日々記 観劇別館

観劇(主にミュージカル)の感想ブログです。はてなダイアリーから移行しました。

『レベッカ』感想(2019.1.13 13:00開演)

キャスト:
「わたし」=桜井玲香 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=涼風真世 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

レベッカ』のシアタークリエ公演2回目を観に行ってまいりました。

スーパーアイドル乃木坂46の選抜メンバーにしてキャプテン、桜井Ichはプレビューも含めまるきり初見でしたが、とにかくか細くて少女に近い可愛らしさで、この子は守ってあげたい、という雰囲気に包まれていました。序盤のヴァン・ホッパー夫人との対話でも、心なしかモリクミさんがお手柔らかになっているような印象を受けました。歌声はトリプルキャストの他2人に比べると若干か細く、マキシムやダンヴァースとのデュエットでは声量が負けてしまっている所もありましたし、1幕中盤の「こんな夜こそ」では明らかにマキシムが歌うタイミングを彼女に寄せて合わせていると感じられる所もありました。でも声質は澄んでいて聞きやすいので、ミュージカルの仕事は続けてほしいと思います。

山口マキシムは今回は、あれ? 微妙に声を出しにくそうで伸ばしにくそう? と感じました。例えば2幕の「凍りつく微笑み」の、あらしのーなかぁーー♪のフレーズ、普段はもっと、たたたたーん、たたーー♪と階段を駆け上るようにすうっと気持ち良く高音に移行するのが、ほんの少し昇りづらそうに聞こえました。ただ、地の台詞の声は全く問題ないですし、歌に込められた熱量はいつも通りかそれ以上に素晴らしかったと思います。

桜井Ichと山口マキシムとの相性ですが、マキシムが「幸せの風景」でヒロインに向ける眼差しが本当に温かく、掌でふわりと彼女を包み込むような声で歌いかけていました。その後も、彼女を温かく守りたいのに自分が現実から逃げるために利用したこと、また、レベッカの影を意識しすぎるあまり彼女の些細な言動を責めさいなんだことを心から悔やみ苦しんでいるのが伝わってきて、とても良かったと思います。ただ、妻に対しての愛情と言うよりは保護者的な面がやや強いようにも感じられましたが。

それから、今期のクリエ公演では初見の涼風ダニー。保坂ダニーも涼風ダニーもレベッカへの執着の強さは変わらないのですが、保坂ダニーの振る舞いが徹頭徹尾、冷静で冷徹で無表情なのに対し、涼風ダニーの方が冷徹な中にも人としての感情が表に出ています。個人的好みで申しますとダニーがクールであるほどにレベッカへの執着と崇拝の異常性が際立ってくる、というのがたまらないのですが、クライマックスの高笑いが似合うのは、レベッカを愛しすぎて心が一体化してしまっている涼風ダニーの方です。あの笑い声、ダニー本人のものだと解釈するとどうも合点がいかないのですが、ダニーに身を借りたレベッカのもの、そして恐らくはマキシムにしか聞こえない声と解釈するとすんなりと納得できると気がつきました。炎の中からそのような恐ろしい幻影と幻聴をまともに受け止めてしまったからこそ、マキシムも20数年経ってなおレベッカマンダレイから完全に解き放たれることはないのだろう、と。

また、エンディングについて、今回観に行く前に、
「以前はキャストがヒロインを囲むようにカトレアの花を投げて床に立てていたが、ダンヴァースを除いてはカトレアの花弁だけ撒くように変更された」
とあらかじめ聞いていました。あまりあの場面について、「レベッカマンダレイの弔い」以上の深い意味は考えたことがありませんでしたが、今回改めてじっくり観て、ああ、最後にダニーの花だけ舞台に刺さってスポットが当たるのは、「今もそこにある、レベッカ」ということであるに違いない、という感想を抱きました。

そして思ったのは、マキシムとヒロインの結びつきは「孤独な者同士」というものでしたが、レベッカも突き詰めると結局の所は独りだったのではないか? ということです。もっとも、レベッカは孤独というよりは孤高の人であり、しかも自分自身が一番大好きで自尊心は天より高く、自分の美貌と幸福を保つためなら世間はいくらでも欺いて利用し、男性はどこまでも軽蔑の対象にすぎないという、かなりサイコパスな人物なので、独りであることは屁とも思わなかった(下品ですみません)点が一線を画しています。ただ、マキシムへのひどい仕打ちの根底には、金づるだが気難しいお坊ちゃんと蔑みつつも、ある意味歪みまくった愛情に近いものがあったのではないかという気がしてなりません。 ※あくまで個人の感想です(強調)。

なお、エンディングに登場するマキシムは60代ぐらい、中の人の実年齢とほぼ同じぐらいの筈ですが、「老けすぎやろ!」と突っ込みながらいつも観ております。全部レベッカマンダレイショックに吸い取られてしまって、現妻の強固な愛情だけを頼りに生きているのでしょうね。

カーテンコールでは一転にこにこ、さわやかに登場するド・ウィンター夫妻です。やはりお父さんと娘のような佇まいではありますが、桜井娘さんは可愛くて、「お父さん」はもっと可愛すぎるので、ほっこりしました。

最後に、初日感想で書こうと思っていて書き忘れていた覚え書きを一つ。

1幕のゴルフのシーン「ブリティッシュ・クラブ」に登場する人達、帝劇再演以前はジャイルズとジュリアン大佐、という人物は特定されておらず、ド・ウィンター家の噂をする上流階級の人達であった覚えがありますが、今回の再々演では歌う前に「おお、ジュリアン!」のように明らかに名前を呼びかけているので、あれ? と思いました。それでヒロインのことを「ひなぎくはばらにはなれない」とか言っちゃってるので、ヒロインとそんなに深く関わっていそうな大佐はともかくジャイルズ氏、結構ひどい!……と憤りながら帝劇再演の時のパンフの場面と曲のリストを眺めていたら、「ブリティッシュ・クラブ」にはしっかり「ジャイルズ、ジュリアン大佐」と書いてありました。今回、歌詞の変更は確実にあったと思われますが、結構人間の記憶はいい加減ですね。

