘリコプターが本物ではなくなったなどと聞いていたので、違和感があるのでは? と心配していましたが、全く違和感はありませんでした。と言うより、そもそも途中の細かい展開を綺麗さっぱり忘れていました! 何せ途中で、
「あれ? ヘリって、前は1幕で飛んできていなかったっけ? いきなりベトナム統一後の兵士とか再教育とか出てきても分からないよ」
と本気で思っていたぐらいですから……。

あと、トゥイについて、旧演出で観た時は、キムに今度こそはフラれないよう立身出世して迎えに来たのに可哀想、ぐらいしか思いませんでしたが、今回改めて観ると、どっぷり共産主義の軍人に染まっていた上に、エンジニアの扱いが結構ひどいので、何とも言えない気持ちになりました。ただ、キムに対しては少なくとも、タムを人質に取っては見たものの、危害を加えるつもりゼロですし、結婚しても悪いようにはしないだろうし、キム、一旦言うこと聞いてついて行った方が良かったんでないかい? と言う気がしないでもないです。

ところで西川トゥイ、押し出しに迫力があってなかなか良かったんですが、なぜか時々阿部サダヲさんに見える瞬間がありまして😅。私だけだと思いますが……西川さんすみません。

それから、「ブイドイ」については、アメリカ兵が残した子供たちを自虐的であっても「ゴミクズ」と呼ぶことにずっと違和感を覚えています。まあ、あれはアメリカの男性的視点での贖罪であり、ジョンという人物もアメリカの男性的視点での良心の象徴なのかな、と解釈しています。

エレンは極めて良識的なアメリカ女性の象徴として描かれていると思っていますが、あのベトナムの子供たちを実際のところどう見ていたのか、あまり描写されていないですね。信仰上救済が必要な存在と考えていたとしても、自分の夫が当事者であり、現地妻のキムがいたと知った後、どちらを選ぶのかと迫りはしましたが、タムを引き取ることについてどこまで彼女の中で落とし込めていたのかが、実はあまり舞台からは見えてきませんでした。

もう一つ、「アメリカン・ドリーム」。エンジニアは市村さんでしか観たことがなかったので、駒田エンジニアはかなり新鮮でした。あの薄汚さ加減と象が踏んでも壊れない筆箱のような精神力と、ゴキブリのような生命力! ある意味市村エンジニア以上だと思います。それでいて心に純粋な夢とどこか高邁な精神を抱いている面も伝わってくるのが良いのです。

でもそんな駒田エンジニアも、アメリカが実際にどういう場所なのかは脳内ドリームでしか知らないのだ、と思うと、「アメリカン・ドリーム」はとても悲しい歌に聴こえてきます。そしてキムはアメリカにタムと渡ってクリスと再会して暮らすことを望んでいて、自分の夢が叶わないならせめてタムだけでも、と願いましたが、多分彼女のアメリカのイメージに具体的なものは「クリス」しかなかったのだと思うと、もっと悲しくなります。

そして、エンジニアもキムも、では、アメリカに自力で渡って何とかできるか? と言えば、そういう力を一切持っていない人たちである、という点で、よりラストシーンにかけて無力感が強まっています。もっとも、キムにとってはアメリカ=クリスだったので、クリスを手に入れられないアメリカに自分が渡る意味は見出していなかったでしょうけれども。

というわけで、今回も『ミス・サイゴン』は私の好きな作品には格上げされませんでした。曲はこんなにも素晴らしいものがたくさんあるのに。またしばらくは観ないような気がします。

 

『My Story, My Song ~and YOU~』千穐楽感想(2022.5.22 13:00開演)

キャスト:
山口祐一郎 大塚千弘 吉野圭吾

5月19日に開幕した『MSMS』。惜しまれつつ、早くも千穐楽を迎えました。

劇場出入口には満員御礼の札が立てられており、客席に入ると配信用のカメラが何台か設置されていました。12列あたりの両端壁側の座席はやや視界が厳しそうな気配が漂っていましたが大丈夫だったのでしょうか。

千穐楽のゲストは吉野さんと千弘さん。
予想通り、仕切り役は千弘さんで、しかも祐一郎さんから小学校の先生に見立てられて「先生、次は捌けていいんですか?」等と頼られていました。やはり21日の舞台捌けミスが堪えていたのでしょうか……?

「配信あり」という制約があったためか、トークの内容はこれまでの中で最も収拾が付いていたと思います。ただ、下ネタはもう少し自粛しても良かったかも知れません。

以下、思い出しトークです。そのままの内容ではなく概要で、たまに細部が怪しいものもあるのでご容赦ください。

3人のつながりは?

祐一郎さん→千弘さんは、高校生から知っているというお馴染みのお話。祐一郎さん→吉野さんは『ジーザス・クライスト・スーパースター』(JCS)が最初だったようで、『ウエスト・サイド・ストーリー』(WSS)でも共演されていた模様。

なお、祐一郎さんですが、吉野さんとの初顔合わせの時に自分にあまりにも似ていたので、「うちの親父、また一個(子供を)外にこさえたのか?」と思ったそうです。その後は何回か吉野さんの細胞が入れ替わったので違ってきている、とも言っていましたが……。

吉野さんと千弘さんは『笑う男』の悪い人繋がり、という発言が何度か出ていましたが、あれ? デヴィットはともかくジョシアナって悪だったっけ? とひっそり謎に思っておりました。

 

昼公演と夜公演の間の過ごし方は?

祐一郎さん:お弁当を食べたら15~20分ぐらい横になって寝ている。これはトレーナーさんから教わったやり方。
吉野さん:自分は座ったまま眠る。横にならないようにとトレーナーさんから言われたので。
祐一郎さん:自分が教わったトレーナーさんはセ・リーグで連続優勝したチームを担当した後でパ・リーグのチームを担当し、そこも連続優勝したという方。座ったままだと首が疲れない?
(と、ここで吉野さんが、自分が椅子に背をもたれて脚を伸ばして寝ている姿を再現したので、脚のリクライニングの角度を指導して)今はそれで良いかも知れないが、そのうち何年か経つとぼくがそうしなければならない理由が分かると思う。
吉野さん:WSSの時にアンサンブルで指パッチンしていたら、先輩に「おまえ、それじゃダメだ!」と指導された(と、先輩の怖い口調の物真似で再現)。
祐一郎さん:(配信に配慮してか、乱暴な口調から丁寧な口調に直すように指導した上で)吉野さんは後から入ってきて歌も踊りもできたから、それで嫉妬されたのだと思う。
吉野さん:その時は、自分が全て悪いのだと信じていました。
祐一郎さん:これもある人に言われた言葉だが、緊張して苦しいと思ったら今までに一番緊張した時のことを思い出そう。それ以上に苦しいことはないと思えて気持ちが楽になる。と言われた。

 

3人の共演作について

祐一郎さんと千弘さんとで、昨日も話題に上った『レベッカ』の「Ich空気椅子事件」と「マキシム釘付けドア蹴破り事件」について再度語られました。

『三銃士』では、階段落ちなどの激しいアクションを務めた末に吉野さんのアキレス腱が切れた時、その音が(舞台袖にいた筈の)祐一郎さんにも聞こえた、という話がありました。その後吉野さんは、つま先が動かず踵だけで歩く状態で帝劇楽まで出演を続けましたが(博多座公演では原慎一郎さんに交代)、舞台袖に車椅子でスタンバイしている時には祐一郎さんが車椅子を押してくれていたとのことです。
 →この件ですが、当時、「吉野さんに東京楽まで無理をさせた」東宝さんに憤りを覚えていました。あれを美談にしてはいけないと今も思っていますが、かの作品での祐一郎さんと吉野さんの関係の良さを象徴するような息の合った演技も覚えていて、事情は東京楽まで知らなかった(気づかなかった)ものの実は負傷当日の、恐らく負傷後の処置や続行判断等のために休憩時間が延長された公演も観ていたので、今回のトークを聴き、役者さん方の当時のそれぞれの思いを引き出しを開けて垣間見せていただいたような気持ちになりました。

