日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『オトコ・フタリ』感想(2020.12.26 13:30開演)

キャスト:
禅定寺恭一郎=山口祐一郎 中村好子=保坂知寿 須藤冬馬=浦井健治 須藤由利子(声)=大塚千弘

観劇3回目にしてマイ楽の『オトコ・フタリ』を観てまいりました。

今回、前から5列目の下手通路寄りというかなり前方席でしたが、土曜マチネにも関わらずすぐ前(4列目)や5列目センター寄りの席が空いているなど、販売自粛の最前列席を差し引いても満席にはなっていなかった所に、厳しい現状を感じ取っています。

さて、前回観てから1週間も経っていないのに、冬馬くんの顔芸と恭一郎さんのリアクション芸が、かなり進化していました。特に1幕のシェリー酒ぶっかけシーンから、家政婦と闖入者の2人カラオケに恭一郎さん悶絶、に至るまでの流れの見事なこと! もっとも、流れがノリノリ過ぎたのか、当日ソワレでは冬馬くんがシェリー酒のグラスを破壊したらしいという情報もありましたが……。

彼らに好子さんを加えた3人の掛け合いがあくまでコメディであり、ぎりぎりコントになっていないのは、演じる皆様のぴったりの呼吸と技量あってこそと思います。

好子さんは1幕では内面の感情を抑制し、たまにうっかり内に秘めた本音が漏れ出たりしながら、雇い主である恭一郎さんと互いにはっきり物を申せるビジネス関係を強固に築いていることが見て取れます。彼女が冬馬くんの受け入れを巡り何度か恭一郎さんを説得する場面で、その都度恭一郎さんがキュッと内股になるのが個人的にはツボでして。あれは彼女への負い目を無意識に体現しているのかも知れない、と3回目にして思い至りました。

疑いなく、好子さんは「いい女」だと思うわけですが、実際の所彼女のいい女ぶりをお芝居を観ていない人に説明するのはなかなか難しいものがあります。しかし少なくとも劇中で冬馬くんの純粋な心には「(由利子さんの次に)いい女」として焼きつけられたのではないでしょうか。そして、きっと恭一郎さんの心にも。

なお、自分の頭の中には、好子さんが住み込んでいた6年の間にも、雇い主さんはその場限りの女性をあの邸に次々と連れ込んでいたのだろうか? というしょうもない疑問が浮かんでいます。ただ、もしあえて取っ替え引っ替え連れ込んで見せていたとすれば、それはちょっと闇が広がりすぎているので、あまり深く追求しない方が良さそうではありますが。

また、もう一つの疑問としては、
「恭一郎さんは冬馬くんの言うように、本当に好子さんほか女性の心理に鈍感だったのか?」
というのがあります。個人的には、少なくとも好子さんについては気づいていたが故に、分からないと嘯いたと解釈したいところです。しかし、仮にご縁のあった女性たちの心理についてもう少し敏感であったなら、そもそも悲劇は起きていなかった筈……。まあ、鈍感呼ばわりしている冬馬くん自身も大概唐変木に見受けられ、しかもその自覚は乏しそうなので、その点ではお互い様なのではないかと思います。

脱線しましたので、本編の感想に戻ります。

公演初日と比べてかなり受け止め方が変わったのは、2幕終盤近くのメールの場面です。初日はだいぶシリアス寄りの印象でしたが、本日はかなり「泣き笑い」要素が強まっていると感じました。

実はリピート観劇するほどに、メールの主の「贖罪のために○○○○行き」という振り幅の大きすぎる行動が疑問になり始めていたのですが、恭一郎さんと冬馬くんのメールを巡るボケツッコミの応酬が強化されたことにより、疑問が笑いのオブラートに包まれてぼかされたという印象です。メールの主の行動そのものよりは、メールを読んだ、邸に取り残された「オトコ・フタリ」の間に生まれる奇妙な絆もしくは連帯感の方が強調されるようになっていました。

今回、わずか3回ではありますがマイ楽ですので『オトコ・フタリ』を総括しますと、登場人物全員が何らかの形で大切なものを失う一方で、これまで各々が縛り付けられていた何かから解放され、それぞれ自分の中に元々あった大切な何かを取り戻す物語である、と思います。

かつて愛に向き合うことから逃げた男が、愛するがゆえに大切な人を自らの手元から解き放つ決断をし、真正面から愛と向き合い始める。終盤、一旦恭一郎さんが1人になった時に静かに口ずさんでいた、時々揺らぐあの歌声には、そんな男の心境が存分に込められていると感じました。

物理的に近い距離で互いを縛り合うことが愛ではない。愛に距離も性別も生物学的分類も関係ない。ある意味、何かと心や希望が壊されることがあまりにも多すぎた今年の観劇納めに最もふさわしい演目だったのかも知れません。

どうぞ、来年はもっと良い年でありますように。

 

『オトコ・フタリ』感想(2020.12.20 13:30開演)

キャスト:
禅定寺恭一郎=山口祐一郎 中村好子=保坂知寿 須藤冬馬=浦井健治 須藤由利子(声)=大塚千弘

先週の初日に続き、再びシアタークリエにて『オトコ・フタリ』を観てまいりました。

この演目、良くも悪くも登場人物が当て書き感満載なのに加えて、シリアスな場面もあるとは言え全体的には軽妙でさらっとした展開なので、賛否両論あるようです。私自身は、『貴婦人の訪問』のようにハードでドラマティックな社会派物語も、『レベッカ』のごとくスリルとサスペンスに満ちた物語も、そして『マディソン郡の橋』のような濃密な男女関係のドラマも好きですが、今回の『オトコ・フタリ』のようにライトで胃もたれしないお話もたまには良い、と考えています。

前回の観劇は2列の下手寄りという実質最前列でしたが、今回の座席は後方の下手ブロックでしたので、舞台全体を見渡すことができました。ひとつ大きい変更点は、2幕の恭一郎さんの大福粉吹きの場所が、初日の下手側からセンター奥側に変わったことでしょうか。初日に下手側で吹かれた粉は、あっという間に天井の換気口に吸い込まれていっていたので、客席への飛沫のリスクは低そうですが、確かにセンター奥側なら客席側に飛ぶ率はより低そうに思います。

さて、脚本の展開を知った上で1幕から観ると、恭一郎さんが1幕でいかに真実を語っていないかがよくわかりました。饒舌に語っているようでいて、肝心なことは巧妙に隠蔽されています。例えば「忘れるために記録する」のなら、忘れてはいけないことはどうするんだ? とか。また、好子さんは語ってすらいません。

真っ正直な言葉を語るのはトンマくんこと冬馬くんのみ。このお芝居では、欺き合って生きてきた男女の、砂糖菓子ならぬケーキと紅茶でできた仮初めの幸福を覆すには、冬馬くんの真っ直ぐさが極めて重要な役割を果たしている、と2回目にして実感しました。しかも彼のコメディリリーフぶりの素晴らしさ。客席にも笑いを呼んでいましたが、何度か他の2人も笑いを堪えていたようにお見受けします。

今回心に響いた台詞は、好子さんの
「彼は女を虜にする魅力……魔力を持っている。その寂しさに女は惹かれる」
でした。これはもちろん好子さんの恭一郎さん評なのですが、どう考えてもファン一般の、演じる方に対する評価でもあるわけでして。よく分かっていらっしゃる、とやはり思いました。しかし、いくら当て書きであっても、役者さんと役柄はやはり別人格ですので、そこは頭の中で「混ぜるな危険!」と肝に銘じたいと思います。