次回の『レベッカ』観劇は今月20日の予定。クリエでは初・千弘さん。楽しみにしています。

 

『レベッカ』シアタークリエ初日感想(2019.1.5 18:00開演)

キャスト:
「わたし」=平野綾 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=保坂知寿 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

 

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

2019年、新年初観劇は地方巡演を経てシアタークリエ初日を迎えた『レベッカ』でした。

いきなり感想にまいりますと、知寿さんのミセス・ダンヴァースの変化に良い意味で驚かされました。

1ヶ月前のプレビューの時は、「ダンヴァースを演るにはちょっと声が可愛すぎるかも?」ぐらいに思っていたんですが、本当ごめんなさい! 知寿ダニーの高音から重低音まで自在に操る歌声の圧がとにかく凄くて、心臓を締め付けられそうに苦しくなりました。そしてあの目力。今回の席が13列どセンターという良席だったこともありますが、知寿さんの強烈な目力がバシバシと飛んできてかなーり怖かったです。

ダンヴァースは後半で信じていたものに少しずつ裏切られてヒビが入って崩壊していく分、前半では狂信を感じさせつつヒロインにとってぶ厚い壁であって欲しいので、知寿ダニーの変化は大歓迎です。

本日のヒロイン、平野さんは前半、涙の印象が強いです。

特にマキシムに求婚されてぽろぽろと涙を流す場面。マキシムが涙を拭っても重ねて大粒の涙が頬を伝い、更にそれをマキシムが拭ってあげていて、マキシムの温かさがたっぷり伝わってきて良かったです。

2幕序盤の平野Ichの怯え方が非常に激しく、それに輪をかけて知寿ダニーが最強の圧で粘っこく迫ってくるので、かなり息詰まる展開になっています。なので知寿ダニー、本当は突き飛ばさなくてもあの圧と目力だけで十分ヒロインを追い詰められると思うのですけれども。

2幕にはヒロインとダンヴァースのデュエットナンバーが2曲あり、いずれも平野さんと知寿さんの声が綺麗にハモっていて気持ちいいです。1曲目と2曲目とでは2人の心理が逆転しているわけですが、知寿ダニーは表情はポーカーフェイスでありながら、2曲目では歌声に微かに心理面の脆い綻びが漂っているのがさすがです。

ダンヴァースという人物について面白いと思うのは、「誰がレベッカを殺したか?」は割とどうでも良くて、むしろ「あのレベッカが易々と自分が死ぬような状況を招くとは思えないので真実を知りたい」と考えている度合いが高そうなところです。レベッカへの執心のあまり価値観が壊れているところが大きいのかも知れませんが、その思いの純粋さゆえに真実を知った時に心が耐えられなかったのだろうと思います。

……というような彼女が達した心境は、真実を知った直後の哀しいソロナンバーからも十二分に伝わってくるので、私、あの高笑いは本気で要らないんですが、もう今季の演出として定着しちゃったんですね😓。残念。

なお知寿ダニーを観ていて考えたのは、祐一郎さんと知寿さんは同じタイプの役者さんなんだなあ、ということでした。いずれも、その歌声に役の人格や感情ばかりか、その役の来し方や担う世界観まで何もかもを載せて観客を魅了する、稀有なミュージカルアクターだと思うのです。

その祐一郎マキシムは、客席にリーヴァイさんほかウィーンの皆様がいらしたこともあってか、どことなく張り詰めた緊張感を漂わせておりましたが、声は絶好調でした。私的には、告白ソングその他で低い音階からすっと高音を聴かせてくれる瞬間がたまりません😊。

マキシムについては、「幸せの風景」でヒロインを思って歌う歌声が、時にウイスパーボイスを交えながら優しく温かさに包まれていたので、観ていてかなり癒やされました。

マキシムは、ある秘密のせいで心のどこかがずっと何かに絡め取られ、元々の気性の激しさゆえに余計にしんどい影を背負いながら生きている人です。それでも途中でヒロインとチェスゲームで戯れるほんの一瞬は、心底幸せそうで見ていて救われます。

2幕でレベッカの大きな影に取り憑かれ、蘇る屈辱に震え自らの所業やヒロインとの幸せが終わるかも知れないことに怯えながら告白を絶唱し、それでも変わらぬ愛を告げる妻を抱きしめる(すがりつくのではなく対等に!)マキシム。それを見て、プレビューの時にはどうもマキシムがヒロインの純粋さを利用したような印象が抜けなかったのですが、今回は、彼にとって若妻は本当になくてはならない存在となったのだということが伝わってきました。

マキシムはレベッカの呪いからの解放と引き換えに、彼のアイデンティティそのものとも言える「あるもの」を永久に失ってしまいますが、失意の中でもきっとそばに寄り添う妻だけは20数年変わらずに彼の魂を癒し続けているに違いない。ラストのド・ウィンター夫妻のツーショットに至るまで、自然にそのように思いました。

ところでクライマックスの駅の場面でド・ウィンター夫妻、初演や再演の時はあんなに何度もキスしていなかったように思うのですが。平野Ichだけなのか他の2人もそうなのかが分からないので、今度気を付けて見てみます。