TdVの話題もありました。ヘルベルトは、1幕最後に登場するので、大体他のみんなは最初の出番が終わってほっとしているのに、一番後まで緊張が続く。なので、吉野さんは1人で舞台裏のゴミ箱の前で「やっと、退屈に、さーよーなーらあぁー」とか「あーあーあー」(2幕のお風呂の歌)とかを練習していたそうです。

千弘さん:吉野さんが、白いうさちゃんを手作りしてきて。
吉野さん:そう、白いうさぎを連れていて、一人っ子で。
祐一郎さん:えっ、うさぎ、一人っ子だったの!?
 →私もそう勘違いして聞こえましたが、ヘルベルトのことだったようです。一人っ子で寂しいからお友達のうさぎさん(確か「しろちゃん」と呼ばれていたような)を作ったとか。

吉野さん:衣装がTバックだったのでワイヤレスマイクの発信機が背中に付けられなかった。やむを得ず、Tバックの「前」の方に発信機を付けたらちょうど良かった(と、股間に装着する仕草)。

ここで祐一郎さん、「わーっ!」と叫んで吉野さんの前に躍り出て隠すポーズを取っていました。これは祐一郎さん、賢明な判断だったと思います!

千弘さん:だったらカツラに付ければ良かったのに。私はそうしてました。
吉野さん:いや、ヘルベルトはカツラの形の関係で出っ張れないので……(ゴニョゴニョ)

 

次回作について

祐一郎さん:今回、作品名は言えないが、B130、W120、H130の奥さんになって禅さんとデュエットした。まだ色々あって言えないが、多分公演があると思う。
 →もし本当に実現するなら、ありがたや、ありがたや😊

千弘さん:『スラム・ドッグ・ミリオネア』をクリエでやります。弁護士役なので台詞覚えが大変。
吉野さん:『シスター・アクト』をやります。

 

その他

多分最初の方だったと思いますが、祐一郎さんが、配信は地球の裏からも見ている。リーヴァイさんも見ている、と言いながら地球の裏側のリーヴァイさんに手を振って呼びかけていました。リーヴァイさんが、「この国にきて初めて、日本というこんなにチャーミングな国があったのだ、と知りました」と仰っていた、というお話もしていました。

また、吉野さん、トークは配信慣れしていない感じの若干際どいモードでしたが、おりがみでかえるやかにを作ってきていて、それらが質問コーナーの質問箱の中から次々に取り出され披露されていました。うさぎさんの話も相まって、吉野さんの手先の器用さを印象付けるエピソードだったと思います。

 

2幕のコンサートは、めでたく東宝演劇部公式Twitterセットリストが公開されましたが、以下にもリストを記載します。

なお、3曲目は、ヘルベルト=吉野圭吾 アルフレート=山口祐一郎 の配役により披露されています。赤いジャケットに縞のマフラーをまとったオーバー60な祐アルフレートは実にかわいらしく、吉野ヘルベルトにリードされてのデュエットダンスのステップも軽やかで、吉野ヘルベルトに「今までのアルフレートの中でこんなに上手い人はいない」と言わしめていました。ご本人は曲が終わった後必要以上にぜーはーして息が上がったフリを強調していましたが😅。あと、あちこちの界隈で指摘されていましたが、祐アルフレートが逃げる時の「☆※◎*★◯◆!」という言語になっていない悲鳴は浦井アルフレートが元ネタと思われます。

それから、千弘コンスタンツェの「私だけに」も見事でしたが、「ダンスはやめられない」が聴けたのはうれしかったですね。彼女が舞台でこの曲を歌ったのは18、9歳の頃だったようですが、この曲はある程度年を重ねた今の彼女だからこそしっくりくる、と感じました。

そして、何と言っても祐一郎さん。とにかく歌唱の情感が、どの曲でも溢れかえっていました! ファントムの歌声は柔らかで甘い夜の帳で劇場を包み込み、マキシムは悪夢から解き放たれ、ロバートの心には広大なコーン畑と恋人の面影がどこまでも広がり……。ロバートについては前日のトークで、マディソン郡に実際に行き、イタリアから花嫁が嫁いだ相手が軍服を脱ぎ捨てトラクターに乗っていた広い広いコーン畑を体験してきた話を、とても懐かしそうに、楽しそうにされていたのが印象的だったので、余計に心の風景とシンクロしたのかも知れません。

何を置いても圧巻だったのは、ラストの「糸」。まさに一本一本糸を優しく紡ぐように歌われるこの歌の途中、祐一郎さんの感極まった表情を見て、この人もしかして、途中で泣いちゃうんじゃないかな? と心配になったぐらいです。そして歌い終えた瞬間から一呼吸おいて、極上の笑顔!

幸せすぎるひとときを過ごした公演の終了から1日以上が経ち、今は呆然としがちな自分の頬っぺたを引っ叩きながら現実に戻っています。多分、次回作発表までの間は、あの泣きそうなお顔と笑顔の思い出で生きていけるだろうと確信します。まさに、たとえ写真が色褪せても、鮮やかな色合いで記憶に残るに違いありません。

できればそう遠くない未来に次回作の発表があり、また劇場でお目にかかれますように。

 

『My Story, My Song ~and YOU~』感想(2022.5.21 13:00開演)

『MSMS』(Microsoft×2ではない)を再度観てまいりました。

トークの内容もセットリストも毎回少しずつ異なる、しかも今回のゲストの組み合わせは1回だけ、ということで「ネタバレ御免」ですのでご了承ください。

今回のゲストは知寿さんと千弘さんでした。

座長がフリーダム過ぎたためかは定かではありませんが、どうも前日の公演が予定時間を大幅に超過して終了したらしいという話も聞こえてくる中、祐一郎さんが登場するや否や、女性陣が懸命に仕切りを試みていました。

何しろ、隙あらばあらぬ方向(ご本人的には何らかの方向が見えていそうですが)に話の舵を切ろうとする座長。果敢にもそのしゃべくりを容赦なくぶった切り、舵を戻すべく頑張るお二人。

例えば、千弘さんが「トークには6つのテーマが……」と口にすれば、「テーマとか言われても難しい」と言う座長。それに対しすかさず「では、『お題』で!」と返す千弘さん。

客席からゲストのお二人に、心の中で「頑張れー!」「いいぞもっとやれ」とエールを送っておりました。……すみません、これでも一応座長な方のファンな筈です。

というわけで、後からずるずると思い出しそうですが、今思い出せるものだけ、いくつかトークの概要を記します。1幕のトークショーだけではなく2幕のトークも混じっているかも知れません。

3人の出会いは?
祐一郎さん:保坂さんも大塚さんも(通常「ちひろりん」と呼ぶようですがこの時は呼んでいなかったような)高校生の時から知っている。あ、「知っている」って辞書に色々な意味がありますけど、この手元の進行表を見て「これ知っている」というのと同じですよ?
 →これ、観客が他にどういう意味を想像すると思っていたのでしょうか?😅

祐一郎さん:保坂さんが高校生で劇団のオーディションを受けに来た時は、ぼくは残念ながら駐車場係だった。後から中にいた同期から噂を聞いて見に行った。
千弘さん:高校生の時、祐さんの楽屋にご挨拶に行って……。
祐一郎さん:そうそう、その高校生と夫婦役をやって……ご両親に申し訳なくて……。
千弘さん:(「夫婦役は20代の時です」等と丁々発止を繰り広げた上で)共演できて、いつも両親も喜んでいますよ。
祐一郎さん:もうね、そんなこと言われたら、このまま楽屋で心筋梗塞で逝っても良いです。
 →いや、どうかお願いですからまだ逝かないでください💦