そう言えば初日の感想で『オトコ・フタリ』の音楽に触れることができていませんでしたが、劇伴の曲がとてもジャジーで大人の香りが漂っていて素敵でした。そして、挿入曲である「糸」と「Lemon」も。

多分しばらく「Lemon」を聴くと、劇中に直接姿は登場しなかった女性たちも含めてこの演目の映像がオーバーラップしそうです。ただ、挿入曲2曲がオリジナルではなく既存曲を使っているがゆえに、もしかしたら『オトコ・フタリ』のソフト化は難しいかも、と危惧しているところです。

早いもので上演期間は残り10日程度となりました。この情勢下でもあり、私が観に行くのは残り1回の予定ですが、引き続き、明日も、そして千穐楽まで無事に幕が上がることを祈っております。

 

『オトコ・フタリ』初日感想(2020.12.12 18:30開演)

キャスト:
禅定寺恭一郎=山口祐一郎 中村好子=保坂知寿 須藤冬馬=浦井健治 須藤由利子(声)=大塚千弘

シアタークリエにて『オトコ・フタリ』の初日を観てまいりました。

なお、観劇歴がここ15年程度なもので、祐一郎さんが純然たるストプレを演じるのを観るのはまるきり初めてです。

劇場にちゃんとしたお芝居を見に来るのは久しぶり、クリエは……思い出せなかったのでブログの過去記事を辿ったら、今年1月に観た井上くんの『シャボン玉とんだ、宇宙までとんだ』以来でした。

久々のクリエは、物販はパンフレットのみ、ほかのグッズはシャンテの書店で販売、ということでしたので開演前にそちらで調達。書店レジに透明袋入りパンフを持参するとカウンター下から新しい裸のパンフを出してくれました。

このほかに、客席は最前列の販売なし、地下客席階ロビーでの飲み物販売はカップ入りのものはなくペットボトル入りのお茶や水のみ、と、かなり感染防止策が取られています。劇場内の換気もしっかり行われている印象でした。

また、今回リピート客向けに幕間と終演後に1階の窓口でチケットスタンプラリー(チケットは観劇前のものでも可)が実施されていましたが、恐らくこれも地下のロビーに人が溜まらないようにするための対応と思われます。

ただ、私はラリーの列に並んでしまったので伝聞になってしまいますが、地下ロビーでは結構おしゃべりされている方もいらしたように聞いています。また、1階も初日で我々もスタッフさんもどちらも不慣れだったことや、スタンプラリーとリピチケの受付が同じ窓口だったこともあってか、1階も待機列でやや人は多くなっていました。これは恐らく次回は改善されるのではないかと期待しています。

 

さて、前置きが長くなりましたが、お芝居本編の感想にまいります。例により結末は記しませんが軽微なネタバレを含みますのでご注意ください。

物語の9割方が、著名かつ恋愛遍歴でも有名な抽象画家の禅定寺恭一郎の邸宅で展開されます。登場人物は恭一郎と、禅定寺邸住み込み歴6年、美味しい紅茶を淹れるのとケーキ作りの得意な家政婦中村好子、禅定寺邸に向かうと書き残して突然家を出た母親を探して押しかけてくる青年須藤冬馬の3人、そして声だけで、しかし一定の存在感を持って登場する由利子の計4人のみ。図らずもこのwithコロナの状況にはぴったりの少人数演目となっております。

また、舞台に登場する3人の役者さんへの当て書き感が半端ない演目でもあります。「どこが?」と問われても即答は難しいですが、役者さん方の持ち味はもちろん、プライベートなパーソナリティの魅力までも透かして見せてくれているような印象を受けています。

登場人物についてそれぞれ触れてまいりますと、まず、恭一郎さん。脚が……長いです。見慣れている筈なのに、ついまじまじと観察してしまいました。発声はやや低めで心地良い響きで、しかも台詞が聴き取りやすい。ああ、この語りを聴けるなんて幸せ! とすっかり浸っておりました。すみません、これは役の感想ではなく役者さんの感想ですね😅。

恭一郎さんは芸術家らしく偏屈ですが、どこか飄々とした風情もある不思議な男性です。女性にモテまくりで、お付き合いした相手の裸体画を交際記録簿代わりとしているようなお方ですが、後半では彼が心に封じてきた、重く切なく、取り返しのつかないがゆえに美しく、とても大切ないくつもの結晶が明らかにされます。そして観客は名実ともに、歩き始めた彼の心象風景に深く広がる星空へと誘われるのです。

冬馬くんは、全ての物語が動き出すきっかけを作る人物でありながら、彼自身には実は謎はほとんどありません。一方で彼なくしては物語が成立せず、ラストでは大いなる人間的成長を遂げます。あと、とにかく演じる浦井くんの顔芸が凄まじいです。

この冬馬くん(一部は好子さんとデュエット)がやや調子外れにがなりながら歌う中島みゆき「糸」や米津玄師「Lemon」(後者のタイトルは観劇後に知りました)の歌詞が、物語が進むほどに染みてまいります。

そして好子さん。事前取材等で男性2人の間の大きい「点」と呼ばれていましたが、実際に観てみて「そのとおり!」と膝を打ちました。色々な意味で、この人が物語のキーになっていて、この人のある行動があったからこそ、それぞれの理由で停滞し苦しんでいた男性2人は再び歩み始めます。タイトルはあくまで『オトコ・フタリ』で、ラストまでの展開もまさにそのとおりなのですが、多分、確実に、好子さんもどこかで新たな歩みを始めている筈です、きっと。

それから、声のみで登場の由利子さん。過酷すぎる経験をしたとは言え、ちょっと振れ幅が大きすぎるのでは、とは思いましたが、こういう人だからこそ冬馬くんが心を寄せたのだろう、と納得の人物像でした。

さて、この演目を総括しますと、「愛の水中花」(古くてすみません)の冒頭の歌詞です。「これも愛、あれも愛、多分愛、きっと愛」(重ねてすみません)。

休憩時間込みで2時間5分という決して長い上演時間ではありません。しかし、2人の男と1人の女(+もう1人の女)の身に起きた一連の出来事を通して、人間の様々な愛の形、そして本当に独りでは生きられない人間の宿命というものに触れることのできる物語だと思います。

また、「愛されるよりも愛する方が幸せ」という好子さんが残した言葉にも、思いを巡らせております。少しだけ、『マディソン郡の橋』のロバートの後半生を連想しました。

こんな時代だからこそ、会えなくても思い続けることは大事だと思いますし、できれば思うだけでなくきちんと愛を伝えられるのが一番だと個人的には考えています。しかし口にしないことで守られる愛もありますし、秘めたものをあえて口にすることで認めることのできる愛もある。色々あっていいじゃないか。と、初日のカーテンコールでキャスト3人がそれぞれコロナ禍に向き合って語られたメッセージを思い出しながら記させていただいた次第です。今回もお付き合いいただき誠にありがとうございました。

 

『My Story―素敵な仲間たち―』(Streaming+配信)視聴感想(2020.9.17 13:00開演/2020.9.18 17:00開演)

無事に帝劇にて見届けた9月18日昼の『My Story』。それ以外の3回分は、17日夜の回(ゲスト:加藤和樹さん、平方元基さん)を観るのはスケジュール上まず無理でしたが、残りの17日昼の回及び18日夜の回はどうにか配信で視聴することができましたので、それぞれ簡単に感想を記しておきます。