他にも「げきぴあ」の禅さん&圭吾さんのインタビューを読んだ後に初日を見たら、フランクの理想のビジネスパートナーぶりや、対するファヴェルのヒロインを屁とも思っていない態度が良く理解できたことなど、色々書きたいことはあるのですが、この辺にしておきます。

カーテンコールはキャスト(平野さん、知寿さん)、演出家山田さん、そして作曲家リーヴァイさんからご挨拶がありました。

自分は記憶力が悪いので挨拶の内容は他の観劇ブログ等をご確認いただければと思いますが、リーヴァイさんが、

「私の友人ユウイチロウさん、チズさん、アヤさん、ゼンちゃん、コンちゃん」

と日本語でプリンシパルキャストのお名前を口にされていたのが印象に残りました。

次回の自分の『レベッカ』観劇は13日昼の予定です。初・桜井玲香さんを楽しみにしています。

 

2018年観劇振り返り

こんにちは。2018年ももうじき終わりますので、久々にこの1年の観劇を振り返ってみたいと思います。

今年観た舞台は次の通りです。

(計14回)

最近の体調の関係もあって数年前よりは回数がだいぶ減り、かなり演目が偏ってはいますが、意外と回数は観ていたんだなあ、と少し驚いています。

どう偏っているかと申しますと、『ポー』と『極』を除き、必ず山口さんと浦井くんのどちらかが出演しているということでして。

どの演目も面白かったのですが、自分の書いた感想を読み返すと『橋』の文章だけ明らかに尋常ではない😅。きゃーきゃーとテンションが舞い上がっています。

かつて誰よりも非人間の役どころが似合うと言われた山口さんですが、こういう爛れていない(ここ重要)大人の香りが漂う演目にこそ「祐さま」の真骨頂があるのではないか? という認識を新たにさせられた演目でした。1幕のラストナンバーの「旅は貴方へと至る」という言葉と、2幕終盤にロバートが歌う「(昔の写真が)色あせて(も)、今も残るのは貴方」という言葉にぎゅっと心を掴まれて今も放されずにいます。彼の歌唱力と、歌声のみならず地の声の美しさをじっくり堪能できる演目でもあるので、ぜひ再演して欲しいと願っています。

『BWと銃弾』は保坂知寿さん、鈴木壮麻さんらベテラン勢の使い方に不満はありましたが、一つさじ加減を間違えると大寒波に見舞われそうなアメリカンコメディを、福田さん、ギリギリのラインで良く料理していたとは思います。

『ポー』はとにかくチケットが取れなくて、やむを得ずLVで観た演目でしたが、スクリーンを通しても強烈に伝わってくる明日海りおさんのエドガーの妖美さにやられました。正直観る前までは宝塚の男役さんが「永遠の少年」を演じるイメージが湧かずにいましたが、全くの杞憂でした。

新感線の演目で、4月の花冷えの中観た『極』と、年末の海辺の冷たい風の中で観た『メタマク』。どちらも長すぎてお尻が痛くなるという問題はありましたが😅、ステージアラウンド東京という客席が360°回転するスペシャルな劇場の良さを最大限に活かした舞台作りが見事に成功していたと思います。どちらもかなり残虐な場面や陰惨な場面を含む演目であるにもかかわらず、しっかりと作り込まれた痛快な殺陣と、ギャグ要素も交えたドラマティックにして心に一握りのシリアスな思いを残してくれる脚本、華やかでケレン味たっぷりの演出、そして何よりそれらの要素をがっちり受け止め反射して板の上で輝いてくれる役者さん達の相乗効果で、存分に夢のひと時を堪能させてもらいました。

ちなみに『極』に悪役で登場していた竜星涼さんには、思いがけず2018年秋のNHK金曜22時の連ドラ『昭和元禄落語心中』の画面で再会しました。ドラマは前半はあまりきちんと観られておらず、中盤から毎回視聴するようになり、すっかりはまって電子書籍で原作コミックス全巻読破するに至りましたが、竜星さんほかほとんどのキャストがイメージぴったりであったと思います(個人的には2代目助六だけは育三郎くんではなく浅野忠信さんのイメージでしたが、そうすると8代目八雲の岡田将生くんと年齢的にバランスが取れないので、やはり育三郎くんで良かったのかな、と思う次第です)。

なお、これは余談になりますが、ありがたいことに劇場ロビーを杖を突いて歩いていると、大抵は案内係の方が寄ってきてバリアフリー設備に誘導してくださいます。いつ行ってもその声がけが飛び抜けて早かったのがステージアラウンド東京の案内係の皆さまであったことを申し添えます。

それから『M!』。こちらは例年になくチケットが激戦で、観られなかったキャストが多かったので、あまり多くを語れません。しかし新演出はそれなりに良かったと思います。コロレド猊下の新衣装も豪華でしたし☺️。なお名古屋大楽を観るために初めて訪れた御園座はリニューアルしたばかりの新しい劇場で、お土産売り場も充実していて楽しかったです。

その名古屋遠征の次の週末に観たのが、既に安定の域に達した浦井くん主演の『ゴースト』。本質は甘く切ないラブストーリーですが、サスペンス風味ありの、笑いと涙ありの、霊力バトルありの幽霊奇譚で、実に夏にふさわしい演目でした。当時の感想ではあまり言及できませんでしたが、主人公の親友を演じた平間壮一さんの演技に、「ささやかな日常の幸福に生きていた筈の人間が紙一重で道を踏み外しただけ」な空気が漂っていて印象に残っています。

そして『レベッカ』。何と『ゴースト』から3ヶ月も観劇がなかったことに自分でも驚いています。単に観たかった演目のチケットが取れず、さりとて遠征する元気もなく……という状況だっただけなのですが。