先輩に言われた言葉で心に残っているものは?
千弘さん:『笑う男』の時に、世間で辛いニュースばかりが流れていたので「こんな中で舞台に立つのは辛い」と嘆いてしまった時に、祐さんから「お客様も(辛いニュースを聞いて)同じことを思っているよ」と励まされた。
知寿さん:昔、劇団でロングラン(CATS?)をやっていた頃、先輩から「休みなく仕事があっていいね」と言われた。でもその後劇団が忙しくなり、結局その先輩の方が先に倒れてしまった。
祐一郎さん:ある先輩に言われて、高速道路を大町から東京まで150kmまで飛ばしたが、何事もなかった。その先輩に「規則は自分で決めればそうなる。でもおまえには無理だ」と言われたが、ああそういうことがあるのか、と。でも震災の時に突っ張り棒を買いに行こうと高速の螺旋状の道を回って出ようとしたら、お巡りさんが手招きをする。お巡りさんの顔を見ながらゆーっくり走っていたら止められて、「一時停止していない」と言われてしまった。
 →これ、ちょっと分かりにくいですが、多分、自分のルールは自分で決めていいけれど、社会で守るべきルールの前には太刀打ちできなかったですね、ぼくは所詮、道交法というルールの壁も超えられませんでした、というオチなんだろうと理解しています。

旅公演に必須のものは何?
祐一郎さん:(千弘さんに「30秒以内にまとめてください」と言われ十数秒悩んだ末に)コンビニ!
知寿さん:ホテルの室内を浄化するスプレー!
 →「消○力」的な何かでしょうか。そしてちひろりんの答えを失念……。

(2022.5.22追記)Twitterで教えていただきちひろりんの答えを思い出しました。「バスソルト」でした。さすが『レベッカ』の2回公演の合間にも入浴していたほどのお風呂好きさんらしい答えだと思います。

その他
知寿さん:(栗山梢さん演奏の「アメリカン・ウーマン」のメロディーを聴いて)「これ何の曲?」
 →千弘さんに「『レベッカ』に出てらしたのに!」と突っ込まれてました。

祐一郎さん:(語る前に2回ほど耐えられずに吹き出した末に)『レベッカ』で「幸せの風景」を歌っている最中に、(風景画を描く)Ichが座っていた小さい椅子が突然ぱたんと倒れてしまったが、Ichはこうやって空気椅子をしていた。
千弘さん:器械体操部だったので、空気椅子で頑張りました!
祐一郎さん:そういうことが何回かあったんですよ。

祐一郎さん:『レベッカ』で、Ichがマキシムとの別れが辛くて涙する、それをドアの外で聞いていたマキシムがドアを開いて……という場面で、ドアを開けようとしたがドアノブを回しても蹴っても開かないことがあった。その場面のドアは天井から降りてくるようになっていたが、ドアが空中で開いてしまうので、それを防ぐように(大道具さんに)指示が出ていた。後で見たらドアが横から五寸釘6本で釘付けされてしまっていた。困っていたら、スタッフの「ツッチー」さんが「ぼくがやります!」と駆けつけてくれて、一緒にドアを蹴破った。マキシムは床に転がり、衣装のホコリを払いながら立ち上がったが、それでもIchは何事もなかったように歌い続けていた。そしてようやく2人が抱き合えた時、客席からは拍手が起こった。

 

そんなこんなで爆笑と拍手の内に1幕のトークショーが終わり、25分間の休憩の後に2幕のミュージックショーが始まりました。

以下はセットリストですが、またもや一部曲名が分からないものがあります。もし曲名が分かったら直します。1曲目とラストの曲は各日共通のようです。
東宝演劇部Twitterのリストに基づき、一部曲名を追加・修正しました。(2022.5.25)

この2幕で、ちょっとしたハプニングがありました。

「In His Eyes」で知寿さんと千弘さんがデュエットに入る前に、暗転した舞台をささっと上手方向に捌けていく祐一郎さん。その時点で知寿さんが「あっ」という感じで手を伸ばして固まっていたので気にはなっていたのですが……。

去って行った祐一郎さんは、デュエットの途中に静かに歩いて舞台に戻ってきて、そのままセンターでスタンディング。そこに向かって歌う女性陣。ああ、これは彼がジキルなのね、なるほど、と客席から観察。しかしなぜかスタッフさんがその後を追いかけてきて、マイクらしきものを祐一郎さんの背後のテーブルに配置。え? マイク持たないで来ちゃったの? どうしたの? と歌を聴きながら小さな疑問符が私の脳内に浮遊。

全ての謎は、デュエットが終わった後に知寿さんから暴露されました。どうやら祐一郎さん、暗転した時に捌けないでそのままセンターにジキルに見立てた存在としてスタンバイしていないといけなかったようです😂
「あ、行っちゃった、どうしよう」と困惑しながらも歌っていたお二方。それでもジキルがいることにしてセンターに向き直った千弘さん、いつのまにか祐一郎さんが戻っていたので今度は「あ、いるー!」と驚いて歌詞を間違えてしまったそうです。
この顛末を聞き、爆笑の渦に包まれる客席。ひたすら平謝りする祐一郎さん。歌詞は作詞しても舞台での居方を間違えるのはとても珍しいと思います。やはり毎公演で違うゲスト、違うセットリスト、違う段取りが発生するがゆえに、さすがの帝王も混乱してしまったのでしょうか? 止まらない笑いに苦しみつつ、気がかりではあります。

とは言え、今回も歌巧者のお三方の歌声のシャワーを全身で堪能いたしました。
特に祐一郎さん。直前までぽわぽわ脱線トークを語っていて、歌に入る時は必ずしばらく目を閉じるのですが、目を開いた瞬間には鮮やかにマンダレイの主人や旅するカメラマン、恋する若者になっているのが何とも心そそられます。「糸」のように役に入っているかどうかの端境にあるナンバーでは、終始ウィスパーボイスで歌唱する(でも歌詞と歌声はしっかり聴き取れる!)のもまた良いのです。


そして残すは22日の千穐楽1公演となりました。ゲストは「ちひろりん」のほか、吉野圭吾さんです。色々な意味ですごいことになりそうな予感しかいたしません。まずは千穐楽も無事幕が上がることを祈っております。

 

『My Story, My Song ~and YOU~』初日感想(2022.5.19 18:00開演)

シアタークリエにて開幕したトーク&コンサートショー『My Story, My Song ~and YOU~』の初日公演に行ってきました。
以下、トークの内容やコンサートのセットリスト的なものに簡単ですが触れていますので、これからご覧になる方はご注意ください。

1幕はトークショー(上演時間:1時間5分)。
本日のゲストは禅さんと知寿さんでした。ゲストの筈ですがなぜか先に登場し、後からホストたる祐一郎さんをコール。
予想通り、初っ端からボケ倒す祐一郎さん、トークを噛みまくりながらもボケにボケで対抗しようとする禅さん、そして隙あらば流れを戻そうとするも、自由奔放に余談を展開しまくるホストに押されがちな知寿さん。このトリオのトークが面白くないわけがありません。
トークの内容は、一応、事前募集されていたという質問コーナー(私は乗り損ねました)とお題がそれぞれ3つずつぐらいあったんですが、ホスト自らことごとく話を脱線させていくのはどういうことなのでしょうか?
とは言え、どこにサイコロが転がっていくかわからずハラハラさせながら脱力系爆笑トークを繰り広げたかと思えば、舞台の面白裏話、そして一転して真面目なお話、そしてまた爆笑、となかなか変幻自在でした。
内容は盛り沢山でとても書き切れませんが、以下、ほんの一部のみ記載します。順番は実際に話されていた通りにはなっていませんのでご了承ください。

(次回作について)
祐一郎さん:禅さんと愛し合うあれですかね。 ※『ヘアスプレー』のようですが具体的な時期などの情報はありませんでした。
禅さん:『笑う男』と同じ演出家さんで『フリーダ・カーロ』。ロシアの革命家レフ・トロツキーを演じます(ここでなぜか「レフ・トロツキー」を何度も言い直させる祐一郎さん😅)。フリーダ・カーロはバスの事故の後遺症で、激しい痛みに生涯苦しみながら絵を描き続けた人。
知寿さん:ここクリエで、2020年に上演中止になった『モダン・ミリー』をやります。