まずは17日昼の回(ゲスト:保坂知寿さん、浦井健治さん)から。
祐一郎さんはウェービーヘアに青いロングジャケット、白Tシャツというカジュアルなスタイルで登場。次回の舞台『オトコ・フタリ』の主人公の扮装だそうです。
初回なのでトークショーの筋を保つためのルールや台本に囚われすぎている? と感じた一方で、皆さま、特に祐一郎さんは囚われることを楽しんでいる印象もありました。観ている側としては、わちゃわちゃ感を味わいつつ、ハラハラドキドキしているうちにあっという間に時間がきてしまった感があります。
東宝での知寿さんとの初共演作でアクション満載だった(主にワイヤーアクションなど派手にやっていたのは知寿さんだったと記憶しますが)『パイレート・クイーン』の時は祐一郎さんが今よりも12kg太っていたという話や、10代の頃祐一郎さんがバンドをやっていて吉祥寺のディスコに(ダンスが目的ではなく、恐らく生歌・生演奏の仕事で)行った話なども貴重でしたが、お三方とも、やっぱりお芝居絡みのエピソードが面白かったと思います。
ほぼ新人だった知寿さんが『オンディーヌ』の代役を3日間で通し稽古をこなせるレベルまで仕上げた話。『エリザベート』で浦井ルドルフがあまりにもズボンのお尻を破くので、衣装さんがストレッチ生地を使うなどの対策をするも、やはり動きの激しい独立運動のシーンで裂けてしまった話。そして「好きなセリフは?」と訊かれた祐一郎さんが、好きなセリフを選んでしまうと次の舞台でもっといいセリフが出てきた時に「私のこと好きって言ったわよね?」と元のセリフに恨まれることが怖いという話、等々。どのエピソードも、それぞれお三方の個性と魅力に満ちていました。
あと、浦井くんは多分最初は「大先輩方の前だし、僕がしっかりしなくては」と心に言い聞かせて登壇したと思うのです。祐一郎さんのボケに余裕のツッコミを入れたり、好きなコーヒーの話で、祐一郎さんが「ホットとアイス両方注文して交互に飲む」という話から「僕は韓国に祐さんと『笑う男』を(仕事で)観に行った時に現地のコンビニで飲んで美味しかったコーヒーをお取り寄せしてます」というそれぞれのほっこりこだわりエピソードに持ち込んだりしたまではまだ普通でした。
しかし「僕、緊張しないんです」と語り、先輩お二人に驚愕された浦井くん、「萌える異性の仕草は?」で「髪をかき上げてふとかかとに触れる」という謎仕草にジェスチャー付きで言及した辺りから徐々に綻びが。「おすすめのストレッチ」では喉に良いという舌ストレッチで、ついに帝劇の舞台で可愛いベロ出し顔を披露する事態に😅(だがそこがいい)。
なお浦井くんの萌え仕草は、翌日夜のトークショー中川さん回では「靴ずれ?」の一言で片づけられておりました……。
『オトコ・フタリ』のビジュアルはこの日に初公開。祐一郎さん演じる主人公は抽象画家、知寿さんは彼の家に6年勤めるベテラン家政婦、彼らの生活に突如乱入する、母を探す青年に浦井くん。この設定だけでかなりわくわく感があります😊。どうか12月に何事もなく初日を迎えられるよう、ひたすら願っております。


続いて18日夜の回(ゲスト:中川晃教さん)。昼の回を観た後に少しだけ久々に再会した友人と語らい、とんぼ帰りでぎりぎり17時からPCの前に座ることができました。
昼の回では祐一郎さんが先に登場し、中川さんが後から呼ばれて出てきていましたが、夜の回では先に浴衣姿の中川さんが登場。呼ばれて現れた、紺の浴衣をまとった祐一郎さん。とても都や区の方からお風呂の優待券や無料健康診断の券が届く年齢とは思えない麗しさと2人の爽やかさに卒倒しそう……と思いましたが、今にして思えばまだそんなもので卒倒してはいけなかったです。
以前に中川さんが「祐さんとはソウルメイトなんです」と語っていたことがありましたが、「アッキー」「祐さん」と呼び合うお2人、その言葉は伊達ではなかった、と今回実感しました。例えば次のような会話。
ア「祐さんの足、かっこいいですね」
祐「うまいでしょ? こうやってのせてくれるから、20年続いている」
(クリコレでの「闇が広がる」の録音を聴きながら2人でソーシャルディスタンスダンスを踊った後に)
ア「声が良いですよね」
祐「そんなことアッキーに言われると死んじゃう❤️(略)こんなことを20年やってます」
……何なの君たち。どれだけ仲良しなの😅。しかも途中で白玉あずきとわらび餅が壇上でサービスされると大喜びしていますし。
もちろんただソウルメイトの溺愛だけではなく、とてもありがたいことに、舞台のよもやま話もたっぷり披露されていました。
祐一郎さんが若かりし頃、舞台の終演後にそのまま海へと繰り出してウィンドサーフィンに興じた結果、日焼けして身体にできた水疱が翌日の舞台で相手役をリフトした際にプチプチ潰れて「痛ーい♪」となった話。
中川さんの舞台にG(人類に忌み嫌われがちな4文字の脂ぎった昆虫)が出現した小騒動の話と、祐一郎さんが海亀研究者のお友達から「Gがいない空間には人類は生存できない」話を聴き「Gは友達」と心を入れ替えた話。
祐一郎さんが某劇団時代、ロンドンでのJCS公演の際にオケが客席の床板の下に潜ることになり、コンピュータに音楽を録音して流す筈が、本番でデータが飛んでしまい、床下から打楽器の音のみが響きストリングス系の音はほとんど聴こえない状況で歌う羽目になった話。
「M!」の際に中川ヴォルフが山口猊下にカツラを投げつけると猊下股間に百発百中であったために猊下が舞台裏で思わず「野球部?」と訊いた話(そして「あれは演出家がそうなるように仕向けたに違いない」となぜかその場にいない某先生に責任転嫁)……などなど。
また、中川さんが「祐さんのゲッセマネ(の園)を聴きたい」「スーパースターが聴きたい」と粘り強く水を向けており、それは無理じゃないかな? と思っていたのですが、何と英語で、ほんの30秒強ではあるもののゲッセマネの一節が! ありがとう、アッキー!
3.11の話も少しされていました。当時はお2人ともそれぞれ別々の稽古場にいらして(私の記憶によれば、確か祐一郎さんはレ・ミゼラブルのお稽古中だった筈)、中川さんはなぜか「これは絶対東北だ」という直感が働きそれが的中。ほかのメンバーが女性ばかりだったので自分が守らねば、と思っていたそうです。一方祐一郎さんは実は揺れ自体には生まれ故郷の鹿児島での桜島の噴火で慣れていたとか(東京は震度5だったと思いますが桜島の揺れはそんなにすごいのでしょうか?)。
……というような幅広い貴重なエピソードが一通り語られた後、最後に披露されたのは、「好きな異性の仕草は?」について。中川さんの回答は「女性の台所に立つ後ろ姿」。その心は? お母様が結婚して初めて台所に立つのにいきなりカレイの煮つけを作らされて、その結果、お父様が目撃したものは、大きな寸胴鍋の煮汁に泳ぐカレイの姿であった、というエピソードでした。これがシメの話で良いのか、という議論もあるかも知れませんが、この状況に遭遇した際のお父様のお母様に対する冷静で温かい対応と、それを語る中川さんの表情が嬉しそうで、また、聴き手の祐一郎さんの見守る眼差しもとても温かかったので、個人的には全く問題ないと感じています。