その分を取り返すかのように、年明け1月5日の『レベッカ』初日から毎週末は怒涛のクリエ詣でが始まる予定です。プレビュー公演で10年前と同様、否、役者さん方と同じ歳月だけ観る側も歳を重ねた分、新たな視点も加えてわくわくと物語を見届けられることを実感しました。全国ツアー後に余分な肉が削ぎ落とされる一方で、今回から参加された皆さまも含めて役者さん方もブラッシュアップされている筈、と、更なる期待を胸に新年の劇場に出向きたいと思います。

それでは皆さま、良いお年をお迎えください。

 

『メタルマクベス disc3』感想(2018.12.15 18:00開演)

キャスト:
ランダムスター/マクベス浦井=浦井健治 ランダムスター夫人/ローズ/右近B=長澤まさみ レスポール Jr./元きよし=高杉真宙 グレコ/マクダフ柳下=柳下 大 グレコ夫人/シマコ/林=峯村リエ パール王/ナンプラー粟根まこと 右近/医者=右近健一 エクスプローラー/バンクォー橋本=橋本じゅん レスポール王/元社長=ラサール石井

 

豊洲IHIステージアラウンド東京にて、『メタルマクベス disc3』(以下、「メタマク」)を観てまいりました。

実はメタマクは全くの初見。ヘヴィメタルの重厚なサウンドがドンスコドンスコと耳とお腹に響きまくる中、時たま役者さんにより少々歌詞が聞き取りづらい場合もありましたが、休憩時間を含めてちょうど4時間、質量ともにかなり見応えのある演目でした。

ストーリーは聞き知っているシェイクスピアの『マクベス』をほぼ踏襲しています。

舞台は2218年、戦国の世。道に迷った猛将ランダムスター(ランディ)の前に現れた3人のゴスロリ魔女達の予言とともにもたらされた、1980年代の幻のヘヴィメタバンド「メタルマクベス」のCDが、ただ職務に忠実に生きてきたランディとその愛妻の運命を狂わせていきます。

過去と現在を行き来して紡がれる物語が、展開につれ次第に時系列が錯綜していき、1980年代のマクベス浦井と2218年のランディの犯した悪行と転落とが同時進行で語られるとともに、マクベスのマネージャーであるローズとランディの妻も、自らの罪深い所業を背負いきれずに精神が過去と現在との間を往来しながら錯乱し、狂気を極めていきます。

結局、舞台上では1980年代の「彼ら」の最期については明言されていません。しかし、バンド「メタルマクベス」が遺したCDのラスト曲はインストゥルメンタルです。これが「ヴォーカルがいなくなる」ことを暗示しているのではないか? と終演後に思いついてしまい、しばし慄然としました。まさに「呪いのビデオ」ならぬ「呪いのCD」。メタマクは一種のホラーと言えるかも知れません。

ランディ夫妻もマクベスとローズも、最初はまあ、ささやかな日常の幸せを尊ぶ「普通の人々」だったんだろうな、と思います。その普通の人々が予言に踊らされて変貌していくさまを、浦井くんは天使からデスボイスまで縦横無尽、変幻自在の七色の声で、そして艶々お肌と美脚が麗しい長澤さんはツンデレからヤンデレまでのジェットコースター的転落を巧みな表情と立ち居振る舞いで(しかもローズとランディの妻とで堕ち方、狂い方が微妙に違う!)、激しく動き回りながら見事に演じ切っていました。

特に『マクベス』のマクベス夫人が血まみれの手(幻覚)を洗い続けるエピソードは誰がやっても本当に怖いんですが、今回夢遊病になったランダムスター夫人が幻覚に取り憑かれる場面は、右近さん演じるお医者と門番のビビりぶりに笑いながらもかなり恐ろしかったです。映画『蜘蛛巣城』で山田五十鈴様が演じられた浅茅(マクベス夫人)のただならぬ狂気ぶりを思い出しました。

シェイクスピアの『マクベス』は、権力を握る器ではない者がたまたまささやかな野心にかられて手にしてしまった権力が、結局は王権神授説に従ってそれを握るに相応しいと神が認めた者の元へ還され、バンクォー(エクスプローラー)やマクダフ(グレコ)の妻子ら犠牲者の魂も報われめでたし、という物語だと思っていました。

メタマクも、途中まではそんな雰囲気で展開していき、ラサールさんのレスポール王も、高杉さんのレスポール Jr.(王子)も、そして王子に従う柳下さんのグレコ(マクダフ)も、まさにそのテンプレに沿ったキャラクターを演じています。しかし最後の最後に衝撃的などんでん返しがあり、魔女の予言通りの結果とは言え、結局はたまたま生き残った「普通の人々」が焼け跡で何とか立ち上がって生きていくしかないのだ、と思い知らされるのです。元々はランディ夫妻も「普通の人々」だった筈であり、世界を生かすも殺すも所詮は普通の人々の手に委ねられているということか、クドカン脚本恐るべし、と愕然としながら劇場を後にしました。

それにしても新感線の公演は、無論演じる側もかなりの体力を消耗すると思いますが、観る側も相当に気力と体力を使います。観劇後の呆然とした心持ちを立て直すのに結局一週間かかってしまいました。いや、師走につき本業も忙しかったというのも大きいのですが。

 

以下、蛇足ながら。

2幕のとある場面を観て、「トートダンサーズに追い詰められてるのにいつまでもトートが来てくれないルドルフ」と思ったんですが、あれはもしかして初演では「トートダンサーズに追い詰められるトート」だったんでしょうか?