(お題失念)
禅さん:舞台で盆が回って壁に吸い込まれていくのが好き。(何か衣装の裾とか挟み込まれたりしませんでした? という祐一郎さんの問いがありましたが、別にそういう事故が起きたわけではないようです)
知寿さん:ウエスト・サイド・ストーリーのプロローグでリフ役の方が登場し、何度指パッチンを繰り返しても音楽がスタートしないトラブルが。とうとう緞帳が下りてしまった!
祐一郎さん:昔、劇場で重油の燃料費が払えなかったりした(CATSシアターのこと? と思いながら聞いていました)。劇場の壁が厚さが4~5cmのビニールでできていたので、「メモリー♪」と歌い出すとわざとのように石焼き芋屋さんの「いーしやきーいもー」という声がかぶる。何とかならないかと話に行ったら、子供も抱えているのに芋が売れないと言う。そこでその当時はWin-Winという言葉はなかったが、週1回皆で芋を買うことにして、男性陣はたくさん芋を食べていた。
祐一郎さん:某地方の舞台で盆が通常とは逆方向に回転してしまった! 舞台の奥からはガチャーン! と何かが壊れる音や、スタッフの悲鳴が聞こえてきて……。

(コロナ禍での息抜きは? という質問に対し)
祐一郎さん:今の世界では、虚構を演じている筈の舞台の方が現実に近く、逆に現実ではまるで子供の頃読んだSFのような状況が起きている。例えば祐一郎さんに送られてきた看護師の方のお手紙に書かれていたお話。2020年頃、病院では本来使い捨てられるマスクを洗って再利用せざるを得ない状況だった。その頃はワクチンもなかったが、今はコロナ禍前とそんなに変わらない状態になってきている。
禅さん:ぬか漬けを作ること。植物性乳酸菌はいい。何かをこねること、パンをこねることとかが好き。
※祐一郎さん、真面目な話で客席も水を打ったように静かに聴き入りましたが、質問の答えにはなっていないですね……。

 

2幕はコンサートでした(上演時間:1時間)。

セットリスト、と言っても順番は間違っているかも知れませんが、以下、歌唱された曲名です。
東宝演劇部Twitterのリストに基づき、一部曲名を追加・修正しました。また、6曲目と10曲目の歌唱順が逆だったので修正しました。(2022.5.25)
コンサートの演出にもいくつかのうれしいサプライズがありましたが、内容については今回は記載を差し控えます。

なお、大変ありがたいことに、5月21日の昼公演と5月22日の千穐楽もチケットを確保いただけましたので、観に行く予定です。無事千穐楽まで上演されることをお祈りします。

『笑う男』帝劇千穐楽感想(2022.02.19 12:00開演)

キャスト:
ウィンプレン=浦井健治 デア=熊谷彩春 ジョシアナ公爵=大塚千弘 デヴィット・ディリー・ムーア卿=吉野圭吾 フェドロ=石川禅 ウルシュス=山口祐一郎 リトル・グウィンプレン=ポピエルマレック健太朗

前回の『笑う男』観劇から一週間。その間に、公演関係者の新型コロナウイルス感染による公演中止後に再開していた日生劇場の『ラ・マンチャの男』が再び公演中止になったとの報も入り、帝劇楽公演の上演についても不安を覚えながら当日を迎えましたが、無事公演が実施され、観ることができました。

帝劇玄関前には今回も「千穐楽」や「満員御礼」の看板の設置はなし。2階席D列上手に座りましたが、隣の席が空いていたほか、同じブロックの2列前辺りにも空席がありました。

デア、リトルグウィンプレンともに12日昼と同じキャストでした。ウルシュス一座の「男女」さんが、確か前回は休演されていましたので唯一の初見キャストです。

帝劇楽公演では、全体を通して浦井グウィンプレンが熱量たっぷり! だったと思います。

純粋で熱く、ひと時であっても真摯に「自分にも未来が変えられるかも知れない」と願ったグウィンプレン。そんな彼が、義父や恋人との本当の愛と幸せはすぐ近くにあった、と気づいたのに、恋人を失った時にどうしてあのような結末を選んでしまったのかは、何度見てもなかなか理解はできません。恋人だけが彼をこの世界に糸で繋ぎ止めていたのだろう、と理解しようとすることはできますが、どうもやはりウルシュスの気持ちになって見てしまうのです。

そんなウルシュスは、今回も1幕の一座の公演で、本日も無事に幕が開きました〜! と高らかに宣言していました。その後の客席への拍手煽りは、いつもよりも回数が多かったように思います。

ウルシュスの、グウィンプレンと出会った夜の、この世界に対する激しい怒りと子供たちへの思いから始まる、「幸せになる権利」に込められた子供たちを守ろうとする一途な心。グウィンプレンの死(偽装)を知らされた時の世界の理不尽への憤り。そして「脆い心」でのデアの苦しみを代わりに我が身へ、という恐らくは生まれて初めての心からの神への祈り。物語自体には飛躍や分かりづらい所も多いですが、この演目でのウルシュスの心の変化と情の深さは、しっかりと心に焼き付けられました。

また、今回ラストのウルシュスに改めて注目したところ、あちらの世界で幸福そうに手を取り合う養い子たちの幻影を見て、きっと彼らは幸せに違いない、これで良かったのだ、と自らに強く言い聞かせているように見えました。

あと、一座の仲間たちのウルシュスへの信頼、デアやグウィンプレンに対する情愛も、再演で心に響いたものの一つです。ヴィーナスほか女性陣、トカゲ男さん……。できれば、ラストシーンのその後もウルシュス座長を支えてほしいです。

それから、前回の感想に書けていませんでしたが、前回も今回も素晴らしいと思ったのは吉野デヴィットの剣戟立ち回りです。少し昔の『三銃士』の時の吉野さんの負傷と地方公演の休演がしばらくトラウマになっていたので、殺陣があるとそれを思い出さなくもないのですが、吉野さんの立ち回りは剣さばきも足さばきも美しくて見惚れるものがあります。

なお今回、初演に比べると随分と物語が分かりやすくなったと思っていたのですが、それでもよく分からなかった所や、見落としていたものがありました。

例えば、私、今回観るまで、2幕のデヴィットの罪の告白の場面で、下手側の上方でジョシアナが立ち聞きしているのを見落としていまして、「何でこの人、デヴィットがしたことを知ってるの?」と謎に思っていました。前回は前方席だったとは言え、あんなに見やすさに配慮された舞台装置なのに、本当恥ずかしい……。

ついに分からなかったのは「フェドロの罪」でしょうか。私は前回書いた通り、彼がグウィンプレンを取り戻して自分の思い通りにしようとしたこと、そのためにウルシュスたちを欺いたことが諸悪の根源と思っているので、そのことが「罪」のようにも考えていますが、真相は藪の中、です。あ、でも、グウィンプレンに貴族院での振る舞いやしきたりを事前に教えておかなかったのは、罪かも……。

 

カーテンコールでは、吉野さん、禅さん、千弘さん、祐一郎さん、浦井くんの順番でご挨拶をされていました。

吉野さんのご挨拶は感謝の心がたっぷり込められながらもとても短くて、え? それだけ? と禅さんに突っ込まれていました。

禅さんは、お芝居には想像力と創造力の2つが必要である、と語られた後、気管に何か詰まって台詞がきちんと言えなかった、とお詫びされていましたが、私はどこでそれが発生したか気づかず。後でTwitterでフォロワーさんに伺った所、2幕冒頭のクランチャリー卿邸での出来事であったようです。