こうして2回分の感想を書いてみると、色々な意味でこんな機会はもう滅多にないだろう、と改めて思います。何度も本編中でも繰り返されていたように、コロナ禍がなければ生まれ得なかった企画ではありますが、コロナ禍による通常ではない状況、舞台芸能に対する逆風がまだまだ続きそうな中、つかの間の幸せな時間を堪能させていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
なお、以上2回を配信で観た際のその場の雰囲気やリアルな感想については、下記のTwilogの方がまとまっていると思うので、よろしければこちらもどうぞ。

 

『My Story―素敵な仲間たち―』感想(2020.09.18 13:00開演)

本年8月27日、「ミュージカルの帝王と仲間たちが繰り広げる、予測不能スペシャル・トークショー」が9月17~18日に開催されることが東宝から発表されました。しかも全回Streaming+配信あり。

本業のスケジュール上、17日夜の部は配信でも見るのが難しそうでしたが、それ以外は何とかなりそうと判断。結局18日昼の部の帝劇チケットが取れたため、2月19日に日生劇場に出向いて以来、7ヶ月ぶりに東京へ行ってきました。ちなみに帝劇はなんと昨年11月27日のTdV東京楽以来、ほぼ10ヶ月ぶりとなります。

配信では9月17日昼、9月18日夜も視聴していますが、取り急ぎ劇場に直接参加した18日昼のレポート+感想を落としておきます。

18日昼の部の祐一郎さんは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(BTTF)のテーマ曲に乗せて、舞台上方から本イベント公式のピーチ色のTシャツにジーンズで登場。アッキーこと中川さんは白い公式Tシャツで登場しました。

トークショートークタイム10分×7本勝負。一応質問用台本と、本番中に紹介する音源や映像・写真が定められており、各トークタイムの終了時刻が近づくと黄色いランプが点灯→点滅→赤ランプが点灯し、強制的に盆回しで椅子とテーブルのセットが入れ替わるという、帝劇の舞台設備を無駄遣い……ではなく有効活用した構成になっていました。この構成は一応全4回共通ですが、本日の祐一郎+アッキーの担当回では質問用台本が9割方無視され、ほぼフリートーク状態と化していました。

以下、順不同ですが、覚えている限りのトークの概要になります。音楽の先生の件や博多・札幌のどちらが好きか? の件など、別の回でも共通で触れられていたネタもいくつか含まれています。

  • Tシャツの裾を全部外に出している祐一郎さんと、お腹側だけ裾をしまって(「お腹が冷えるからね」とのジョーク付き)おしゃれに着こなしている中川さん。祐一郎さんの子供の時は裾を出さずにしまっておけ、と言われていた。
  • 今回も含め、公演前には必ずPCR検査を受けさせられている。PCR検査のために「よだれ」(唾液)を出す必要があるので、検査室には唾液が出やすくなるようレモンや梅干しの写真が貼ってある。祐一郎さんは検査に梅干しの現物を持参していたが、今日、中川さんからもっと良い方法がある、と教えられた。その方法とは「家を出る時から口の中によだれを溜めておく」。
  • 帝劇JBコンの舞台稽古後に陽性者が出たとスタッフから告げられ、明日はお風呂にでも入るしかないか、と思っていたら「配信やります!」という連絡がきて、無観客でやることになった。やはりこうしてお客様の反応があるのは良い。
  • 帝劇で11月に上演予定の『ビューティフル』。キスシーンがあるが、変わるかも知れない。でも中川さんはスイッチが入ると止まらなくなる。祐一郎さんも同じ。
  • 昨日の回でも映し出されていた、ヘアスプレーのママの型どり映像。「これいじめですか?」と中川さん。どんどんすごいことになる祐一郎さんのさまに対して中川さん「うわーっ」「ああっ」と素でリアクション。これをやってもらっている間は、耳に型どり材の音が響く。乾くのに一時間かかった、と祐一郎さん。
  • 祐一郎さんはこういう型どりをするのはこれで3回目だった(オペラ座の怪人とヘアスプレーと、あとは何だろう?(追記:恐らく幻の『美女と野獣』と思われます。))。昔は石膏で型どりしたので、まつげが剥がれてなくなってしまった。まつげがなくなると、お風呂で頭を洗う時にシャンプーが目に入ることを、その際に知った。
  • 場面転換の盆回しで時々即興でスキャットする中川さん(面白い!)。
  • JBで中川さんとフランキー・ヴァリ氏(本物)のツーショット。2人の背格好が似ている。ヴァリ役はあまり身長の高くない役者が演じるよう指定されている。東宝の方はぜひヴァリさんの役は中川にやってほしい、と言ってくれたが、役を演じるにはヴァリさんご本人に認めてもらわないといけないので、急遽オーディションで彼の曲を6曲続けて歌うことになり大変だった。しかしその結果、30代の代表作と言えるものができた。
  • このトークを受けて祐一郎さん、とある劇団にいらしたお若い頃(フォーシーズンズ! と中川さんからフォローあり)、先輩からお前が元気に演じているのが嬉しい、と言われたが、今になりその気持ちが分かる、とコメント。
  • 学生時代に「身の丈六尺は物の怪なり」と習い、自分のことか、と思い、そう言えば畳なども大体六尺以下の寸法で作られている、と理解した祐一郎さん。そして「物の怪」という言葉がぴんとこなかったらしく「もののけ姫?」とボケてみる中川さん。 ※どのタイミングでの会話か失念。ヴァリ役者の身長要件の話の辺り?
  • 中川さんの初帝劇は小学生の頃祖母や母と観た『ミス・サイゴン』だった。
  • 祐一郎さん、男子校の中学生の頃、学校唯一の女性の先生だった音楽の先生をクラスの皆でからかったら先生が教室から飛び出してしまい、剣道と柔道の先生に怒られ、皆で謝った。結局その先生は辞めてしまい、以降女性の先生がくることはなかった。
  • 札幌と博多のどちらが好き? という質問について。祐一郎さんは両方好き。なぜならラーメンがおいしいから。中川さんは札幌には公演ではご縁がない。
  • 祐一郎さんが札幌に公演で滞在中の冬、記録的な1日2.4mの大雪が降った。朝、劇団で宿舎として借り上げていたマンションから駐車場を眺めて「車がない」と思ったら、所々膨らみがあり、車が埋もれていた。これは公演はないと思っていたが、「上演する」との連絡があり驚いた。道路には雪がなく、除雪された雪が道の脇に高く積もっており、その上にバス停が載せられていた。そこに登ってバスを待ち、入ってくるバスの天井が見えた。バスは遅れたが無事会場入りできた。
  • 中川さんはファンクラブのトラベリング(ファンの集い的な親睦ツアー?)で釧路に行った時、タンチョウの親子が車の助手席側に見えて、目があったことがある。客席に「タンチョウと目があったことがある人ー?」と尋ねると1、2名から拍手。ファンクラブの旅行で後ろの車にいた人? と祐一郎さんが問いかけるもそれには反応なし。
  • 祐一郎さんと中川さんの「闇が広がる」デュエットの貴重な音源(クリコレ)。中川さんの声に包まれるのは気持ちいい、と祐一郎さん。感慨深げな中川さん。
  • 中川さんの代表作舞台写真は『SHIROH』、『M!』、『ビューティフル』、『ジャージー・ボーイズ』。主人公シローの磔刑など『ジーザス・クライスト・スーパースター』へのリスペクトが見られる『SHIROH』について、「ジーザス、祐さんと一緒!」との中川さんからのコメントあり。『SHIROH』では磔後にシローがアカペラソロで歌い始め、続けてコーラス、その後にオケの演奏が加わるという流れがあり、結構苦慮した模様。
  • M!の舞台写真。猊下のマントは元々八畳だったが動けないことが分かったので六畳に変更してもらった。中川さん、デビューのM!では本当に自由にやらせてもらい、祐一郎さんに大きな胸で受け止めてもらえてありがたかった、と中川さん。
  • M!のラストシーンについて。芝居が終わって劇場を出た時のお客の表情は大事、とジロドゥが言っているが、それを踏まえるとあのヴォルフとアマデの結末は観客にとってつらいものなので、変更すべきとの議論もあった、と祐一郎さん。 ※初めて知りました……。
  • 祐一郎さんの話。四谷第三小学校の頃、友人に囲碁の木谷先生のお弟子さんがいたが、他の子供と一緒に遊ぼうともせずひたすら囲碁の勉強に励み、のちに名人にまでなった。また、クンツェさんとリーヴァイさんは、かつてサラエボオリンピックが仲良く開催されたのに内戦がユーゴに起きてしまった頃、アメリカで作っていたポップスに見切りをつけてミュージカルを作り始めた。ちょうどそこ(クンツェ&リーヴァイ作品の産み出される時代)にアッキー(という才能ある人物)がいなければ、(アッキーはミュージカルはやらずに)まだ音楽100%でやっていたかも知れない。これは本当にすごいことだと思う。
  • 明日から中川さんはコンサートツアー。多くは休憩時間なしでの開催だが、会場によっては換気のために休憩時間を設ける所がある。
  • 四谷第三小学校の時に祐一郎さんが好きだった女の子とのエピソード。デートした後、学校で2人きりになって「好き」と言いたかったのにチャイムが鳴って用務員さんに声をかけられそこで終わってしまった。自分を中学から男子校に入れた親は賢明だったかも知れない。アッキーは男子校? と問いかけ、男子校です、と中川さん。昨日の2人(”アッキーが好きな“加藤和樹さんと、平方元基さん)は共学だったんだよー、と突如2人をうらやむ祐一郎さん。
  • 2人はたった一度しか共演していないのにこうしたご縁のある不思議。そしてこんなこと(コロナ禍)がなければこういう機会はなかっただろう、という話。 ※何か共演発表があったら良いな、とひっそり期待していましたが、特にありませんでした。