あと、今回の演目は18時開演、22時終演でした。今回は都内を運転できる同行者がいたので車で高速を飛ばして帰宅できましたが、これ、都外からの日帰り観劇には微妙にきつい上演時間です😅。新感線は今回がステージアラウンドでのラストステージのようですが、もうちょっと何とかならないかな、と思いました。

 

 

『レベッカ』プレビュー2回目感想(2018.12.2 13:30開演)

キャスト:
「わたし」=平野綾 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=保坂知寿 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=吉野圭吾 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

 

プレビュー公演2回目の『レベッカ』を観てまいりました。

何事もなかったように吉野圭吾さんが一足遅く初日を迎えられました。

何があったのか気にならないわけではありませんが、熟練の技の持ち主、吉野ファヴェルが復活してくれたことを今は観客として喜びたいと思います。

例えば吉野ファヴェル、ただベッドに横たわり、レベッカの遺品のナイトガウンをうっとりと抱き締めたりふわりと舞わせたりして戯れるだけなのに、一連の仕草が全て艶かしいダンスになっていたりするのです。しかもフェロモンだだ漏れ。そんな熟練者なのにマンダレイに来ると皆に邪険にされ「出て行け」と言われたり、わざわざ邪道で庶民派なウイスキーソーダ割りをオーダーして聞いてもらえなかったりするファヴェル。彼だけはあの結末の後でも何の影響も受けずにせこく汚くお下劣に生き延びるであろうことが容易に想像できます。

 

今回初見のキャストの感想にまいります。

平野綾さんのヒロイン。困ると左眉がかくんと下がります。物語前半では割と下がりっぱなしなんですが、後半ではそうでもありません。

例えば千弘Ichは2幕でキューピッドを破壊する時に少し表情が、

「あなたに罪はないのにごめんね、でもあなたを壊さなければ前に進めないから、ごめんね!」

と躊躇ってから、えいっ! と思い切っているように見えます。

一方、平野Ichは全く躊躇うことなく、気持ちいいほどあっさりとキューピッドを手放して破壊します。

この子は天涯孤独で苦労したために卑屈、臆病になってるだけであり、おきゃんで後半の試練に立ち向かう強い性格の方が本来の姿に違いない、と思いました。

歌ももちろん申し分なし。歌声も声量も良く、他のキャストと綺麗にハモっていたと思います。

 

保坂知寿さんのダンヴァース。まっしぐらにレベッカを偏愛するひたむきな狂気の主。やや歌声が可愛らしすぎる印象も受けますが、こういう「普通のおばさん」が1幕からじわじわとちら見せしてきた凄まじい執着と憎悪を、2幕で無表情に開陳してヒロインに襲いかかるさまは、観る者も静かに追い詰められる気持ちにさせられました。高笑いは涼風ダニー以上に似合わないです。

なお、涼風ダニーも怖いと言えば怖いんですが、本人が美しすぎる上にレベッカと一心同体になりすぎている感が強いので、個人的には逆に引いてしまう所があります。

知寿ダニーは多分レベッカが生まれた時から母親代わりに厳しくも大事に育て、恐らくお嬢様が魔性の片鱗を見せたら見せたですっかり虜になって、

「この悪の花を摘み取らずに育てなければ。自分のような女には成し得なかった人生をお嬢様ならば男どもを踏み台に歩んでくれるに違いない」

ぐらいのことは普通に考えていたのではないでしょうか。……以上、妄想終了。

それから前回書き損ねていましたが、 出雲さん。1幕のソロの高音域が無理なく安定して出ているなど、安心して聴けるお歌でした。原作のベアトリス(ビー)は優しいけれどお節介で多少口やかましい感じなのですが、舞台のビーは前任の伊東さんも出雲さんも、優しいキャラクターを前面に出していると思います。

あと、続投メンバーですが、tekkanさんのベン。何だか以前よりも存在感がリアルになったように見えるのは気のせいでしょうか。彼は、ヒロインに心を許していても一見表情を大きく変えることはないのですが、2幕のファヴェルの尋問シーンでは、ヒロインを慮ってかばう、というのではなく、ただ彼が、数少ない優しくしてくれた人(多分今まで彼を尊重してくれるマンダレイの住人はフランクぐらいだったのではないかと……)のためにそうしたいからそうしているだけ、という強い意思が伝わってきて良いです。

というわけであまりだらだら書いても仕方ないので、最後にマキシムのことを少し書いて締めくくります。

マキシムの2幕の告白が、今回異様に好きです。特に、これはSNSでも似たことを仰っている方がいらしたと思いますが、彼が語り歌う時の女振り、レベッカの影がちらちら見えて、事件の核心に触れた時にその影がわーっと大きく広がってくる感じが好きです。しかもその影、もしかしたらマキシム自身の心の闇の大きさの反映でもあるのかも知れませんが、彼が新たな揺るぎない愛を得て真相が明らかになった後もなお、恐らく一生涯マキシムの心に住み続け、支配し続けたに違いないと考えると、慄然とするものがあります。

……レベッカ、心底恐ろしい女です。でもまた彼女に会いたい! プレビュー公演のチケットはもう手元になく、遠征観劇の予定もありませんので、一ヶ月後のクリエ公演までお預けとなりますが、またこの作品でマキシムやダニー、そしてファヴェルを通じて、早く彼女の恐るべき魔性に再会したいです。

 

『レベッカ』プレビュー初日感想(2018.12.1 17:00開演)

キャスト:
「わたし」=大塚千弘 マキシム・ド・ウィンター=山口祐一郎 ダンヴァース夫人=涼風真世 フランク・クロウリー石川禅 ジャック・ファヴェル=後藤晋彦 ベン=tekkan ジュリアン大佐=今拓哉 ジャイルズ=KENTARO ベアトリス=出雲綾 ヴァン・ホッパー夫人=森公美子