千弘さんが、中止された公演を観る予定にしていたお客様のことを思うと心が痛む、と涙ぐんだ時、隣にいた祐一郎さんがふと懐のハンカチを探すような仕草をして笑わせていました。更に、
「再開した公演が千穐楽を迎えたのは、感染症対策に協力いただいたお客様、手があかぎれになるほど消毒するなどして自分たちを守ってくれたスタッフやオーケストラの皆様のおかげです。完走に向けて応援してもらえると、そしてまだ他に悔しい思いをしている皆のエンターテインメントを応援してもらえると嬉しいです。今日は本当にありがとうございました!」
と涙声でのご挨拶を終えた千弘さんを祐一郎さんがスッとハグしていました。うん、あの場でそれができる立場にあるのは祐一郎さん、貴方だけです。

祐一郎さんのご挨拶は、
「おじいちゃんはこんな子供や孫たちに囲まれて本当に幸せでした。もう思い残すことはございません。ありがとうございました」
とごく簡潔なものでした。

そして浦井くんのご挨拶。さすがに覚えられなかったので、YouTube「TohoChannel」の動画で確認しました。

ミュージカル『笑う男 The Eternal Love-永遠の愛-』2月19日(土)昼の部 千穐楽カーテンコール映像 - YouTube

「この舞台上というのは過去も今も未来も不思議と繋がっていくものだと最近感じます。もうこの世界にいなくなってしまった方も、つい最近までこの板の上で笑ったりとか切磋琢磨していたメンバーもいます」
これ、もちろん、過去に帝劇の舞台に立たれた全ての方のことを指しているのだろうとは思われますが、つい半年前まで帝劇の板の上に共に立っていた沙也加さんを念頭に置いた一言のようにも思いました。また、
「そういう人たちとの時間というのもお客様と一緒に共有させていただく、そしてそれをエンターテインメントという力でお客様が明日も頑張ろうと思っていただく。たくさんの人たちの思いが板の上に乗ってこの舞台に立たせていただいているんだな、と思います」
とも話されていました。

舞台に立つことの重みを受け止めて、受け容れて、日々生きているであろう浦井くんの思いに、何も付け加えることはございません。立派な役者さんになられたのだと、改めて感じ入っております。

『笑う男』、地方公演も控えていますが、今回はこのような時勢でもあり、遠征する予定はないため、本当にこの帝劇楽が見納めとなります。カンパニーの皆様のご無事と、来月の大阪公演、福岡公演が予定通り開幕し、無事博多座千穐楽を迎えられることを、ひたすらお祈りいたします。

 

『笑う男』感想(2022.02.12 13:00開演)

キャスト:
ウィンプレン=浦井健治 デア=熊谷彩春 ジョシアナ公爵=大塚千弘 デヴィット・ディリー・ムーア卿=吉野圭吾 フェドロ=石川禅 ウルシュス=山口祐一郎 リトル・グウィンプレン=ポピエルマレック健太朗

『笑う男』の帝劇初日公演が直前に中止になってからはや9日。その後2月10日に遅れ開幕したものの、いつまた何があってもおかしくない、と緊張の日々を過ごしていましたが、2月12日、無事マイ初日を迎えることができました。

実は今回の座席は最前列を確保していたので、もし再度中止になっていたらしばらく立ち直れなかったかも知れません。と言うわけで、早速感想にまいります。ラストのネタバレがありますので、未見の方は観劇後にお読みいただくことをおすすめします。

帝劇版の『笑う男』は、やはり舞台の奥行きが深い! と思いました。演出は、空間の使い方以外は全体に初演とそう大きく変わっていなかったような印象です。ただ、冒頭の船の遭難は、初演の方が迫力があったような気がします。何でだろう?

雪原を小さなグウィンプレンがもっと小さなデアを抱えてさ迷う先に、ウルシュス父さんが現れるとやはりほっとします。そして、新米父さんがあやしても火のついたように泣き続けるデアが、グウィンプレンの腕に渡った瞬間ぴたりと泣き止むと、もっと安堵します。

ウルシュス、成長した子供たちを擁した一座のショーを始める際に、
「今日も無事に幕が開きましたぁーー!!」
と元気良く叫んでくれたので、こちらもできるだけ元気良く拍手を返しました。

そして、子供たちが舞台を勤める姿を袖からはらはらと熱い視線で見守るウルシュスを、子供たちそっちのけで観察する私……。父さんの愛情は今回も海より深く、厳しくも温かい、全力投球な子育てです。トークが暴走する息子に必死にストップをかけ、公演終了後に(本当は暴力はいけませんが)鉄拳制裁するさまもまた良し。

浦井くんのグウィンプレンは、初演の時も少し思ったのですが、異形の筈なのにあまり異形な感じはありません。ウルシュス演出のショーではアクションも難なくこなし、デアを護り、しっかり二枚目役を演じていて、ああ、これはこの一座で2人が根を生やして生きていけるようにウルシュスが作り上げたんだろうな、だから父さん、「幸せになる権利」で外に出て行こうとする息子にあんなに渾身の説得を……と、変な所でうるっときました。

その「幸せになる権利」、リプライズで同じメロディーが繰り返し使われていますが、メインのウルシュスとグウィンプレンのデュエット、ただでさえ節回しなどが難しそうな歌なのに、そこに「お前はここにいろ、それがデアもお前も一番幸せだ!」とか「貴族だけでなくぼくだって幸せになれる!」とかの感情を乗せて歌って伝えるのって、本当、演者の力を要求されるよなあ、と思いながら聴いていました。今回公演が再開してくれて、無事この神デュエットにも再会できたよ、ありがとう! という気持ちでいっぱいになりながら。

父子のことばかり書いてしまいましたが、初見の彩春デアにも触れておきたいと思います。彩春さんを観るのは多分2回目ですが(前回は『天保十二年のシェイクスピア』)、澄んだ歌声が綺麗です。そして本当に愛らしくて純白なデアで……。何となく、東宝芸能の役者さんで歌の上手い若手の女性が出てきても東宝にそのまま長く定着して地位を確立できる方はそんなにたくさんいないような印象を受けているので、できれば長く活躍して欲しいな、と思いつつ、この声でクリスティーヌとか歌ったらどんなに良いだろう、とも考えてしまう複雑な自分がおります。

なお、『笑う男』の手持ちチケットは残り1枚(帝劇楽)ですが、デアは彩春さんです。前述のとおりとても素敵なデアなのですが、できれば真彩希帆さんのデアも観て、それぞれの良さを堪能したかったと思います。希帆デア、中止になった初日が唯一のチケットでしたので😢。

今回特筆したいのは、吉野デヴィット(読み方は「デヴィッ」のように思いますが役名は「デヴィッ」)と千弘ジョシアナ。この2人……エロかったです! それぞれに自堕落に走らないとやっていられない心の闇を抱えている感じが伝わってきて、余計に退廃的な色気がだだ漏れしていました。初演でデヴィットとジョシアナを観た時にはそこまでは感じなかったのですが。特にデヴィットは、吉野さんだと役の実年齢に近いので(25年前のグウィンプレン誕生時に既に青年の筈)、よりしっくりはまっている印象です。

とりあえず、ジョシアナという人物に少しだけですが共感したのは今回が初めてでした。井の中の蛙ではありますが、決して好き好んで1%の特権階級に生まれたわけではない人。庶子とは言え王女としてのプライドは高く、どう考えても特権階級でしか生きられないのですが、常に息苦しさを覚えていて、刹那的な享楽に耽って現実逃避してしまう人。多分、グウィンプレンへの気持ちは一夜の相手へのそれではなく、特権階級という地獄から救い出してくれるかも知れない相手にすがる愛だったと思われますが、強制されるのが嫌いで、かと言って他人を本気で愛したこともないので、全てが終わってからでないとそれが愛であったことにすら気づけなかった人。見た目凜としながらもぼろぼろと崩れて、より深い孤独へと落ちていく千弘ジョシアナを観て、決して同情はしませんが少しだけ哀れと思いました。