終演時は、中川さんだけセリから退場? と思いきや、2人でBTTFのテーマにのって手を取り合って舞台上方へと一緒に退場して行きました。

今回改めて、「祐一郎さんとアッキーが『ソウルメイト』というのは伊達ではなかったんだ!」と実感いたしました。息が合いすぎてリラックスしまくり、どこまでもフリーダムなトーク。止まらない舞台への愛と鋭い感性。きっと、お二人の心の中は同じ宇宙空間でつながっているに違いない、と確信しています。

そして、トークショーは最高に楽しくて、劇場にいる間は現実をしばしふわりと離れてまさに「夢のようなひととき」を過ごすことができましたが、やはり今度は舞台作品で役を演じるお二人を観てみたい、という気持ちになったのも確かです。まずは祐一郎さんと知寿さん、浦井くんの『オトコ・フタリ』が地方公演も含め全日程無事に上演されることを強く願うとともに、いつか祐一郎さんと中川さんの再共演が実現することも期待しています。

 

『SHOW-ISMS(Version DRAMATICA/ROMANTICA)』(Streaming+配信)感想(2020.7.23 18:00開演)

キャスト:
彩吹真央 JKim 知念里奈 新妻聖子 井上芳雄 美弥るりか 平方元基 夢咲ねね 樋口麻美 下村実生 今拓哉 保坂知寿

シアタークリエで7月20日から上演されている『SHOW-ISMS』。都外在住な上に地元で日常が完結している者としては、まだ公共交通機関に乗って利根川を越えて劇場に向かうのが精神的に辛いので、今回も配信で鑑賞することにしました。

私的に劇場に行くこと自体は全く抵抗がないのですが、東京に到着するまでの間に公共交通機関で移動することにまだ踏ん切りがつかずにいます。さりとて東京の複雑な道筋を迷わずに車で走れる運転技術も、空いている駐車場を探してさっくり入庫する技術も持ち合わせておらず。都内在住であればリスクと隣り合わせは当たり前、ともう少し腹を括れたかも知れない所を、こんなに躊躇していて、「家から劇場の玄関先に直通できるどこでもドアが欲しい!」と本気で考えている自分がいい加減アホらしくなってきてはいますが、まだしばらくは悩み続けると思います。

前置きが長くなりましたが、以下、ショーの感想です。

開演30分前から日替わりキャストによる配信があると言うので、家族が拵えてくれた夕食を早めにいただきながら観ていました。本日のキャストは、平方さんと夢咲さん→井上さんと演出家小林さん→再び平方さんと夢咲さん、でした。最初に平方さんが出てきた時の風体が頭にタオルを巻いたTシャツ姿、体格も若干筋肉が割増されたガテン系(この言葉ってまだ通用します?)だったので、「何で?」という大きい疑問符で頭が埋め尽くされ、内容はほとんど覚えておりません。なおガテン系の理由は『マトリョーシカ』の役柄の関係でした。

今回の本編プログラム(Aプログラム、と呼ばれていました)は前半が『DRAMATICA/ROMANTICA』のコンサート、中盤が『∞/ユイット』からの井上さんと彩吹さんのデュエット、後半が本来今年の新作として単独上演される予定だった『マトリョーシカ』から数曲披露するショー、という構成でした。公演日程後半の『マトリョーシカ』メインのプログラムが「Bプログラム」になるようです。

前半で知念さんの歌う「Cinema Italiano」をどこかで確かに聴いたことがある! と本ブログを検索したら、2014年1月のクリコレで披露されていました。これ、結構好きな曲です。あと『ルドルフ』から1曲歌う前に、この歌は今歌うと「ん?」と思う、というような発言をされていて、井上さんに「まあ、状況も変わりましたからね」と返されていました。なお問題の歌の内容は、若い娘に心惹かれる夫ルドルフに「私が妻よ!」と哀しく主張する正妃の歌で、ああ、それは確かに当時とは実生活での立場が変わったから、また違う気持ちになるんだろうな、と思いながら聴いていました。

新妻さん、ソロでの声量が凄かったです。配信でこれなら現地ではどれだけ響いてるんだ!? と圧倒されてしまいました。ご本人が「会場の換気が良いので外の雨音が聞こえる」と語られていましたが、多分この声なら雨音もかき消されたことでしょう……と思っていたら、井上さんが同趣旨のことを突っ込んでいました。

JKimさんも「私、確かにこの重厚な歌声を最近聴いた」と思ったら『ビッグ・フィッシュ』の魔女さんでした(なぜ忘れる)。「魔女役が多い」とご自身で仰ってましたがそうなのでしょうか。「動物役も多い」と言う話も出て「それは劇団的に……」と井上さんが返していました。JKimさんは劇団四季で『CATS』のグリザベラ役などを務めており、今回の公演でも情感たっぷりの「メモリー」を披露されていました。