 

シアター1010で開幕した『レベッカ』プレビュー初日を観てまいりました。

出かける前の午前中に東宝のサイトを見て「吉野圭吾さん休演、後藤晋彦さん代演」の報に驚愕し、少々動揺しつつもお出かけ。

ほぼTwitter投稿の焼き直しですが、まず休演と代演の件について最初にまとめておきます。

プレビュー開演前に、演出家の山田さんから、吉野さん休演と後藤さん代演について、説明がありました。休演の理由は「事情により」のみでしたが、「後藤さんはとても短い期間で準備を……」と仰っていたので、本当に緊急事態であったらしいことが窺えました。お友達の三谷幸喜さんをネタにしたジョークを交えつつ、山田さんが客席を、スタッフを、そして役者さん方を懸命にほぐそうと務めている様子が伝わってきました。

本編が始まり、後藤さんのファヴェルは1幕を見る限りとてもねちっこく人が悪そうに作っているように見受けられました。原作のちょっと脂ぎっしゅなファヴェルに近い感じだったと思います。吉野ファヴェルを真似たものではなくきちんと彼のファヴェルとして演じようとしていると感じました。
2幕のファヴェルのソロはそっくりカットされていました。あればかりはやはり吉野さん当て振りだから無理だったのかな? と思っていましたが、カーテンコールでの祐一郎さんから納得のいくコメントが。コメントの概要は次のとおりです。
「彼は昨日今日の稽古で(代役の演技を)覚えました。ああ、できるんだ、と、今後日本の演劇界でお稽古の期間が短くなったらそれはこの後藤さんのせいです(にっこり)」
祐一郎さんの言葉の響きも、他のアンサンブルの皆様の拍手にもとても暖かい響きがありました。
最初からアンダーとして準備したものではなく、(恐らくは出番や声域の関係から)その役ができそうな既存キャストが短期間の稽古で代役を演じざるを得ない、そのシステムについては色々思うところがございます。しかし、例え1シーンの一時的なカットに繋がったとしても、今回は代役をこなした後藤さんに拍手を送らせていただきます。

以下もほぼツイートの焼き直しではありますが、簡単に感想を記させていただきます。演出変更のネタバレありなのでご注意ください。

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本日『レベッカ』プレビュー初日!

ご無沙汰申し上げております。

本日シアター1010で『レベッカ』のプレビュー初日が開幕します。

おお、ほぼ3ヶ月以上ぶりの観劇! 「げきぴあ」のインタビュー記事の山口さんもいと麗しく……と徐々にテンションを上げておりましたら、東宝の演劇のサイトに、
「本日吉野圭吾さんが事情により本日の公演回を休演、後藤晋彦さん代演」
のお知らせが!(出演者休演のお知らせ

休演理由が「事情により」としか書かれていないので色々気がかりな一方、7年前に『三銃士』帝劇公演の際の出来事で複雑な思いにかられたことのある身としては、アンダーの方がいらして本当に良かった! と思わずにはいられません。吉野さん、もしお怪我などの場合は、しっかり治療していただいて、また万全の状態での復帰をお待ち申し上げております。

……というわけで、本日(12月1日)の『レベッカ』プレビュー初日と明日(12月2日)の2日目を鑑賞の予定です。

足腰は相変わらず不調が続いておりますが、最寄り駅から電車一本で行ける劇場でのプレビュー公演は誠にありがたいです。

12月はその他、『メタルマクベス disc 3』も観劇の予定です。

年明けの『レベッカ』シアタークリエ公演は、初日、楽日を含め計5回観劇予定ですが、1月最終土日を除いてほぼ毎週末出かける感じなので、踏ん張れ、私の体調と体力! 本業よ、頼むから楽日を邪魔してくれるな! と願うばかりです。

 

はてなダイアリーからお引っ越ししました

このほど、2019年春限りでの「はてなダイアリー」のサービス終了が発表されました。

d.hatena.ne.jp

最近のブログサービスに比べるとかなりクラシカルなブログインターフェイスを、他のブログサービスに移る理由も見当たらなかったため使い続けてきましたが、サービス終了ということなので諦めて、過去の記事もまるごと「はてなブログ」に移ることにいたしました。

しばらくは旧ブログも残るようですが、新たなコメントの受付は停止しております。

今後の更新はこちらのブログで行ってまいります。
旧ブログをご愛顧いただいた皆様、誠にありがとうございました。
新ブログでも引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。

『ゴースト(GHOST)』感想(2018.8.25 18:00開演)

キャスト:
サム=浦井健治 モリー秋元才加 カール=平間壮一 オダ・メイ=森公美子

シアタークリエで『ゴースト』を観てまいりました。

元の映画『ゴースト ニューヨークの幻』が大変有名な作品であるにもかかわらず自分は観たことがなかったため、ストーリーを知らずに観劇しましたが、ラブコメとしてもホラーアクションとしても、そして人情話としても良くできていて面白く観ることができました。
観劇後に映画のネタバレあらすじをチェックしたところ、舞台と骨幹のストーリーは一緒ながら細部の展開にかなり異なる点もありましたので、きっと映画を観たことのある方も楽しめる舞台だと思います。

ただ、箱のキャパシティに対して音響効果が強すぎるのか、全体的に音が強すぎたり響きすぎたりして、かえって音楽や歌詞が聞き取りづらい印象を受けました。声量のあるキャストが多かったのも影響したのかも知れません。