なので、グウィンプレンがジョシアナに一瞬ぐらついた気持ちも分かるような気がします。2人とも、何らかの形で現状に納得していない者同士。もっとも、「この世を何とか変えたい!」と一瞬だけでも考えたグウィンプレンと、色々を諦めたジョシアナとが決して相容れることはありませんでしたが。

それから、初演から続投の禅さんのフェドロ。気のせいか、初演時よりも「お前何様だ」なイメージが強まったように思いました。2幕でグウィンプレンの後見人面して家主を差し置いて勝手にクランチャリー卿のお城の皆さんを仕切った上に金貨も持ち出していますが、君、よそのお家の子ですよね? 初演の時も思いましたが、あれ、ジョシアナに「裏切り者」呼ばわりされる以前の極悪な所業のような……。更に彼がウルシュス一家にしたことを思い返すと、輪をかけて「おまえさえ要らぬことをしなければ」という気持ちになります。ジョシアナはフェドロがウルシュスたちに何をしたかは一切知らない筈ですが、まあ彼女にも切り捨てられて当然なのではないかと。

なお、フェドロ、2幕でデヴィットを侮辱する場面で、「閣下の子供……失礼、妾の子供が……」とトチっていました。禅さん、15、6年観ていて、トチりは初めて目撃しましたが、何事もなかったようにカバーしていてさすがだな、と思いました。

 

そして、そして、あのラストシーン!  ……いや、映像としては確かにとても美しいのですが、やっぱりウルシュスがかわいそうで仕方がありません。特に今回、手を取り合って幸せそうなグウィンプレンとデアの幻影を最後に見たウルシュスの表情にスポットが当たって終幕、なのですが、「泣いたことがない」と嘯く男が、子供を育て愛することを知り、その子供たちが失われるかも知れない悲しみを味わって初めて涙を流し、ようやく奇跡が起きて彼に最高の笑顔が戻ってきた! と思ったらまたこんなことに……! というのは、お芝居と分かっていてもなかなかつらいものがあります。彼は恐らくこの後また、笑いも泣きもしない日々を送り続けたのだろう、と思うだけでもう。

しかし一方で、祐一郎さん、「脆い心」で本気で泣いたらまた歌声が泣き声になっちゃうし、ラストでも泣くと涙も鼻水も大変なことになるから一所懸命こらえているのかな? という妄想する自分もおりました😅。

『笑う男』、元々短かった帝劇の公演期間が更に短くなり、残り1週間ではや帝劇千穐楽となります。一応、千穐楽に観に行く予定ですが、いつ何があってもおかしくない状況ですので、無事に千穐楽まで公演の幕が開き続けること、そして自分が無事に観に行けることをひたすら祈ることにします。

 

『笑う男』帝劇初日公演中止

皆様、昨今はいかがお過ごしでしょうか。

本日2月3日、『笑う男』の帝劇初日公演が18時から幕を開ける……筈でしたが、開演直前に公演中止になりました。

私は、帝劇のロビーで中止発表のアナウンスを聞きました。

本日午後はお休みをいただき、別の買い物もあったため早めに上京し、まん防条例最中では終演後の食事は難しいことから、早めにソーシャルディスタンスな環境で夕食を済ませ、17時半頃に帝劇入りしました。

チケットを係員の方にもぎってもらい、ふと見渡した時、客席入口がまだ開いていないことに気づき、「あれ? 普通開演30分前には開けてると思うけど、何で?」と嫌な予感はしましたが、とりあえずロビー内のグッズ売り場の待機列に並んで待つことにしました。

劇場からのアナウンスが始まったのは、並び始めて間もなくのタイミングでした。

公演関係者のPCR検査の結果、陽性が判明したこと。そして、本日の公演は中止となることが、検査結果が出るのに時間がかかったために発表が遅れたことへのお詫びの言葉とともにアナウンスされました。

客席が閉められていたこともあり、劇場ロビーにはかなりの人数がいて、それなりにざわつきがありましたが、少なくとも見える範囲では、劇場係員の皆様に詰め寄っているような人はいなかったと思います。

私自身も、公演関係者って誰? 役者さん? スタッフさん? と動揺しつつもしっかり待機列には並び続け、列に並べていないと思われる友人に連絡し、グッズの代理購入に対応などしておりました。

劇場にこれ以上滞在していてもどうしようもないので程なく退場し、またまたソーシャルディスタンスな環境で少しだけお通夜のようにお茶を飲み、ただいま田舎への帰路に就いているところです。

実は、観劇当日かつ劇場入りしてから公演が中止になる経験をしたのは、今回が初めてのことです。最近また報道が続いた宝塚などの直前公演中止のニュースを見て心を痛めていましたが、実際に開演30分前を切ってから中止が決まるとかなりショックということが今回分かりました。

ただ、聞いた話では「開演後」2分ほどで公演中止が発表された作品もあったらしいので、直前とは言え開演前にアナウンスがあったのは、多分状況的には良い方なのだと思います。

また、今回出演される役者さん方のSNSを見たところ、15:45頃まではゲネプロを最後まで通して実施していたとの情報もあり、演出家さんや役者さん方も本当にぎりぎりまでどうなるか分からなかったことが伺えます。

観客は言ってみれば「観られなくて残念だね」で終わりですが、間際まで本日の開幕を信じて準備を重ねてきた、感染された方を含む関係者の皆様の無念を思うと、胸が締め付けられる思いで苦しくなります。

今はひたすら、この誰も幸せになれない闇が1日も早く晴れることを祈るばかりです。

最後に、本日の幻のデアとリトルグウィンプレンのキャストの写真を貼っておきます。


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願わくば、この演目のカンパニーの皆様が、遅れてでもどこかで初日を迎えられますように。

(追記)

Twitter東宝のお知らせアカウントで、2月3日〜6日公演の中止が発表されていました。7日は元々休演日だったようです。2月8日以降の公演の無事の開幕を願っております。
https://twitter.com/toho_oshirase/status/1489198350071058433

 

2021年観劇振り返り

例年、毎年末にその年に観劇したものの振り返りを書くことにしていたのですが、2021年は観た演目があまりにも少ないことに加え、12月に入りミュージカル界で悲しい事件が起きてしまったこともあり、なかなか書く気持ちになれないまま年が明けてしまいました。
しかし、書かないと何となく自分の心の区切りが付きませんので、重い腰を上げて書き残しておくことにします。

2021年1~12月の観劇は、配信視聴も含めて以下の6演目、計11回でした。

  • ポーの一族(2021.1.23 12:00開演(配信視聴(PIA LIVE STREAM)))
  • モーツァルト!(2021.04.08 17:45開演 帝国劇場)
  • モーツァルト!(2021.04.11 12:30開演 帝国劇場)
  • モーツァルト!(2021.04.24 17:45開演 帝国劇場)
  • モーツァルト!(2021.06.07 12:00開演 梅田芸術劇場(配信視聴)) ※ブログ感想アップなし
  • CLUB SEVEN ZERO III(2021.06.12 13:00開演(B version) シアタークリエ)
  • 王家の紋章(2021.08.05 18:00開演 帝国劇場)
  • 王家の紋章(2021.08.14 18:00開演 帝国劇場)
  • 王家の紋章(2021.08.28 13:00開演 帝国劇場)
  • ナイツ・テイル(2021.10.10 12:30開演 帝国劇場)
  • フィスト・オブ・ノース・スター~北斗の拳~(2021.12.28 13:00開演(配信視聴))

なお本来、帝劇の『モーツァルト!」はもう1回分(5月1日公演)を観る予定でしたが、2021年4月25日に東京都に緊急事態宣言が発令され、4月28日以降の帝劇公演が打ち切られたため、計3回の観劇となっています。