そのJKimさんが、「今日この会場にいらした方は勇気のある方です!」と発言されていて、うんうん、そうだと思うよ、私はちょっと勇気が足りなかったけど、と思っていたら、井上さんがすかさず「配信の皆さんも、これポチると(申し込むと)4000円かー、と勇気が要りますよね!」とフォローを入れていました。JKimさんはこの情勢下に劇場に駆けつけられた方達への心からの感謝の言葉を発せられたものなので、そのことは何の邪心もなく素直に受け止めていますが、それと同時に井上さんのフォローの力量に感心せずにはいられませんでした。

この件に限らず、井上さん、冠番組のホストやその他の司会、トークゲストなどの経験を積んだためか、以前から高かったMC力がまた上がったように感じられました。今回の強力かつ個性的な女性陣(しかも家族を含む)を、軽妙にして時々ブラックなトークで見事に仕切り、その上プリンスぶりも遺憾なく発揮していたと思います。

なお新妻さんやJKimさんが強烈すぎて書き損ねていましたが、彩吹さんも安定のレベルで大活躍されていました。中盤の井上さんとのデュエットが美しかったです。

後半の『マトリョーシカ』ショーではキャスト(美弥さん、平方さん、夢咲さん、樋口さん、下村さん、今さん、知寿さん)が登場し、それぞれの配役について説明されていました。様々な事情を抱えて定時制高校に通う、シングルマザー、学習障害を抱える肉体労働の青年、中年ホームレス、貧困ゆえに無学の主婦など立場も年齢も異なる生徒達と、美弥さんの先生との物語であるとのことです。

元の脚本では3時間近くあった『マトリョーシカ』を今回のAプログラムでは4曲のショーに、Bプログラムでは80分程度のミュージカル・スケッチに再構成するそうで、それはなかなか大変な作業なのではないかと想像しています。

今回披露された楽曲は上記のとおりわずか4曲、ほんのさわりに過ぎないようですが、いずれも「例え短縮版であっても良いから、この美しい音楽とダンスに彩られた物語を見届けたい」と観客の心をかき立てる巧妙な作りになっていました。ううむ、これはBプログラムの配信も観るしかないでしょうか……?

公演のラストは前半・後半のキャスト全員によるゴージャスな合唱でした。終演後、配信で知寿さんら女性キャスト3名からのご挨拶もあって、2時間があっという間、満足感たっぷりのコンサートであったと思います。

なお、配信状況としては、わが家の環境(フレッツ光、室内ではWi-Fi)では途中で一瞬だけ映像が不安定になりましたが、あとは概ね問題なく視聴することができました。ただし配信時のチャット欄には「たびたび不安定になった」とのコメントも見受けられたので、各自の通信環境や居住地域の回線状況にも大きく左右されるのかも知れません。

 

「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート」(Streaming+配信)感想(2020.7.19 13:30開演)

キャスト:
フランキー・ヴァリ中川晃教 トミー・デヴィート=藤岡正明尾上右近 ボブ・ゴーディオ=矢崎広東啓介 ニック・マッシ=spi/大山真志 ボブ・クルー=加藤潤一/法月康平 ノーム・ワックスマン=畠中洋 綿引さやか 小此木まり 遠藤瑠美子 大音智海 白石拓也 山野靖博 若松渓太

これまで、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の日本版にはなかなか観劇のご縁がありませんでした。まず、2016年の初演、2018年の再演ではともにチケットが全く取れずに断念。今年2020年に帝劇で再々演の筈であった公演ではようやくチケット確保! と喜んだのもつかの間、コロナ禍のために公演中止に。

今回、コンサートver.で1幕物としての公演実施と、Streaming+での配信が決定したと聞き、前週の明治座コンサートに引き続きまたもや週末の時間を配信鑑賞に割いて良いのか? とぎりぎりまで悩んだ末、開演7分前になって本日の配信チケットを購入し、約1時間半ライブ視聴いたしました。

実は最初は8月に入ってから配信を観ようかとも考えていたのですが、諸事情により初日直前に4公演分の無観客開催が決まったことを知り、1日でも早く応援したい! と思ったのも本日鑑賞した動機の一つであったりします。

配信が始まって間もなく、一応節目節目でストーリーの説明や過去の公演の舞台映像は入るものの、そもそも「フォー・シーズンズ」の予備知識が0な上、正規上演版を全く観たことのない人間にはついていくのがなかなか厳しく感じられました。やむなくWikipediaに載っている1幕と2幕の粗筋を横目で見ながら鑑賞していましたが、途中で語り手が交替しながら語り継いでいくスタイルを、元々は同じ舞台に立つことがありえないダブルキャストに巧妙にやり取りさせながら踏襲しているのは上手い演出だと思いました(演出家は藤田俊太郎さん)。

実在のグループ「フォー・シーズンズ」の栄光と挫折に彩られた年代記を彼らの楽曲を使用して描くジュークボックス・ミュージカルという本作の性格上当然ではありますが、音楽はノリの良いロックンロールで大変に良かったです。

なおボーイズ・タウン・ギャングで聴き慣れていた「君の瞳に恋してる」のオリジナル歌手がフランキー・ヴァリだったことは今回初めて知りました。あと「ショートショーツ」は日本人としては「『タモリ倶楽部』のテーマ」として摺り込まれているもので、あの曲が流れるだけで脳内にギャルのお尻が乱舞し始めるのは困ったものです😅。

また、あまり品行方正とは言いがたいニュージャージーの若者達が結成したグループが、名声を得た後に男女の色恋沙汰や主人公の家庭崩壊、そしてメンバー間の才能の力関係や金銭問題でじわじわとグループ内の結束が壊れていく展開は、筋書きだけ見ると本来かなり生々しいと想像しますが、今回はコンサートver.のためその辺りがうまくマスキングされた面もあるのではないかと思います。もっともラストでは皆年月と年齢を重ねて丸くなっているので、決して後味は悪くないのです。

キャストについては、若手もベテランも全員歌唱力があり、高音域をしっかり出せる役者さん揃いです。実際の公演ではシングルキャストの中川さん以外のメインキャストがBLACKとGREENの2チームに分かれて交互出演する筈だったのが、コンサートver.では一堂に会して歌っています。配信で観た限りでは、自分の好みのキャストはBLACKとGREENにばらけていたので、これはこのカンパニーでの再演が実現したら両チームを観ないといけないのかな、などと考えながら観ていました。

しかしなんと言っても聴き所は中川さんのファルセットです。ヘッドフォン越しであっても心地よく響いてふわっと広がるあの歌声を聴けるだけでも、耳が幸せになれます。

コンサート終演時には、配信画面からチャットでキャストに盛大な拍手を何度も送りました。どうしても前回と同じような感想になってしまいますが、コンサートver.も十分楽しかったものの、この演目もやはりミュージカルの正式な公演でも観たい、という気持ちがかき立てられています。先週も書いたとおり配信はとてもありがたくその恩恵を受けていますが、いつか必ず劇場で直に観て応援したいと思います。

 

中川晃教コンサート2020 feat.ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』(Streaming+配信)感想(2020.7.12 12:00開演)