以下、例により、まだ公演期間中なので核心に触れるネタバレは避けますが、主人公の重要な設定と、それから物語の結末にも若干言及しますので、未見の方はご注意ください。

まず『ゴースト』、様々なジャンルの要素はありますが基本はラブストーリーなので、メインのサムとモリーがかなりしょっちゅうハグやらキスやらでぎゅうぎゅう、チュッチュとやってます😊。

サムは彼女の前では肝心なことをなかなか口にしたがらない、やや古風でテレ屋で純粋な「男の子」な雰囲気で、銀行マンとして働く姿は真面目で熱心でキラキラしていて、でもごく普通の男性。浦井くんには合った役だと思います。ただ浦井くん、あれ?😅 こんなにスーツ似合わなかったっけ? と少し違和感を覚えてしまいました。『デスノート』で高校のブレザー制服を着ていた時はそんな風に思わなかったのですが。親友カール役の平間さんが割としっかりスーツ姿が決まっていたこともあり、意外な銀行マン・サムの印象でした。
とは言え浦井サム、演技と歌はもちろんバッチリで、シリアスもコメディも見事にこなし、モリクミさんがアドリブを仕掛けたと思われる場面でも、たまに耐えられず吹いたりはしていましたが基本はうまくいなしていて、いや、場数をこなして対応力が本当成長したなあ、と思いながら観ていました。……すみません、10年以上前の若手時代を知っているので、どうしても子供の成長過程を見守るような気持ちになってしまうのです。

秋元さんは初見でしたが声量もあり、悲劇に見舞われた中、懸命に自らを奮い立たせ、陶芸アーティストとして腕一本で健気に独りで生きていこうとする女性を好演していました。時々高音部で声が枯れたり詰まったりするのが気になりましたが、モリーは力強く歌い上げるナンバーが多いので、まあWキャストとは言ってもそろそろ疲れが出ているのかも知れないね、と考えながら聴いていました。

意外にも、と言っては失礼ですが良かったのはモリクミさん。
実は他の作品では悪目立ちしていると感じる時もありますが、今回の霊媒師オダ・メイははまり役だと思います。ケチな悪事を繰り返してきた似非霊媒師が突如として霊力に覚醒してしまった戸惑いと、そのために声はすれども姿は見えぬ、ゴーストと現世の人間とを媒介できる唯一の存在である彼女に逃げられぬよう必死のサムや、他のゴースト達にまで取り憑かれ振り回される恐怖、そしてセレブになれるかも? とぬか喜びする束の間の華やかな夢と妄想。どの姿のオダ・メイもオーバーアクションで大いに笑わせてちょっぴりしんみりさせてくれました。
サムとオダ・メイの、たまにどこまでがアドリブでどこまでが台本通りか分からなくなりそうな、ドタバタの掛け合いも楽しかったです。オダ・メイの耳元でノイジーな甲高い声で蚊の飛ぶ音やクレイジーな歌を囁き歌い続けるサムを演じる浦井くんがどこか楽しそうに見えたのは気のせいでしょうか。

この物語の、善玉は強い愛情とたゆまない努力とを重ねて奇跡を引き起こし、悪玉は同情の余地もなく徹底的に懲らしめられ滅びる、という展開は好き嫌いがあるかも知れません。
サム自身や病院のゴースト、はからずもサムの恩人(恩地縛霊?)となる地下鉄のゴーストのように理不尽に命を奪われ現世と冥界との間に留まる存在となったゴースト達と、私利私欲のために人の命を軽んじた結果地獄送りにされたゴースト達。どちらも市井に生きてきた普通の市民であり、紙一重な存在であるというのは何だか切なかったです。

しかし、そうは申しましても、クライマックスからエンディングに至る一連の幻想的な演出にはただ圧倒され目を奪われるばかりでした。
カップルの「再会」を彩る優しい青い光。一転して怒りで激しく燃え立つ青い炎と、悪党に襲いかかり容赦なく飲み込む闇の奔流。全てが終わった後にカップルと霊媒師を鮮やかながら再び優しく包み込む青い光が、ラストに向けて白い光に変わっていきます。
ラストの舞台装置を目にして、何故か井上芳雄くんと浦井くんが共演した『二都物語』を連想しました。『二都』では浦井くん演じるチャールズを守るために井上くん演じるシドニーが、星々の美しい光に照らされながら階段を昇りますが、今回は浦井くんが白く優しい光に包まれながら階段を昇っていきます。その時の浦井サムがまた、哀しくも愛に満たされた、何とも良い表情をしているのです! そして秋元モリーもまた同様。

最初に書いたとおり若干の音響の問題はありますが、真夏にふさわしい涙と笑いとスカッとするアクションたっぷりで、歌唱されるメロディも美しく、3時間近く、じっくり楽しめる舞台だと思います。
なお、最初のカーテンコールの後にもう一つお楽しみがあるので、これから観劇される方はカーテンコールが終わってもすぐに席を立たれないようお気をつけください。

『モーツァルト!』御園座大千穐楽感想(2018.8.19 12:30開演)

キャスト:
ヴォルフガング・モーツァルト=山崎育三郎 コンスタンツェ=平野綾 ナンネール=和音美桜 ヴァルトシュテッテン男爵夫人=涼風真世 セシリア・ウェーバー阿知波悟美 アルコ伯爵=武岡淳一 エマヌエル・シカネーダー=遠山裕介 アントン・メスマー=戸井勝海 コロレド大司教山口祐一郎 レオポルト市村正親 アマデ=大河原爽介

ありがたいことに、M!の大楽のチケットを友人に確保してもらえたので、脚を引きずりながら新幹線で名古屋御園座まで行ってきました。
御園座は赤と金に彩られ、正にM!のためにあるような劇場だね! コインロッカーはちょい少なめで、若干段差も多めだけど、お土産コーナーが充実していて退屈しない劇場だね! などと考えながら、いざ開演。