王家の紋章』は、沙也加キャロルで1回(初日)、晴香キャロルで2回観ています。まさか沙也加さんの舞台を観るのがあれがラストになるとは思いもよりませんでした。
沙也加さんの舞台を観たのは、過去のブログを見る限りでは2007年11月に観た『ウーマン・イン・ホワイト』が最初で、以降、TSミュージカル、レミゼ、新感線、ミュージカル座、TdVなどを観てきました。彼女の代表作としてよく挙げられる『1789』や『マイ・フェア・レディ』は観ておりません。
彼女については、芯の強さを感じさせるステージングの一方で、歌声にはいつまでも甘い可愛らしさが残っていて、たまにその甘みが鼻につくと感じることもあり、正直、彼女を目当てに舞台に通うということはありませんでした。
しかし、ミュージカル座の『ひめゆり』(2012年)やTdV(2015~2016年、2019~2020年)の彼女については、とても印象に残っています。特にTdVの、溢れる若さを持て余し、鬱屈し、無邪気ゆえに異形の麗しい紳士である伯爵に憧れ、自分に惹かれる青年を無意識に振り回す美少女サラ。自分が観た中では、というくくりに過ぎませんが、最高の当たり役であったと思います。
鼻につく甘み、と先ほど書きましたが、一方で、その甘さや可愛らしさという持ち味が、今後彼女が30代後半以降に円熟を迎えるに当たり、どのように変化していくのかを見届けたい、ともずっと考えていました。今後、それが叶わなくなったことが、とても残念でたまりません。

また、前山さんについて、ウナスとルカの両方を拝見して、良い若手の役者さんが出てきたな、これから楽しみだな、と思いながら観ていたことを覚えています。
私は、本当の当事者の片方はこの世になく、その片方に属する側の主張でのみ染められた報道はなるべく鵜呑みにしたくないと思っており、たとえ主張が真実であったとしても、報道には出てこない別の真実もまたあるのではないかと考えています。この件については、現在(2022年1月)の状況はとても悲しく、考えるだけでも辛いですので、これ以上は語らないことにします。

悲しい別れがあった一方で、2021年には喜ばしい出会いもありました。
まず、上白石萌音さん。2014年9月に東宝芸能のコンサートで歌う初々しい少女を見かけて以来、久々に帝劇の舞台で観て、歌もダンスも引き出しの豊かな役者さんだったのか! と驚かされました。近々に千と千尋の舞台にも出演される予定ですが、そのうちまたミュージカルにも出てくれないかな、と期待しています。
それから、どんどん頭角を現していく大貫さん。先日ケンシロウ役の感想で「R&Jの印象しかなかったが歌を聴いて安心した」と書きましたが、後から8月に王家のイズミル王子を観た時にも全く同じことを書いていたことに気づき、自分、何て失礼なことを! と頭を抱えております。大貫さん、ごめんなさい。
そしてそして、明日海りおさん。実はまだ生舞台を一度も拝見したことがないので、ぜひ! と思い『マドモアゼル・モーツァルト』のチケ取りを試みましたが玉砕してしまいました。また、次の機会に挑むつもりです。

さて、今年2022年の観劇予定ですが、まだ日生劇場2022年2月公演の『笑う男』しか予定が入っておりません。公式Twitterやインスタで稽古場写真を眺めて心待ちにしながらも、昨今のオミクロン株の蔓延状況や、次々に発表される「上演中止」の報道を見て「これ、無事に上演されるだろうか?」と不安に駆られる日々を送っております。

最近、ここ2年ほどであまりにも心を折られる出来事が続いたためか、観劇意欲が薄れてきたなあ……と思っておりましたが、昨日(1月23日)にテレビの老舗音楽番組『ミュージック・フェア』で、宮澤エマさん、May J.さん、浦井健治くんほかがミュージカルナンバーを歌っているのを聴いた瞬間、心の観劇意欲ゲージが急速に上昇していくのを感じました。「違う、この人たちの歌声はこんな小さな画面に収まるレベルじゃない! やっぱり生の舞台で歌を聴きたい!」と。

なので、今年も多分、感染状況の隙間を縫って、劇場に何回か行くことになりそうです。どうしても現地に赴くのが難しい場合は、やむなく配信の恩恵にあずかることもあるかも知れませんが、また心に響いたものがあれば、感想をしたためてこちらのブログに落とさせていただきたいと思います。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

 

『フィスト・オブ・ノース・スター~北斗の拳~』配信視聴感想(2021.12.28 13:00開演)

キャスト:
ケンシロウ=大貫勇輔 ユリア=平原綾香 トキ=加藤和樹 シン=上田湛大 リュウケン=川口竜也 トウ/トヨ=白羽ゆり マミヤ=松原凛子 レイ=上原理生 ジュウザ=伊礼彼方 ラオウ宮尾俊太郎 バット=渡邉蒼 リン=近藤華

皆様、大変遅ればせながら、あけましておめでとうございます

本年もどうぞよろしくお願いいたします

 

2021年末。10月に『ナイツ・テイル』を観たきりで観劇ができていないままでしたが、このまま年越しを迎えるのは納得がいかない、と思い立ち、「アタタミュ」の別名もある本作を配信視聴することにしました。

本当はマチネ・ソワレ両方の配信を見比べたいところでしたが、年末の諸々の予定を考慮しマチネのみ購入。更に本公演の時間は仕事中でしたので、アーカイブでの視聴となりました。

配信だとあまり細かい所が観られないなど、どうしても生舞台と同じとはいかず、ごくごく簡単ではありますが、以下、思い出し感想です。

 

大貫ケンシロウは、実は昔ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で黙々と「死」を踊っていた時の印象しかなく、お歌を聴いたことがなかったため(ドラマで突然ミュージカルする役柄を演じていたらしいですが見ていません)、12月初め頃まで「大丈夫?」と失礼な心配をしていましたが、FNS歌謡祭の歌唱披露を聴いて安心していた経緯があります。

その時は分からなかったですが、改めて上半身を脱いだ身体を見るとかなりマッチョに作り上げていて、あのコスチュームもぴったりはまっており、観ている間ずっと、

「大貫さんではなくケンシロウがそこにいる」

「あの寡黙なケンシロウが世紀末の荒野で朗々と歌い上げ、しかも踊りまくっている! 面白い!」

と釘付けになっていました。

幻のユリアとの優雅なデュエットダンスも、身体のキレの良さが最大級に問われるソロダンスにもそれぞれに引き込まれました。

個人的に特に印象に残ったのは、加藤トキ様と平原ユリア。加藤トキ様は物語随一の人格者として切々と語り歌っていましたし、平原ユリアはしっとりとした声質が、聖母の如く慈愛に満ちつつ力強さもあって良かったと思います。

あとユリアって別にプリンセスではない筈ですが、随所でプリンセス感が溢れていたのは不思議です。

宮尾ラオウ。「ラオウは雑魚には直接手を下さず、愛馬の黒王号が蹴散らす」と聞いていましたが、割とすぐに馬から降りて戦い始めたので、あれれ?となっていました。

「覇王の圧倒的なオーラ」はあまり彼からは感じられなかったような。どちらかと言えば「どうしようもない孤独と哀しみを抱えた強者」であったと思います。ラオウについてだけは、Wキャストの福井さんと見比べてみたかったです。

そして「わが生涯に、一片の悔いなし!」の場面で片手を真っ直ぐ天にかざしながら昇天していく時の姿は圧巻でした。ラオウどこへ消えたー!? と若干動揺しましたが。

ほかに今回インパクトがあったのはワイヤーアクションでしょうか。優れたダンサーである大貫さんや宮尾さんだけでなく、どちらかと言えば歌に強みのある加藤さんや上原さん、伊礼さんまでが果敢に挑戦していて驚かされました。

若手、子役さんも良かったですね。バット役の渡邉蒼さんが朝ドラ『なつぞら』の咲太郎お兄ちゃんの少年時代を演じてタップを踏んでいた彼の成長した姿だと、視聴後に電子パンフを読んで知りました。近藤華さんのリンも可愛かったです。