出演:
中川晃教
(ゲスト)横山だいすけ 山崎大輝 近藤頌利

2020年4月に明治座にて開幕予定だった、アッキーこと中川晃教さん主演のミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』。とても残念なことにコロナ禍のため上演中止になってしまいましたが、大変ありがたいことにe+の動画配信サービス「Streaming+」による有料配信が実施されることになり、本日昼の部をライブで鑑賞することができました。

家族にノートPCをテレビとスピーカーに繋がっているアンプに接続してもらい、テレビの真正面に陣取って約2時間(休憩なし)の視聴を敢行しました。事前の想定以上に配信音声も映像もクリアで安定していて良かったです。そして、中川さんの歌を聴くたびに言っている気がしますが、彼は本当に「天から授かった歌声」の持ち主だと常々考えていますので、たとえ会場で生歌を聴くには遠く及ばないとしても、その授かり物の歌声が配信でも損なわれずに聴けることをとても嬉しく思います。

前半が中川さんのオリジナルや主演ミュージカルなどの「持ち歌」ナンバー披露で、中盤にトークショーを挟み、後半に『チェーザレ』のナンバーを披露、という構成でした。

主演ミュージカルや音楽劇のナンバーは『モーツァルト!』と『SHIROH』と『銀河鉄道999』から1曲ずつ歌われていました。『モーツァルト!』と『SHIROH』については実際の劇中の台詞付きで歌っていたのが自分にとっては結構新鮮に感じられました。特に『SHIROH』の場合は中川さん自身が演じた「シロー」のほかに「お蜜」と「ゼンザ」(本編では秋山菜津子さんと泉見洋平さんが演じていました)の台詞も再現していたので一種奇妙な感じではありましたが、台詞がセットでないとシローの心境が分からないので、やはり必要だったのだろうと思います。また、台詞が挟まるだけで途端に音楽のステージに芝居空間が再現され、「シローが降りてきた!」と感じられるのは不思議なことです。

トークショーのゲストは『チェーザレ』にキャスティングされていた方々のうち、アンジェロ役の山崎大輝さんとドラギニャッツォ役の近藤頌利さんでした。お2人についてはじつはあまり存じ上げないのですが、トークのやり取りから見える中川さんとの関係性がそれぞれに心温まる感じ、好印象でしたので、このトークショー、願わくば実際に上演された本編を観た上で聴きたかったなあ、と口惜しさを覚えました。山崎さんが登場した際の中川さんとのソーシャルディスタンスを保ったエアハグにもグッとくるものがありました。

なおトークの内容はそんなに事細かには覚えていないのですが、確か山崎さんの発言の天然ぶりがいじられていた際に、中川さんが「僕も時々宇宙語を喋っているらしく通訳が必要」みたいなことを言っていたのを聞いて、ああ、多分フォローのつもりなんだろうけど、「そうだろうなあ」と納得してしまうのはなぜだろう? と余計なことを考えておりました。

後半の『チェーザレ』のナンバー披露では、ハインリッヒ7世役の横山だいすけさん(だいすけお兄さん)がゲストで登場。このハインリッヒ7世とチェーザレとの掛け合いのあるナンバーが、だいすけお兄さんの力強い歌声も相まって実に素晴らしく、ああ、これは劇場で生で観たかったし聴きたかった! と、トークショーの時以上に悔しくてたまらず、心の中で1人もがいてしまいました。

しかも歌唱後のトークによれば、実際にはこの場面に藤岡正明さん演じるダンテも出演する筈であったとのこと。更に改めてキャスト表を見ると、チェーザレの実父は別所哲也さんで、ライバルの父親は今拓哉さん、そして岡幸二郎さんも、と安定のベテラン勢。……いや、存じてはいましたが。改めて、やっぱりこれはフルバージョンで観ないと納得が行かない! と再認識した次第です。

小ネタとしては、なぜか本日の演奏担当のキーボードの方(お名前失念)が世界史にお詳しくていらして(音楽よりも歴史が好きかも知れない、と発言して中川さんに「それはダメでしょう」と突っ込まれていました😅)、教皇と皇帝との対立が続いていた中世ヨーロッパの事情についてとうとうと解説されていました。続きは夜の部で! と仰っていました。夜観る予定はありませんが、少し気になります。

コンサート終盤は、闘牛士をテーマにした(?)ちょっと男臭いナンバーと、アンコールとしてバラードがもう1曲披露されていました。コンサート終了時には、届かないと承知しつつ、画面の前で心から拍手を送らせていただきました。

7月12日現在、東京都民の方には申し訳ないのですが、都外在住者としてはまだまだ劇場に公共交通機関を使用して出向くには勇気が必要な状況が続いています。加えて劇場側でもソーシャルディスタンス維持のために、通常の半数の座席しか販売が行われないため、従来以上にチケットは入手しづらくなっていると推測されます。そのような状況下で、こうして自宅にて舞台を堪能することができるネット映像配信の技術にただ感謝するばかりです。恐らく様々な権利事情により、配信許諾が難しい演目もあると思われますが、このような観劇クラスタには厳しい情勢下、少しでもリモートで楽しめて舞台を応援できる機会が増えて欲しい、と願っております。

 

『WE MUST GO ON』

ご無沙汰しております。

今年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡がりという「流行」を飛び越した「災害」に伴い、2月末から演劇が次々に上演中止に見舞われています。

あっという間に事態は悪化し、私が3月以降に観に行く予定だった演目も次々に上演中止となりました。本業にもじわじわと様々な影響が出て心身ともにしんどさが増す状況下、これまでなら観劇で気持ちを奮い立たせてきたのにそれが叶わないという、なかなかに心が折れる日々が6月上旬現在もなお続いております。

そのような中、この演劇界の非常事態に最前線で直面している役者さんやスタッフの方々のインタビュー本の企画がクラウドファンディングで立ち上がっていることを、発起人のお一人でいらっしゃる平野祥恵さんのツイートで知りました。普段自分がクラウドファンディングに乗らせていただく際には、ある程度の資金を投じることもありかなり吟味あるいは逡巡しますが、この企画への投資は即決! でした。

そして先週、上記の経緯で制作された書籍『WE MUST GO ON』が手元に届けられました。石川禅井上芳雄、伊礼彼方、上口耕平、ソニン中川晃教……インタビューを受けられた役者さんのお名前や、「よくぞOKを!」というスタッフさん方のお名前を見ただけでもこの書籍を企画された皆さまのご尽力がしのばれます。詳述はいたしませんが、この辺りのご苦労は同封の小冊子でも紹介されていました。

個々のインタビューに関する細かい感想は省略しますが、事態がここまで深刻になる前の時期のインタビューも含まれているとは言え、役者、プロデューサー、振付家などの立場の別を問わず例外なく、意外な程に演劇界の、そして各々の活動の今後についてポジティブかつ強靭に向き合っていることに心を打たれました。

個人的には伊礼くんの初々しかった頃のルドルフを観ているので、現在二児の父親でもある彼が強かに逞しくショービズ界を泳ぎ渡ろうとしている姿に、勝手に姉のような心持ちになっています。

また、東宝で今回急遽上演が打ち切られた『天保十二年のシェイクスピア』の今村プロデューサーのインタビュー。元々東宝Twitterでレポートされたお稽古の様子からも天保カンパニーの一体感は伝わってきていましたが、千穐楽直前の上演打ち切り、無観客でのDVD・Blu-ray用映像収録という過酷な状況に直面したカンパニーの底力とエネルギーとが強烈に伝わってくる内容であったと思います。