熱い舞台でした。特に2幕が。

とにかくコロレド猊下の「神よ何故」での感情の弾け方が、尋常ではなく熱かったです。
憎むべきヴォルフが創る音楽への執着の強さ故にレオポルトにぶつけられる、絶望と怒りに満ちた眼差しと絞り出される言葉。
「(神に愛された音楽を)傲慢うぬぼれ、愚かな男が創り出す!」
と絶叫した刹那にもたらされる、長い長い沈黙から、音楽の魔術に敬服する美しいファルセットへ。そしてショーストップ。

その猊下の熱さで化学反応が起きたのか、御前演奏会でのレオポルトも、本音では多分誰よりも息子の栄誉を称えてやりたいのに、どうしても自分を裏切った息子を許すことができないジレンマに満ちた、凄まじい父親の情念が爆発していました。
更にそれに触発されたのか、望む愛を得られないと半泣きで絶叫するヴォルフも、強烈なインパクトを放っていました。

そして、偶然を装い帰り道でまちぶせしてヴォルフを捕まえ*1、お前の行く先には破滅が待つだけ、と説得する猊下には、帝劇で観た時と同様、やはりレオポルトとはまた異なる、力強い父性を感じました。ヴォルフと猊下。永遠に相入れることのない2人。決して報われることのない父性。

キャストの皆様、大千穐楽だから熱すぎたというわけでもなく、崩しすぎることもせず、皆様好演されていたと思います。

ただ、大楽ならでは、かどうかは不明ながら、お遊び要素は結構ありました。
猊下は馬車の上でよろけて思い切り、壁ドンか?という勢いでアルコ伯爵に寄りかかってましたし、レオポルトパパに心なしかいつもより強烈なデコピンをお見舞いされた育三郎ヴォルフは、本気で痛そうでした。
あと、今思い出しましたが、育三郎ヴォルフが1幕のプラター公園のコンスと2人きりになってからの対話場面で、延々と逆立ちを繰り返しながら喋っていて、コンスに「まだやる? おおーっ!」と驚かれていました。

ほかのキャストについても少し触れておきます。

涼風男爵夫人は何だか凛々しさが増していたように見えました。ヴォルフを慈母のように優しく包み込んだり背中を押したりするというよりは、社交界を強かに泳ぎ回るキャリア女性としてぐいぐい引っ張っていたように思います。精神的に大人な育三郎ヴォルフには、このくらい強い男爵夫人の方が合っているかも知れません。

あまり引っ込み思案には見えない平野コンスは、今回も愛に飢えてもがき苦しんでいました。「ダンスはやめられない」で過剰な程に息苦しそうなのです。
今期、帝劇でのチケット運が悪く、結局平野さん以外のコンスタンツェも、香寿たつきさんの男爵夫人も観られなかったのがとても残念です。

遠山シカネーダーは、6月に帝劇で観た時にはどうしても吉野さんの面影を追ってしまい辛かったのですが、そういえば今回はそのように感じることはだいぶ少なかったなあ、と思い起こしています。
久々に観て思ったのは、彼はかなり「ぶれない人」なのだということ。前述のとおり舞台の上で思いがけない化学反応と言うか奇跡が起きる瞬間に立ち会えると、観客としては「ありがたや」な気持ちになるのですが、そういう瞬間が「ありがたや」になるのは秒刻みで進行する舞台を、高い技量で自らに課された役割をしっかり果たして安定的に支える人がいてこそであり、彼は正にそういう役割を果たそうとしている人なのだ、と今回感じた次第です*2。願わくば、このM!という作品において、もっと、例えば阿知波さんのセシリアママのように、そこにいるだけで自然に舞台の質を保証してくれるような頼もしい存在になって欲しいなあ、と思います。

……まだまだ書き足りませんが、この辺にしてカーテンコールの思い出に移ります。

楽のご挨拶は山口さんと市村さんからありました。何故この2人?
山口さんは、レオポルトの愛の込められたデコピンに言及し、ヴォルフとの父子の仲をいつも羨ましく眺めていました、と語られていました。
市村さんは、旧御園座の時代、46年前(数字はうろ覚え)に萬屋錦之介さんと中村嘉葎雄さんの兄弟公演の舞台に立った思い出を語り、また、今度は願わくば「市村座」でここに帰ってきたい、ということを仰っていました。
なお、御園座には図書室が併設されているのですが、どうもここに公演期間、市村さん、山口さんらM!キャストのサイン色紙が展示されていたらしいと後から聞きました。図書室は気になるけどどうせ日曜休館だし、と立ち寄らなかったことが悔やまれます。

最後にエプロンステージを全キャストがウォーキングしてお別れのご挨拶をされていました。今回は2階席でしたが、「もちろん」山口さんのお手振りと目線ビームはしっかりと2階まで届いておりました!
そして、最後の最後、幕が完全に降りた後にヴォルフとアマデからもご挨拶がありましたが、不覚にも当日のアマデちゃんのお名前をチェックできておりませんでした。多分爽介くんか美空ちゃんだったと思うのですが……。教えていただけるとありがたいです。
(2018.8.24 23:53追記大楽のアマデは爽介くんです、とTwitterのフォロワー様に教えていただきました。ありがとうございました!

ああ、これで今季のM!は終わってしまった。次回再び現キャストで猊下とレオポルトには出逢えるだろうか、とちょっとしんみりしております。待つ再演!

*1:すみません、妄想です!

*2:スター役者の皆様が高い技量で舞台を支えていない、という意味ではなく、果たす役割が異なっている、という意味です。