また、音楽は、「ああ、ワイルドホーンだな……」と聴き入っていました。何だかんだでやはり、旋律が心を掻き立て、耳に心地良いのです。

 

北斗の拳』の原作は断片的にしか読んでいませんが、わずか3時間の舞台でここまで原作の世界観やキャラクターを、ミュージカルとしてまとめたのはシンプルに評価したいです。

また、原作と言えばマッドマックス的な世紀末でバイオレンスでヒャッハーなイメージで、舞台にもそういう場面や人もたくさん登場しますが、一方で人間ロマンに満ちた物語であり、意外にもミュージカルとの相性は良かったのだと、今回実感しました。

 

以上、簡単ではありますが、やっと感想が書けました。配信とは言え、観劇納めの感想を書いて、ようやく2021年が締めくくれた気がします。……あ、そう言えば2021年の総括を書いていなかったですね。

新年早々、新型コロナウイルスオミクロン株の流行拡大、宝塚花組も休演という、観劇好きには辛いニュースも流れてきていますが、今年は少しでもうれしいニュースが増えることを願っております。

 

『ナイツ・テイル』感想(2021.10.10 12:30開演)

キャスト:
アーサイト=堂本光一 パラモン=井上芳雄 エミーリア=音月桂 牢番の娘=上白石萌音 ヒポリタ=島田歌穂 シーシアス=岸祐二 ジェロルド=大澄賢也

初演時に気になりつつも「どうせジャニーズが絡むしチケットも取りづらいだろう」と決めつけて何となく観劇を見送っていた『ナイツ・テイル』。

初演の好評を聞いて、ではちょっと観てみようか、と今回初めて帝劇公演を観てまいりました。

自分が初見で基本設定を掴むのに精一杯で気持ちに余裕がなかったせいもあり、舞台上に初っ端から登場する人間の数、背景説明、音楽……とにかく情報量が多くて追いかけるのが大変で、設定を理解するまで少し時間がかかりましたが、このお芝居において、騎士物語は劇中劇であり、常にステージ上の観客(という役を演じる人々)により見守られながら進行します。

主人公はテーベの騎士で従兄弟同士のパラモンとアーサイト。伯父でもある王の命に従い心ならずも侵略戦争に身を投じながら良きライバルとして友情を誓い合っていたが、敵国アテネの大公シーシアスに伯父が倒され、共に捕虜として獄に繋がれた時、獄窓から見えたシーシアスの妹エミーリア姫にほぼ同時に一目惚れしてしまう。不本意ながら恋敵となった2人は、やがて決闘する運命に、というのが物語の骨子です。

……と、このように書くと一見悲劇にも見えますが、実際は人情喜劇であり、ちょっぴり風刺も利かせた大人の寓話でした。

「プライドと固定観念に囚われた男たちに女たちが振り回されながら、最後は知恵を尽くして彼らの固定観念をひっくり返し、ハッピーエンドに導く」

というストーリーは、これって女性を持ち上げすぎなのでは? と多少感じる一方で、男性陣が主人公2人も、そしてシーシアスも、演じる役者さん方の好演もあってそれぞれ愚かしいながら魅力的な人物として生きていたので、そこはしっかりバランスが取れていたと思います。

そう言えばこれの原作ってどんな話なんだっけ? と、後からシェイクスピアの『二人の貴公子』のあらすじをさっとWikipediaで確認しました。
……ええと、このお話、面白いの? というのが率直な感想です。一応喜劇に分類されるようですが、一部登場人物(アーサイトとか牢番の娘とか)に全く救いがない上に、現代の価値観に照らすと色々とキツそうなので、ミュージカルは完全なハッピーエンドに翻案して正解だったと思います。

音楽ですが、実は主人公2人のナンバーよりも牢番の娘のソロや女性三重唱の方が印象に残っていたりします。やはり「騎士物語」というタイトルの一方で、物語の重要なテーマとして女性がどう行動するかに重きが置かれているためでしょうか。もちろん、パラモンやアーサイトの歌もしっかり光っていたとは思うのですが……。

ダンスは女性アンサンブルでたまに振りが揃ってなくて、それでいいの? と思う瞬間はありましたが(うわ、偉そう)、全体的には大澄さんを中心に群舞が綺麗に決まっていました。後述しますが光一くんや萌音さんら主役級がしっかり踊って好演していたと思います。

役者さんの感想も一言ずつ記しておきます。

堂本光一くんは今回初めて見ましたが、ダンスで見せる動きのキレがやはり群を抜いていました。加えて、長年帝劇で座長を務め、演出もこなしているだけあって、舞台への居方が半端なく自然なのです。

井上くんは「一見軽薄で口が悪いが、実は心優しく情に厚い貴公子」という役どころがここまで似合うか! と思いました。

なおアーサイトとパラモン、ポスターなどのビジュアルでは結構華麗に決まっていましたが、実際のお芝居では格好良さよりも「おバカ」にスポットが当たっているので注意が必要です。でもおバカの貴公子2人がわちゃわちゃしているのは楽しいですね。

エミーリアの音月桂さん。華奢であまり長身ではなく(堂本くんよりやや小さいぐらい)、そんなに元男役なイメージがありません。エミーリアという役は2人の貴公子に惚れ込まれる割に、ヒポリタや牢番の娘に比べるとやや影が薄い印象を受けましたが、癖のない綺麗な歌声で好演されていました。

牢番の娘、上白石萌音さん。初恋のために大胆不敵な行動に走った結果、運命の悪戯に翻弄され、一時正気を失う目に遭う少女。

何年か前に東宝芸能コンサートで映画『舞妓はレディ』の主題歌を披露していたのを観て、その頃から歌の上手さは知っていましたが、2幕で披露していた大公に奉納するダンスも綺麗で驚かされました。調べたら小学一年生からミュージカルスクールでレッスンを受けていたとのことで、納得です。

牢番の娘さん(本名があるのに失念)はエミーリアとのやり取りを見ると単に純粋なだけではなく、植物などの知識も深く聡明な娘であることが分かりますが、そんな娘があれほど恋に翻弄されてしまうわけで。……恋って怖いですね😓。

アマゾネスの女王、ヒポリタは島田歌穂さん。故国に妹姫たちを残し、戦で負けた相手シーシアス大公に嫁がされるというかなりハードな立場のお后様なのですが、少しもめげることなく自分を駆け引きの道具に使うことすら厭わず、ついには夫のプライドを保ったまま固定観念をひっくり返すことに成功する女性。私がこの演目の中で最も好きな登場人物を選ぶならば間違いなく彼女です。

実はヒポリタの終盤のどんでん返しについては「え、そんな都合の良い展開ってあり!?」と一瞬だけ思いましたが、岸さん演じるシーシアスの、建て前を重んじて女性の意思は二の次にしがちな一方で根っこは人情に厚く善良、という人柄が序盤から随所で示されていたので、まあ、彼ならば皆がハッピーになる道を選ぶだろう、と納得しています。

ちなみにシーシアスは開演前の注意アナウンスも担当しています。本編を観る前はなぜこのお方が? と思っていましたが、なんとも愛すべき大公だったので納得! です。

最後に大澄さんですが、1幕の序盤の独裁的な君主と、舞踊団のダンスの師匠とを演じているのが同じ方だと最初分からなかった自分……。それほどまで両者の雰囲気は全く異なっていました。今回はリピート予定はありませんけれど、再度観る機会があるならばじっくりこの二役を観察したいところです。

ちなみに今回の上演中、埼玉のJR変電所火災で鉄道が止まるハプニングが発生し、幕間でニュースを知り、迂回路を必死に検索するなどしていたところ、カーテンコールでも光一くんが言及し、客席の皆の帰りの足を気遣ってくれていました。私の乗る路線はたまたま早めに復旧したので迂回路も使わずに帰宅できましたが、恐らく当日観ていた方でお家に帰り着くのが遅くなった人もいらしただろうと気になっております。