この書籍を読み、 「日本のミュージカルは、演劇は、このままでは終わらないし、終わるわけがない」と確信しました。

エンターテインメントは、地震津波、火災や水害と言った他の災害とは全く性質の異なる感染症という災禍においては、最も不要不急で容易に折られる存在であることが、今回のCOVID-19で身にしみています。復活は簡単ではないかも知れませんが、演劇界にはぜひ乗り越えてもらいたいと願っています。また、自分自身においても、時に喝采を送り、たまに文句をたれつつもわくわくしていたあの日々が徐々にでも少しずつ取り戻せることを心待ちにしつつ、引き続き今日から生きていきたいと思っています。

 

新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』ディレイビューイング感想(前編2020.2.15、後編2020.2.29上映)

キャスト:
(前編)
ナウシカ尾上菊之助 クシャナ中村七之助 ユパ=尾上松也 ミラルパ=坂東巳之助 アスベル/口上=尾上右近 ケチャ=中村米吉 ミト/トルメキアの将軍=市村橘太郎 クロトワ=片岡亀蔵 ジル=河原崎権十郎 城ババ=市村萬次郎 チャルカ=中村錦之助 マニ族僧正=中村又五郎
(後編)
ナウシカ尾上菊之助 クシャナ中村七之助 ユパ=尾上松也 セルム/墓の主の精=中村歌昇 ミラルパ/ナムリス=坂東巳之助 アスベル/オーマの精=尾上右近 道化=中村種之助 ケチャ=中村米吉 第三皇子/神官=中村吉之丞 上人=嵐橘三郎 クロトワ=片岡亀蔵 チャルカ=中村錦之助 ヴ王中村歌六

こんにちは。演劇界隈に新型コロナウイルス禍のため厳しい逆風が吹き荒れています。

自分が3月に観に行こうとチケットを確保していた『アナスタシア』の当該上演回も公演中止になってしまいました。その後東京公演は再開されましたがこれから取り直すことも難しく、大阪公演を追う余裕もなく……ということでどこか鬱屈した思いに囚われ続けています。

だからというわけでもありませんが、1ヶ月ほど前に近所のシネコンに観に行った歌舞伎版『風の谷のナウシカ』の感想を思い出し書きすることにいたしました。以下、お付き合いいただけましたら幸いです。

 

2019年12月に上演された歌舞伎版ナウシカ。これまで歌舞伎鑑賞にご縁が薄かったのと、昼夜通し狂言計6時間という長丁場に腰が引けたのとで、気になりつつも生の舞台を観る機会を逃していました。

そんな折、ちょうど近所のシネコンで前後編各3時間ずつに分けて上映があり、また、伝え聞く舞台の評判も良さそうでしたので、思い切って2回に渡り観に行くことにしました。

歌舞伎版ナウシカ、想像以上にあの世界を再現しており、予想以上にきちんと歌舞伎でした。キャラクターの装束は和装で、ナウシカレクイエム等の劇中音楽の演奏も和楽器ナウシカ王蟲の対話も日本舞踊。更に遠景に飛ぶ小さなメーヴェに乗るナウシカは子役。といった具合で、歌舞伎に詳しくない自分のような者でも分かるような歌舞伎の約束事は一通り守られていると感じました。

同時に、前編・後編ともに口上役や道化役による、物語世界のモチーフが描かれた緞帳を使った前口上であの瘴気に満ちた世界に観客を引き込む工夫がなされており、また、キャラクターの装束も原作のイメージを損なわないよう巧みにデザインされていたので、観ていて全く違和感を覚えませんでした。

主演を張る菊之助さんは開幕直後に負傷したため、立ち回り場面は大幅に減らされていたらしいですが、それでも主演としての見せ場はたっぷり確保されていたと思いますし、全く不満は感じませんでした。舞姿で披露された体幹の確かさと身体の柔らかさに驚愕! そして節目節目で登場するテトと交流する姿なども可憐でした。

なお、このテトのぬいぐるみが実にかわいらしかったです。黒衣さんの操演が見事だったのも大きいですが、後編にてナウシカの腕の中で悲劇的な最期を迎えた時には、涙が出そうになったぐらいです。あの世界が生き物の生存環境として過酷であるという現実を改めて突きつけられた瞬間でもありました。

そして、七之助さんのクシャナ殿下が舞台に最初に登場した瞬間、凄絶なまでの美しさにすっかり息を呑んでおりました。

七之助さんには失礼ながらごく最近まで、お若い頃のどこか振る舞いの危なっかしい印象しか抱いていなかったのですが、大河ドラマ『いだてん』で彼が演じた三遊亭圓生師匠のぞくぞくするような色気に仰天して以来、気になる役者さんの1人になっています。

七之助クシャナ、登場するだけでそのセリフ回し、居住まいから、ただの姫君ではなく、自ら危険を顧みず陣頭に立ち、多くの将兵の畏敬を集め、スパイであった筈のクロトワをも寝返らせるカリスマ性を持つ存在であることが、映像からもこれでもかと伝わってきていました。いずれ他の歌舞伎演目でもぜひ七之助さんを見てみたいです。

ほかにこの演目で気になった役者さんは、土鬼(ドルク)の皇弟ミラルパほかを演じた巳之助さん、そしてアスベルとオーマの精を演じた右近さんでしょうか。

ミラルパのイメージは原作とイコールではないのですが、超常的でただならぬ佇まいと威圧感が終始全身から漂っていたと思います。そしてミラルパをあっさり殺めた後登場する皇兄(ミラルパと二役)が顔はそっくり同じなのに超常性はすっかり消えて俗物感満載で。まだお若い筈なのにあの切り替えは見事! と拍手したくなりました。

右近さんのアスベルは男雛のように美しく、それでいて冒険小説のヒーローのような勇気と強さとを兼ね備えた少年に仕上がっていました。でも「森の人」ことセルム以上にはナウシカの心を強く惹きつけることはなく、何となくケチャと組むことが多くなりいつの間にかフェイドアウトしてしまう所は、まあ、アスベルだなあ、と。

右近さんは後編のクライマックスではオーマの精として朱塗りのメイクで登場。戦闘の舞が実に健気かつ華麗で、そう言えばこの方も菊之助さんや七之助さんと同様、六代目の系譜に名を連ねる役者さんであったなあ、と思いながら見入っておりました。

逆に「もう少し行けるんじゃないか?」と思ったのは松也さんのユパでした。何せユパなので無双の剣士だし、前編の大量の水が降り注ぐ中でのバトルシーンもアスベルとともに身体を張って立派にこなしていたし、何より後編では壮絶な最期を遂げるしで、見せ場は本当にたっぷりあるのですが……うーん、もう一振り何かのスパイスがあってもいいなあ、と思ってしまうのは何故でしょう。

最後になりますが、原作のナウシカが過去の人類の壮大なプロジェクトの礎となることを拒否してプロジェクト破壊の道を選ぶあのラストには、見届けた者の心にずしりと重いものを被せて放さない何かが備わっているとずっと思っておりました。しかし歌舞伎版の幕が下りた後には厳粛さと同時にどこか華やぎもあり、「これで良かったのだ」という気持ちにさせられたのは不思議です。これが、歌舞伎の力なのでしょうか。その「歌舞伎の力」を確かめるために、いずれ必ず歌舞伎の生舞台を観に行こう、と考えはじめています。今は、少しでも早いコロナウイルス禍の解消と、全ての劇場の、エンターテインメントの正常化を願うばかりです。